サバンナゾウの基本情報
英名:African Savanna Elephant
学名:Loxodonta africana
分類:長鼻目 ゾウ科 アフリカゾウ属
生息地: アンゴラ、ボツワナ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、エリトリア、エチオピア、ケニア、マラウィ、マリ、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、ルワンダ、ソマリア、南アフリカ、南スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
参考文献
象牙
象牙とはその名の通りゾウの牙。
ゾウの上顎第二切歯が発達したものです。
この象牙はこれまでおびただしい数の取引がなされてきました。
ゾウはその大きさから捕食者がほとんど存在しませんが、この象牙に対する人間の需要にだけは、その大きさをもってしても対応することができませんでした。
象牙は自然死したゾウからだけでなく、生きたゾウを殺しても取られます。
人間の象牙に対する欲は、何百万頭ものゾウを犠牲にしてきたのです。
象牙の消費は特に20世紀後半に旺盛になります。
アフリカゾウ(サバンナゾウとマルミミゾウ)はこの100年間で1,000万頭が約40万頭にまで減ったとされています。
特に1970~1980年代にかけては、アフリカゾウの個体数は半減したといわれており、このアフリカゾウの状況を危惧した世界各国は、1989年、第7回ワシントン条約締結国会議にてアフリカゾウをCITES付属書Ⅰに記載し、国際取引を原則禁止します。
この措置により、アフリカゾウの状況は少しずつ回復していきます。
しかし、それに対して不満に思う存在がありました。
アフリカゾウの生息国と、象牙の消費国です。
象牙はアフリカゾウが暮らす現地の人々の大事な収入であり、象牙の需要がある国にとっても経済価値の高いものとして失いたくないものだったのです。
そこで、ワシントン条約事務局は、1999年、ボツワナ、ジンバブエ、ナミビアの3国が、ある国に対してのみ、3国が保有する象牙50トンを1度だけ輸出することを認めます(ワンオフセール)。
その国とは、かつて最も象牙を消費していた、日本です。
1920年以降、日本はアジア産では賄えなくなった象牙の需要を、アフリカ産のもので満たすようになります。
1970年代には、日本は象牙の世界市場の約4割を占めるまでに至り、それ以降、少なくとも26万頭以上のゾウの象牙を消費してきたと推測されています。
また、1982年には消費量で香港を抜き世界一となっています。
日本において、象牙は奈良時代にはすでに使用されていたと考えられており、その後も着物の帯に小袋等を吊るす留め具である根付(ねつけ)や、三味線の撥として使われてきた歴史があります。
今でもその需要は存在し、国内に8,000店もの象牙販売店があり、象牙の多くは特に高級ハンコの原材料として使用されています。
その日本に対してのみ、象牙の輸出が認められたのです。
さらに、2008年には3国に加え南アフリカを含めた4国が、日本と中国に合計約100トンの象牙を輸出することが許可されます。
いくら回復傾向にあったといえ、寿命が長く繁殖スピードが遅いゾウにとって、これらの措置がどれだけ痛手となったかは想像に難くありません。
何にもまして好ましくないことは、日本が違法な象牙取引の温床となっている可能性があることです。
日本では現在、国際取引が禁止された1989年以前に日本にあり、かつ1本牙以外であれば合法象牙として登録できます。
こういった緩い規制のために、違法な象牙が簡単に取引されてしまうのです。
また、こうした象牙は海外に向けても秘密裏に輸出されているようです。
2011年から2016年にかけて、ほとんどが中国向けであった2.4トンの象牙が日本で押収されています。
現在世界では毎年20億ドルもの生物資源が違法取引されていますが、そのうちの半分を占める哺乳類の中で、ゾウは件数でその4分の1を占めています。
こういった状況から2016年、ワシントン条約(CITES)締約国会議は象牙市場の閉鎖を各国に提案しています。
古くから象牙への需要があったEUやアメリカ、そして2000年代に象牙の需要が日本を超えた中国含め、多くの国が国内の象牙市場を閉鎖する中、日本はまだ受け入れていません。
参考文献
ゾウの体
陸上最大生物であるゾウの体。
ほかのどの動物にも見られない彼らの特徴を見てみましょう。
鼻
ゾウといえば何といってもその長い鼻。
この鼻には4万~6万もの筋肉の束があるといわれ、100㎏のものを軽々と持ち上げることができます。
一方でリンゴをつぶさずに持つこともできるほどの繊細さも兼ね備えています。
アフリカのゾウの鼻の先には上下に突起があり、それを使って器用に物を掴むことができます。
ゾウの鼻は水を吸い上げることもできます。
一度に5リットルもの水を保持でき、その鼻をくちにやることで水を飲みます。
ちなみに、喉には咽頭嚢という袋があり、ここに水をためることができます。
顔・頭
ゾウの顔にはヒトの6倍以上の神経細胞があり、その半数は鼻の動きを制御しているといわれています。
また、鼻がついている頭は、それだけで500㎏に及びます。
その頭にはヒトの3倍以上にもなる、5.5㎏の脳が入っています。
ゾウの脳は、記憶や聴覚を司る側頭葉、記憶や空間学習を司る海馬、嗅覚を司る嗅葉が特に発達しています。
人類の脳は約200万年前から大きくなり始めたといわれていますが、ゾウの脳の肥大化は2,000万年以上前には始まっていたとされています。
この大きな脳のおかげか、彼らは水場の記憶を数十年保持でき、仲間の死を悼むことができます。
耳
大きなゾウの耳の主な目的は体温調節。
ヒトのように汗腺を持たないゾウは、耳をはためかせることでそこを通る血液を冷やし、体温を下げます。
そのため、ゾウの耳の皮膚は他よりも10分の1ほど薄く、2㎜程度しかありません。
足
イヌと同じく、ゾウはつま先立ち。
かかとの下の脂肪やコラーゲンでできたクッションで6トンにもなる体重を支えています。
また、この足で彼らは音を聞くこともできます。
音には空中を伝う音と地面を伝う音がありますが、ゾウは地面を伝う音をつま先の骨でキャッチし、それを骨伝導で内耳に伝えることができます。
彼らは地面からの音だけで、その音の意味を分かることができるようです。
歯
ゾウの歯は非常に特殊化しており、咬合面は洗濯板のように凸凹しています。
アフリカゾウ属の属名はこの歯に由来しています。
ゾウは下あごを前後に動かすことで、固い木々を砕いて食べます。
しかし摩耗が激しいため、歯は定期的に交換する必要があります。
通常、歯はヒトのように下から生えてきます(垂直交換)が、ゾウの場合はベルトコンベヤーのようにして歯を交換します。
摩耗した古い歯は前方に抜け落ち、後ろから来た新しい歯を使うのです。
これを水平交換といいます。
5歳までには抜け落ちる最初の臼歯は幅2㎝、長さ4㎝ほどですが、26歳ごろに生えてくる最後の歯、6番目の臼歯は幅約10㎝、長さは30㎝ほどにもなります。
サバンナゾウの生態
分類
かつてアフリカゾウと呼ばれていた種は、近年の分子研究によりサバンナゾウとマルミミゾウの2種に分けられていますが、自然界では雑種が存在します。
生息地
サバンナゾウは標高2,500mまでのサハラ以南のサバンナ、山地林、低木林、草原、半砂漠などに生息します。
形態
サバンナゾウは全長6~7.5m、肩高はオスが3~4m、メスが2.2~2.6m、体重はオスが4.5~7トン、メスが2~3.5トン、尾長は1~1.5mで、性的二型が顕著です。
前歯が発達してできた牙はマルミミゾウに比べて湾曲しており、一生伸び続けます。
牙はオスのほうが大きく、60歳の個体ではオスが約110㎏、メスが約40㎏ほどです。
長いものは3.5mにもなります。サバンナゾウの耳は大きく、縦2m、横1.5mのもなります。
食性
ゾウは草食動物です。サバンナゾウは葉や果実、草、木の根や枝、樹皮を食べます。
これをシロアリ塚やミネラルリックと呼ばれる場所から得られる塩などのミネラルが補います。
サバンナゾウは1日に少なくとも100㎏以上のエサ、200ℓの水を必要とします。
消化は主に盲腸や腸で行われ、24~54時間かかります。
若い植物などの消化率は40~70%、消化しにくい木などは10~40%です。
ゾウには天敵がほとんどいませんが、特にはぐれた若齢個体はライオンやブチハイエナ、リカオンなどからの捕食の危険があります。
行動
サバンナゾウは昼夜問わず、エサを求めて1日に平均10㎞を移動します。
エサの少ない乾季には40㎞近くも移動することがあるようです。
コミュニケーションは主に音声で行われます。ゾウには80種以上の音声があるといわれています。
中にはヒトが聞こえる20Hz以下の低周波の鳴音もあります。
低周波は減衰しにくいため、長距離コミュニケーションによく使われています。
社会
サバンナゾウは数頭のメスとその子供たちからな家族群を基本とした社会を作ります。
この群れは特に雨季に複数集まることがありクランと呼ばれる群れを形成します。
クランは200頭近くになる場合もあります。
群れの長はメス。
最も大きく最年長である場合多いです。
オスは繁殖の時期を除き、単独か、もしくはオスだけの群れを作り暮らします。
繁殖
サバンナゾウの繁殖に季節性は見られませんが、雨季に交尾することが多いようです。
オスもメスも複数の異性と交尾をします。
特にオスは繁殖期にムストと呼ばれる状態になります。
この間、オスは頬のあたりから液体を分泌し、尿も垂れ流してメスに繁殖の準備ができたことをアピールします。
また、攻撃性が増し、メスを巡った激しい闘争が繰り広げられます。
このムストの期間は年齢を増すにつれ長くなります。
メスの出産間隔は3-5年、妊娠期間は22か月。
約100㎏の赤ちゃんを通常1頭生みます。
赤ちゃんは母親だけでなく群れのメスからも世話を受けます。
4か月齢から植物を食べ始めますが、完全離乳は4歳ごろです。
15歳ごろ、オスは群れを出ていきますが、メスは群れにとどまります。
性成熟はオスもメスも11歳ごろですが、実際に繁殖できるのは20歳以降であることが多いようです。
寿命は約70年です。
人間とサバンナゾウ
絶滅リスク・保全
サバンナゾウは象牙を目的とした狩猟以外にも、生息地の破壊やスポーツハンティングといった脅威に直面しています。
アフリカゾウはいわゆるビッグファイブ(ゾウ、サイ、バッファロー、ライオン、ヒョウ)の一種で、その大きな牙はトロフィーとして多くのハンターを魅了してきました。
こういった娯楽を目的としたゾウの狩猟産業は南アフリカやジンバブエなどの国々に存在し、ゾウの脅威となっています。
この75年で半減したといわれるサバンナゾウの個体数は、現在、マルミミゾウ含めて約41万5千頭と推定されており、その数は今も減少傾向にあります。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されており、毎年2万頭以上の命が失われているといわれています。
この状況に対し、ワシントン条約(CITES)は、象牙などの違法取引を追うETIS(the Elephant Trade Information System)や、ゾウの死体を調査し、狩猟圧などを知るための情報を提供するMIKE(Monitoring the Illegal Killing of Elephants)といったプログラムを実施して保全に貢献しています。
先述の日本から2.4トンの象牙が押収されたという情報も、ETISを運営するTRAFFICによるものです。
動物園
サバンナゾウは全国約10の動物園で見ることができます。
広島県の安佐動物公園ではサバンナゾウだけでなく、国内で唯一マルミミゾウも見ることができます。
また、千葉県の市原ぞうの国や東京都の多摩動物公園ではアジアゾウも見ることができます。
ゾウ科には現在3種がいますが、それぞれのゾウの特徴をぜひ動物園で確かめてみてください。