アジルテナガザルの基本情報
英名:Agile Gibbon
学名:Hylobates agilis
分類:テナガザル科 テナガザル属
生息地:タイ, マレーシア, インドネシア(スマトラ島)
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
すばしっこいテナガザル
アジルテナガザルのアジル(agile)とは、英語で「素早い」という意味です。
ソフトウェア開発におけるIT用語に、素早さを重視した「アジャイル(agile)開発」という言葉がありますが、それと同じ単語が使われています。
アジルテナガザルは、その名の通り木々の間をすばしっこく移動します。
木々の移動にはブラキエーションという方法がとられます。
これは、長い腕と体を上手に使う移動方法で、私たち人間が遊具である「うんてい」で遊ぶ時と同じようにして、枝から枝へ、木から木へ移動します。
ただ、そのスピードは人間の比ではありません。
テナガザルは人間よりもずっと軽く、腕も長いです。
また、手も細長く、これを枝に引っ掛けるようにして移動します。
つまり、テナガザルは、サルの中でも樹上移動のスペシャリストなのです。
なので、人間世界のうんていならば、ものの2秒で渡りきってしまうでしょう。
しかし、二足歩行となると我々人間の方に分があります。
というのも、テナガザルも地上に降りたときなど二足歩行をしますが、その際、長い腕が邪魔なようでとてもブサイクな歩き方になるのです。
生物の体はその移動方法と密接に関係しています。
人間は地上、テナガザルは樹上に適した体の構造になっているんですね。
アジルテナガザルの生態
生息地
アジルテナガザルは、タイ南部、マレーシア半島北部、インドネシアのスマトラ島の熱帯常緑林などに生息します。
食性
昼行性のこのサルは、主に果実や若葉を食べ、そのほかにも昆虫などを食べます。
形態
体長は50㎝前後で、体重は5.5㎏ほど。
オスの方がやや大きくなります。
アジルテナガザルは体重だけでなく、見た目の上でも性差が存在します。
メスの白い部分が眉毛だけなのに対し、オスは眉毛だけでなく、ほほのひげも白くなります。
そのため、オスかメスか、簡単に見分けることができます。
行動
アジルテナガザルは、他のテナガザルのなかまと同様、1匹ずつのオスメスと、その子供から成るペア型の群れで暮らします。
各群れはなわばりを持ちますが、そのなわばりのアピールの仕方が特徴的です。
テナガザルのなかまは、なわばりのアピールのために歌を歌います。
歌というだけあって、オスメスはそれぞれ自分のパートを持ち、歌には前奏やサビがあります。
この歌は朝、10分以上続き、2㎞先まで届くほどの大音量で歌われます。
また、この歌はなわばりのアピールのためだけでなく、家族のきずなを深めるためにも歌われます。
愛は歌で作られているのです。
ちなみに下の動画は、オスによる悲しき独唱になります。
繁殖
アジルテナガザルの繁殖には明確な季節性は見られません。
メスは約7カ月の妊娠期間の後、通常1匹の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは母親にも父親にも育てられ、8歳で性成熟に達すると群れを離れます。
出産間隔は約40カ月、飼育下での寿命は約30年です。
人間とアジルテナガザル
絶滅リスク・保全
アジルテナガザルは、コーヒー、オイルパームのプランテーションによる森林の破壊や、ペット目的の密猟などの影響で、個体数を減らし続けています。
レッドリストでは、絶滅危惧ⅠB類に指定されており、更なる個体数の減少が危ぶまれています。
動物園
そんなアジルテナガザルですが、なんと日本でも会うことができます。
宮城県の八木山動物公園、長野県の小諸市動物園、愛知県の日本モンキーセンター、愛媛県のとべ動物園がアジルテナガザルを飼育しています。
運が良ければ彼らの歌声を生で聞けるかもしれませんので、是非足を運んでみてください!