アラビアオリックスの基本情報
英名:Arabian Oryx
学名:Oryx leucoryx
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 オリックス属
生息地:イスラエル、ヨルダン、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦
保全状況:LC〈軽度懸念〉

消えた砂漠のスペシャリスト
学名がギリシャ語で「白いアンテロープ」を意味するように、白いからだと黒い模様が特徴的なアラビアオリックス。
彼らは砂丘や不毛な大地に生息する、乾燥に強い動物です。
45℃もの気温に耐えることができ、最長半年、干ばつという過酷な環境でも生きのびることができます。
水は飲まずに植物から得ることでしばらく生きることができ、100㎞近く先の雨を感知することができるアラビアオリックスは、砂漠のスペシャリストとして知られています。
そんなアラビアオリックス、実は一度絶滅しています。
かつて彼らはクウェートからイラクまで、アラビア半島に広く生息していました。
しかし、過剰な狩猟により、20世紀初めにはすでにその生息地は縮小し、分断されていました。
そして個体数が減り続けた結果、1950年代には北部の個体群が絶滅、1960年代にはオマーンの中部および南部に残るのみとなってしまいます。
その後1972年、とうとう最後と思われる野生個体たちが殺され、アラビアオリックスは野生では絶滅してしまったのです。
しかし、彼らが野生で絶滅するよりも前から、彼らの保全活動は始動しており、野生絶滅後も飼育個体は存在しました。
その中にはのちに野生に復帰するものもいました。
オマーンでは1982年、サウジアラビアでは1990年、イスラエルでは1997年、アラブ首長国連邦では2007年、ヨルダンでは2014年から再導入が実施され、オマーンには10頭、サウジアラビアには600頭、イスラエルには110頭、アラブ首長国連邦には410頭、ヨルダンには80頭のアラビアオリックスが現在野生下で暮らしています。
一方で、依然として脅威は存在します。
再導入が最初に始まったオマーンには、1994年当時、約450頭が生息していましたが、現在の生息数が10頭と少ないのは密猟が原因です。
最初の再導入が行われた「アラビアオリックスの保護区」は、アラビアオリックスの保護区としてだけでなく、ヌビアアイベックスやオオカミ、ラーテル、カラカル、そしてアラビアガゼルといった哺乳類たちの重要な生息地でもありました。
こうした側面が評価され、この保護区は1994年、ユネスコの世界自然遺産に登録されます。
しかし、保護区はアラビアオリックスの密猟を止めることはできず、20世紀末には3年で少なくとも200頭のアラビアオリックスが殺されてしまいました。
こうした管理の難しさもあり、オマーン政府は保護区の約90%の縮小を決め、さらに域内での炭化水素の発掘を進めます。
その結果、2007年、保護区は世界遺産から抹消されてしまいます。
世界遺産からの抹消はこの保護区の例が初めてです。




密猟だけでなく、長く続く干ばつも大きな脅威です。
サウジアラビアのMahazt as Sayd保護区では、1999年から2008年の間に、通常より長い干ばつによって560頭ものアラビアオリックスが死んでしまいました。
しかし、こうした脅威にも負けず、その個体数は現在、安定ないし増加しており、一度は絶滅したアラビアオリックスは、今、再び息を吹き返そうとしています。

アラビアオリックスの生態
生息地
アラビアオリックスはステップや石の多い平原、砂丘、ワジと呼ばれる流水のない涸れ川などに生息します。
形態
体長は1.6~1.8m、肩高は0.8~1.2m、体重は100~200㎏、尾長は45~90㎝で、オスの方が大きくなります。
角は雌雄ともに生え、60~150㎝になります。

食性
草や低木など、様々な植物を食べます。
胃は他のウシ科動物同様4つあり、反芻します。
行動・社会
10頭程度の単雄複雌の群れを作ります。
オスはオスだけの群れを作ることもあります。
休息は木陰などにくぼみを掘ってそこで休みます。
繁殖
繁殖は年中見られるようです。
メスの妊娠期間は約8ヵ月で、通常1頭の赤ちゃんが生まれます。
明るい茶色の単色をした赤ちゃんは生後4.5ヵ月までに離乳し、2歳ごろ性成熟に達します。
寿命は飼育下で約20年です。

人間とアラビアオリックス
絶滅リスク・保全
野生のアラビアオリックスは約1,200頭いますが、飼育個体はアラビア半島を中心に6,000~7,000頭いるとされています。
脅威としては、干ばつや家畜の採食などによる生息環境の破壊や密猟があります。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されています。

動物園
アラビアオリックスは、日本では神奈川県横浜市の金沢動物園と、福岡県の福岡市動物園で見ることができます。