ホッキョクギツネの基本情報
英名:Arctic Fox
学名:Vulpes lagopus
分類:食肉目 イヌ科 キツネ属
生息地:カナダ、フィンランド、グリーンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈経度懸念〉
参考文献
北極のイヌ
高緯度のツンドラ地帯に生息するホッキョクギツネは、オオカミとともに最北のイヌ科動物として知られています。
彼らの生息地は−50度以下になることもあるほど極寒です。
寒い冬を耐えしのぐために、ホッキョクギツネは冬眠という方法を使わずに様々な適応を見せています。
ホッキョクグマやアザラシ、クジラなどは体を大きくし、体積に対する体表面積の割合を小さくすることで、主に寒さに耐えますが、ホッキョクギツネは主に被毛で寒さに耐えます。
その毛は非常に密で、1インチ四方に数百本の毛が生えています。
また、毛は耳や足の裏まで生えており、体温の低下を防ぎます。
被毛は年に2回変わり、冬には多くの個体が真っ白になります。
他にも、ホッキョクギツネの耳や吻部は他のキツネと比べると短く、空気に触れる面積を減らすことで熱が奪われるのを最小限に抑えます。
このように同じキツネでも高緯度になるほど肢や耳など体の出っ張りが短くなるという現象は、アレンの法則として知られています。
また、ホッキョクギツネは多産でも知られており、極寒の地で種が存続する重要なカギとなっています。
餌が豊富であれば、メスは一度に15匹近くの赤ちゃんを産むことができます。
赤ちゃんたちは雪の中などに掘られた巣穴に産まれ、両親によって育てられます。
秋になると子は巣立ち、家族は散り散りになりますが、巣がその何世代にもわたって使われることがあるというのは興味深いです。
そんなホッキョクギツネの主食は齧歯類。
特にレミングは彼らのエサの中でも重要で、地域によっては夏に食べるもののうち8割以上を占めることもあります。
また、レミングを主食とするホッキョクギツネの個体群は、レミングの多寡によって3~5年単位で変動しています。
彼らのレミングを捕食する方法は非常に独特です。
まず聴覚と嗅覚を使って雪の下にいる獲物の位置を正確に突き止めます。
すると次には上に向かって高く飛び、頭から雪に突っ込んで獲物を捕らえるのです。
このような狩りには経験が必要で、下の動画では若い個体が失敗を繰り返す様子を見ることができます。
この他、ホッキョクギツネは死肉も食べます。ホッキョクグマやオオカミ、クズリが食べ残したクジラやトナカイなどの死肉を食べるのです。
また、その食べ残しを狙って、ホッキョクグマの後をついていく様子もよく見られます。
最北の地で暮らすホッキョクギツネ。いわゆるキツネらしさも持ちつつ、賢く暖かく今日も極寒を生きています。
ホッキョクギツネの生態
生息地
ホッキョクギツネは北緯88度~53度の範囲にある標高3,000mまでのツンドラ地帯に生息します。
陸地だけでなく、沿岸から100㎞以上離れた沖合の氷上で見られることも普通です。
19世紀には毛皮目的でアリューシャン列島に導入されますが、現在は鳥類保護の観点から駆逐されつつあります。
形態
体長はオスが46~68㎝、メスが41~55㎝、体重はオスが平均3.5㎏(3.2~9.4㎏)、メスが平均2.9㎏(1.4~3.2㎏)、尾長が26~42㎝でオスの方が大きくなります。
被毛のタイプには白毛と青毛の2タイプがあります。
夏毛は周囲の色である灰色であることが多く、毛は冬と比べるとまばらになります。
食性
レミングなどの齧歯類を主食としますが、ホッキョクウサギやハクガンなどの鳥類とその卵、魚類、果実などを食べることもあります。
アカギツネなどのように餌の貯蔵もするようです。
行動・社会
単独性のホッキョクギツネは繁殖期にのみペアを作ります。
機会的捕食者である彼らは、エサを求めて広い範囲を行動します。
中には76日の間に3,500㎞も移動する個体もおり、彼らの移動力がうかがえます。
最高時速は45㎞ほどで、泳ぐこともできます。
防寒を被毛に頼るため、冬に泳ぐことはあまりありません。
繁殖
4月~7月にかけて繁殖が行われます。
繁殖期間は通常ペアが持続します。
メスは49~57日の妊娠期間ののち、体重50~65gの赤ちゃんを通常5~8匹産みます。
父親もエサを持ってくるなどして育児に参加します。
赤ちゃんは生後3~4週で巣穴を出始め、8週ごろ離乳します。
その後独立して巣を離れますが、オスの方が遠くに分散するようです。
性成熟は生後10ヵ月頃、寿命は野生で普通3~4年、最長で16年です。
人間とホッキョクギツネ
絶滅リスク・保全
ホッキョクギツネは数十万頭いると推測されており、絶滅は懸念されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、スカンジナビア半島など一部地域では減少傾向にあるようです。
彼らは今でもイヌイットなどの原住民にとっては、毛皮目的の狩猟の対象ですが、人口繊維の隆盛とともに毛皮の価値が落ちていることもあり、狩猟圧は大きくありません。
動物園
ホッキョクギツネを日本国内で見ることはできません。
最近では旭山動物園で飼育されていましたが、2023年に亡くなったようです。