書籍情報
書名:ボノボ 地球上で、一番人に近いサル
著者:江口絵里(フリーランスの編集者、ライター。フランス・ドゥ・ヴァ―ル『ヒトに最も近い類人猿 ボノボ』、ジェーン・グドール、ジャック・モイヤー『森と海からの贈りもの』などの編集に携わる。)
発行年:2008年
価格:1,200円(+税)
ページ数:206ページ
■目次
第1章 ボノボはヒトに一番近いサル
第2章 ボノボの一日、ボノボの社会
第3章 バラエティ豊かな性行動
第4章 子殺しのない平和な社会
第5章 言葉を話せるカンジ
第6章 ボノボの共感能力
第7章 ボノボという美しい写し鏡
第8章 ボノボの今
第9章 ボノボの楽園
第10章 心優しき隣人
ボノボの入門書
“……江口さんは、野生ばかりでなく飼育下のボノボ研究にもくわしくあたり、バランスよく紹介している。わかりやすい文章で書かれた本書は、ボノボの入門書ではあってもそれにとどまらず、読者は、現在のボノボ研究の相当な水準にまでせまれるはずである。(p197)”
ボノボ研究の第一人者である京都大学名誉教授の加納隆至が巻末で言うように、本書は分かりやすいけれども内容が豊富なボノボの入門書です。
ボノボというと、長い間チンパンジーであると言われてきた類人猿で、1929年、ようやく一つの種として認められたサルです。
彼らはチンパンジーとよく似ていますが、チンパンジーと違って日本で見ることはできず、知名度もほとんどないと思います。
そんなボノボについて、本書は彼らの社会や名前の由来、知られざる能力、習性など様々なことを教えてくれます。
本書ではボノボの他にチンパンジーやヒトが引き合いに出されることが多く、それによりボノボの特徴が浮き彫りになるだけでなく、私たち自身について考えることもできます。
人間は動物の中で最も賢いとつい驕ってしまいがちですが、第5章や第6章なんかを読むとそのような態度を反省してしまいます。
また、今のボノボを取り巻く環境についても触れられ、ここでも人間とはなんと愚かな生き物なのかと思ってしまいます。
このように私たち自身について考えると反省ばかりになってしまうのですが、著者はヒトに最も近いボノボを知れば、ヒトをそんなに悲観的に見なくてもいいのかもしれないと言います。
“人間はいま、地球上の動物の多くをおびやかす存在です。日本をふくめてほとんどの国は常に経済が発展しないと生きていけないような社会を作りあげ、それをまかないきれない自然環境に負担をかけ続けています。戦争でたがいを殺し合い、それがほかの動物の命をうばっています。地球上で人間はいま、悪者でしかないように思えてしまいます。
でもボノボという、私たちに一番近いサルは、私たちが共通の祖先から引きついだ贈り物の存在を教えてくれています。人間は自然本来の姿から大きくゆがんでしまった、ダメな生物というわけでもないんじゃないか。ボノボは私に、そんなことを思わせてくれました。(p178)“
本書はボノボの専門家によって書かれたものではありません。
しかし、だからこそボノボをあまり知らない人の視点に立てており、内容は非常にわかりやすく中学生でも理解できるほどです。
意外に知られていないボノボという類人猿。
私たち人間に最も近いサルを知ることで、私たち自身についても考えてみましょう。