ホッキョククジラの基本情報
英名:Bowhead Whale
学名:Balaena mysticetus
分類:鯨偶蹄目 セミクジラ科 セミクジラ属
生息地:北極海
保全状況: LC〈軽度懸念〉
参考文献
北極のクジラ
ホッキョククジラは名前の通り北極圏、および亜北極圏に生息するクジラで、北極圏に生息する唯一の大型クジラです。
英名のBowheadは、弓(bow)なりの口が特徴的な彼らの頭(head)を指しています。
北極海で暮らす彼らにとっては、極寒の海もへっちゃらです。
その理由の一つは、彼らが巨大であること。
熱が逃げる表面積は体長の2乗に比例するのに対し、熱を産む体積は体長の3乗に比例します。
ということは、大きくなればなるほど体の大きさのわりに熱を放出しなくなります。
ホッキョククジラは体長は最大で18m、体重は100tにもなる巨体です。
これだけ大きいので、産む熱に対し逃げる熱を限りなく小さくすることができるのです。
彼らが寒さに耐えられるもう一つの理由、それは脂肪です。
極圏に住む哺乳類は、密度の濃い被毛によって寒さに耐えます。
特に最小の海生哺乳類であるラッコは、哺乳類では最も密な被毛を持っており、これにより極寒の海に耐えることができます。
しかし被毛はお手入れが大変です。
ラッコは起きている時間の3割もの時間を被毛の手入れに充てているといわれています。
一方、鯨類において手は胸びれとなり足は退化しており、被毛があっても手入れできません。
そこで彼らは皮下に脂肪を蓄え断熱材とする手段を取ります。
この脂肪は脂皮(ブラバー)と呼ばれ、イルカで1~3㎝、ナガスクジラで5~10㎝の脂皮を持ちます。
それではホッキョククジラではどうでしょうか。
なんと彼らは50㎝にもなる脂皮を持ちます。
極寒の北極海を彼らが優雅に泳げるのも納得です。
ところで、現在地球温暖化の影響で北極の氷は解け、いずれ夏には完全に氷がなくなるといわれています。
ホッキョククジラは50㎝の海氷を割ることができるので、海氷がある海で暮らすのが今まででしたが、今後海氷がなくなったらどうなるのでしょう。
これ以上寒いところはないので、人間であれば服を脱ぐしかないのですが、ホッキョククジラの場合、体は小さく、脂皮は薄くなっていくのでしょうか。
地球温暖化の影響を彼らがどれだけ受けるかは不明ですが、長期的には悪影響を受けるのではないかと言われています。
YouTube | Bowhead Whale Research Drone Video 2016(Storyful News & Weather)
ホッキョククジラの生態
生息地
温暖化の影響で、近年では海氷がない地域にもあらわれるようになってきています。
個体群は4つ知られています。
ベーリング海-チュクチ海-ボフォート海の個体群、東カナダ-西グリーンランドの個体群、東グリーンランド-スバールバル諸島-バレンツ海の個体群、オホーツク海の個体群で、このうちオホーツク海の個体群は地理的、遺伝的に他とは隔離されていることがわかっています。
形態
体長は12~18m、体重は75~100㎏超でセミクジラよりもがっしりとしています。
背びれはなく、セミクジラに見られるカロシティはありません。
ひげ板はヒゲクジラ類では最も長く、最長5m。
片側に250~350枚生えています。
食性
カイアシ類やオキアミ、アミ類、ヨコエビなどを1日2t食べます。
長いひげ板を使ってスキムフィーディングという方法で採餌します。
行動・社会
1頭~数頭で行動します。
ブリーチングやスパイホップ、尾びれ、胸びれたたきなどの水面行動を行います。
海氷の存在もあり、長いと1時間ほど潜水できるようです。
ホッキョククジラは回遊性で、回遊はエサの量と海氷の状態に影響されるようです。
冬には海氷がある海で、主に海底で採餌します。
春になると冬には行けなかった場所に氷を割りながら移動します。
ホッキョククジラはソングを歌うことで知られています。
ザトウクジラでは同じ海域のオスは同じようなソングを歌いますが、ホッキョククジラの場合、同じ海域でも様々なソングが歌われるようです。
繁殖
オスもメスも複数の相手と交尾していると考えられています。
メスは13~14ヵ月の妊娠期間ののち、4月から6月にかけて1頭の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは体長4~4.5m、体重は1tで、セミクジラに比べるとゆっくりと成長していきます。
生後9~12ヵ月で離乳し、性成熟には20歳ごろ達します。
寿命について、200年以上生きる個体がいることがわかっています。
これは哺乳類では最長記録です。
人間とホッキョククジラ
絶滅リスク・保全
16世紀から始まる捕鯨の影響で、かつてホッキョククジラは個体数を激減させました。
カナダのベルアイル海峡やセントローレンス湾では16世紀から17世紀の間に2.5万~4万頭のホッキョククジラが捕獲されたと推測されています(ちなみに最近まで捕獲されたのはタイセイヨウセミクジラだと言われていた)。
しかし現在、一部の個体群では捕鯨前の個体数並みに増えるなどの回復を見せており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
全体の個体数は2.5万頭以上と推測されていますが、オホーツク海の個体群は200頭程度と、個体群レベルでは絶滅の危機にある場合もあります。
動物園
ホッキョククジラを飼育しているところは世界のどこにもありません。
彼らの大きさ、食べる量、移動距離、生息環境を考慮しても、今後彼らが飼育されることはないでしょう。