カナダオオヤマネコの基本情報
英名:Canada Lynx
学名:Lynx canadensis
分類:ネコ科オオヤマネコ属
生息地:カナダ, アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉
カンジキウサギ
カナダオオヤマネコは、食料の60~97%を、分布を同じくするカンジキウサギに依存しています。
このカナダオオヤマネコとカンジキウサギには面白い関係があります。
それを表したものが下のグラフです。
これはカナダオオヤマネコとカンジキウサギの個体数の変動をグラフにしたものです。
見ると分かるように、どちらもその変動には周期性が見られます。
そして、面白いことにカンジキウサギの増減に遅れるように、カナダオオヤマネコの個体数は変動しています。
このことを最初に明らかにしたのは、19世紀当時、カナダオオヤマネコなどの毛皮取引を独占していたハドソン湾会社の狩猟報告書に基づく統計表でした。
その後、エルトンらの研究により、カンジキウサギとそれを食らうカナダオオヤマネコの個体数は約10年周期で振動していることが分かりました(二つの個体群が同じ周期で振動することを共振動と言う)。
変動は非常に激しく、カンジキウサギの生息密度のピーク時には1㎢あたり2300頭にも昇りますが、その2,3年後にはたった12頭まで落ち込みます。
なお、この個体数の変動はカナダの数百kmもの範囲にわたって同調しています。
このような共振動は、捕食‐被食関係で説明されることがあります。
ここで言うならば、それは被食者であるカンジキウサギが増えると、それを食べるカナダオオヤマネコは増える。
食べられることでカンジキウサギが減れば、それを食べるカナダオオヤマネコも減るといった説明になるでしょう。
しかし、クレブスら後の研究者たちの研究により、カナダオオヤマネコとカンジキウサギの個体数の共振動は、単純な2種間の捕食‐被食関係が原因ではなく、他の生物の影響など様々な要因が関係していることが分かり、その実態は複雑であることが判明しました。
カンジキウサギにもえさとして食べるものがありますし、カンジキウサギを捕食するのはカナダオオヤマネコだけではないことを考えると、当然かもしれません。
余談ですが、20世紀初頭まで、キリスト教世界では、全能の神が創った完璧な自然界には動物の数の大変動などという調和を乱すようなことがあるはずがないと考えられていました。
しかし、研究が進んだ今では生物の3割に個体数の周期変動が見られることが分かっています。
ちなみに、カナダオオヤマネコとカンジキウサギの個体数振動は、世界で最も詳しく研究されてきたものの一つです。
カナダオオヤマネコの生態
生息地
カナダオオヤマネコは、カナダ及びアメリカ合衆国の針葉樹林に生息しています。
地上で生活しますが、木登りや泳ぎもできます。
食性
先述のように主食はカンジキウサギですが、特に夏は鳥類や齧歯類も食べます。
形態
体長は67~110㎝、体重は7~17㎏、しっぽの長さは5~17㎝で、オスの方がやや大きくなります。
カナダオオヤマネコの体は、雪の上での生活に適応しています。
例えば長い足は雪の上での移動を可能にしています。
また、足先は大きく、カナダヤマネコよりも南方に分布し、見た目がよく似たボブキャットの2倍ほどもあります。
これにより、深い雪に足を奪われることなくスムーズに歩くことができます。
行動
カナダオオヤマネコは、基本的に夜に狩りをします。
行動範囲はカンジキウサギの密度によって変わり、8~738㎢と幅があります。
なわばりは緩やかで、その境界は尿や糞でマーキングされます。
行動域はオスとメス、メス同士では重複しますが、遭遇は回避されるようです。
カナダオオヤマネコは単独で行動しますが、特に獲物が少ない時にはメス同士がグループになって狩りをすることもあります。
繁殖
カナダオオヤマネコの繁殖には季節性が見られ、交尾は2~4月に行われます。
オスは鳴き声とにおいを頼りにメスを探し求め、時に他のオスと対立することもあります。
下の動画では2頭のオスが喧嘩する様子を見ることができます。
すごい鳴き声です。メスは年に1度、数日間だけ発情し、56~70日の妊娠期間の後、通常3~4頭の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんが生まれるとオスは追い払われるので、育児はもっぱら母親の仕事です。
約200gで産まれた赤ちゃんは、生後約5ヶ月で離乳し、約10カ月で独り立ちします。
性成熟には生後21~33ヶ月で達し、寿命は野生で最長16年、飼育下では最長26.9年です。
人間とカナダオオヤマネコ
絶滅リスク・保全
カナダオオヤマネコは、生息地の破壊や分断、分布を北に広げるコヨーテやボブキャットとの競争など、様々な危機に面してはいますが、生息域が広く個体数も安定していると考えられているため、レッドリストでは絶滅の危機に関して軽度懸念とされています。
また、200年以上続く毛皮目的の狩猟も、カナダでは政府による免許や割当などの規制が効いているため、彼らの生存を危機に陥れるには及んでいません。
動物園
そんなカナダオオヤマネコですが、残念ながら日本では見ることができません。
しかし、先ほども登場した、見た目のよく似たボブキャットには、兵庫県神戸市の王子動物園で見ることができます。
オオヤマネコであればなんでもいいやという方は是非訪れてみてください。