ハンドウイルカの基本情報
英名:Common Bottlenose Dolphin
学名:Tursiops truncatus
分類: 鯨偶蹄目 マイルカ科 ハンドウイルカ属
生息地: 北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋
保全状況: LC〈軽度懸念〉
参考文献
賢い鯨
水族館の人気者、ハンドウイルカは、彼らがショーを演じることができることから明らかですが、かなりの知能を持った賢い哺乳類です。
例えば、鏡に対して頻繁に反応することや、マークテスト(体にマークを付けた状態で鏡を見せ、そのマークに反応するか確かめるテスト)に合格したことなどから、彼らには鏡の中の自分を認知する能力である鏡像認知の能力があることが知られています。
鏡像認知能力は、類人猿やゾウ、鯨類ではシャチなど、限られた動物でしか確認されていません。
社会的なハンドウイルカにとっては、自分と他者を区別する能力が必要なのかもしれません。
ハンドウイルカの賢さは模倣にも見て取れます。
例えば、彼らはウミガメやサメの泳ぎ方をまねするということが知られていますし、水族館では歩いたりパイプを吸ったりという人の動きを真似できるという報告もあります。
このように、高い知能を持ったハンドウイルカですが、その能力は採餌の時に最も明確に表れると言っていいかもしれません。
例えば、彼らは尾びれで海底をたたいて泥を巻き上げ、そこから逃げようとする魚を捕らえます。
尾びれで直接魚を空中にたたき上げる方法もあります。
他にも、魚を岸近くに追い込み、半ば浜に自らも打ちあがる形でとらえることもします(ストランドフィーディング)。
また、彼らは人間の漁によってとらえられる魚を抜き取ることもするようです。
さらにさらに、彼らは狩りの時に道具を使用するという、類人猿以外の哺乳類では極めて珍しい方法も取ります。
シェリングと呼ばれる採餌方法では、ハンドウイルカはまず魚を貝殻の中に追い込みます。
そして魚の入った貝殻を水上まで持ち上げたうえで、それをゆすり、落ちた魚を捕食します。
また、スポンジングという方法では、エコロケーションで捉えづらい岩場の多い海底に潜む魚を探す際、傷つけないように海綿でくちばしを覆って採餌します。
面白いことに、このような方法は母親だけからでなく、同世代の個体からも伝わるようです。
ハンドウイルカの賢さは、彼らの社会性と密接にかかわっています。
ちなみに、脳みその話をすると、イルカ類の脳にはしわが多いことがわかっています。
ハンドウイルカの脳の重さは約1.6㎏とヒトよりやや重く、脳の神経細胞は100億~200億個とヒトの140億個に匹敵する数です。
脳だけを見ると、ハンドウイルカがヒト並み、場合によってはそれ以上の能力を持っていてもおかしくはありません。
ハンドウイルカの生態
生息地
南緯55度から北緯45度まで、温帯から熱帯にかけて海面温度が10~32℃の海域に生息します。
沿岸に生息する個体群もいれば、沖合で暮らす個体群もいます。
形態
体長は1.9~4.3m、体重はオスが650㎏、メスが260㎏でオスの方が大きくなります。
また、沿岸の個体の方が沖合のものよりやや小さい傾向にあります。
食性
サバやマグロ、ボラ、イワシなどの魚や、タコやイカなどの頭足類を主食とします。
採餌には様々な方法があり、道具使用も認められます。
捕食者にはシャチが知られています。
行動・社会
ハンドウイルカは、平均2~15頭の小集団で暮らし、これらが離合集散をすることで最大1,000頭以上にもなる群れを作ることがあります。
沖合の個体群は比較的広い生息範囲を持ち、移動をする一方、沿岸個体群は世代にまたがって同じ海域に生息する傾向にあります。
また、オスはメスを確保するために2~3頭の同盟を組むことがあり、関係は20年以上続くことがあるようです。
泳ぎながら低いジャンプを繰り返すポーパシングなどの水面行動が盛んです。
彼らの鳴音はよく研究されており、エコロケーションに用いるクリックス、クリックス以外のパルス音であるバーストパルス、同盟を組むオスたちがメスに出すポップ音、個体特有のシグネチャーホイッスルを含むホイッスルなどがあります。
繁殖
発情周期は29~42日、出産間隔は1~6年、妊娠期間は約12ヵ月で、体長0.8~1.4m、体重14~20㎏の赤ちゃんを一頭生みます。
飼育下の個体では生後3~5ヵ月で固形物を食べ始め、9~12ヵ月には完全離乳するようですが、野生では2~3歳まで母乳を飲んでいる場合もあります。
母乳の成分は14%が脂肪、12~16%がタンパク質、残りが水分です。
性成熟にはメスが8歳前後、オスが8~11歳で達するようです。
寿命は40年ほどです。
人間とハンドウイルカ
絶滅リスク・保全
ハンドウイルカには、混獲や狩猟、海洋汚染などの脅威が存在しますが、種全体では少なくとも75万頭以上が生息していると推測されており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
日本では例えば壱岐・対馬周辺ではブリの一本釣りの被害対策として1970年代から約20年の間に5,000頭以上のハンドウイルカが捕獲されています。
また、1980年からはライオンの飼料としての販路が開け、捕獲数は急拡大します。
その後、捕獲数は減少していきますが、現在もハンドウイルカの捕獲は行われています。
その大部分は和歌山県太地町の追い込み漁です。
2022年漁期の捕獲実績78のうち74が和歌山県の追い込み漁によるものとなっています。
水族館での飼育・展示のために生体も捕獲されています。
和歌山県太地町では2010~2014年に追い込み漁で捕獲された1,019頭のハンドイルカのうち、486頭が生きたまま出荷されています。
水産庁 | 「第4回 捕鯨捕獲調査に関する検討委員会」の開催について
動物園
ハンドウイルカは世界で最も飼育されている鯨類の一種です。
日本でも全国各地の動物園で飼育されており、イルカショーの主役になっています。
日本で初めて飼育されたイルカはこのハンドウイルカです。
1930年、静岡県の中之島水族館、現在の伊豆・三津シーパラダイスがハンドウイルカの飼育を始めました。
当時、ハンドウイルカの和名がなかったため、「シャチ」として展示されたようです。
ここでは現在もハンドウイルカのエサやり体験などができるようなのでぜひ足を運んでみてください。