ワタボウシタマリンの基本情報
英名:Cotton-top Tamarin
学名:Saguinus oedipus
分類:オマキザル科 タマリン属
生息地:コロンビア
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
まるで原住民族
ふさふさした白い頭の毛、黒い顔の模様のような白いライン。
ワタボウシタマリンの風貌は、アメリカ大陸やオセアニアなどの原住民族の姿を想起させます。
原住民族と言えば、勝手に侵入してきた異国の民により迫害され、次第に数を減らしてきた歴史がどこの国でもありますが、このワタボウシタマリンも現在似たような状況にあります。
ワタボウシタマリンは、コロンビア北西部のごく限られた地域の森にしか棲んでいません。
しかし、その森は人間の活動によって破壊され続けています。
彼らの生息する森林の中には、元の7割以上も失ったところもあります。
また、1960年代終わりから1970年代初頭には、2万~3万頭が研究のためにアメリカに送られました。
これらの結果、現在なんと6,000匹ほどしか生存していないと言われています。
レッドリストでは絶滅危惧ⅠA類に指定されており、もっとも絶滅に近いサルの一つです。
人間という侵入者により数を減らすワタボウシタマリン。
私たちも動物にとっては侵入者なのです。
オイディプス王
このサルの学名に注目してみてください。
学名は属名+種小名で構成されていますが、このサルの種小名は“oedipus”となっています。
これはギリシャ神話に登場するオイディプスの事です。
オイディプスは父を殺して母と結婚し、子どもを産ませた話で有名で、フロイトのエディプスコンプレックスの語源にもなっています。
ではなぜワタボウシタマリンの学名にこの名前が付けられているのでしょうか。
このサルの学名は分類学の父であるカール・フォン・リンネがつけました。
ところが、なぜリンネがワタボウシタマリンにオイディプスの名をつけたのかは分かっていません。
そもそも“oedipus”とは、「腫れた足」を意味しますが、このサルの足は特に腫れているわけでもありません。
一説によると、リンネがオイディプスの話を戯曲にした、古代ギリシャ三大悲劇詩人の一人、ソポクレスによる『オイディプス王』が大好きだったことからその名をつけたそうです。
適当すぎます。
ワタボウシタマリンの生態
生息地
ワタボウシタマリンは、コロンビア北西部の乾燥落葉林や低地林などに生息します。
ほとんどを樹上で過ごし、四足歩行やヴァーティカル・クリンギング・アンド・リーピングで移動します。
食性
昼行性のこのサルは、果実と昆虫を主食とし、その他に蜜や小動物なども食べます。
形態
体長は約25㎝、体重は約400g、しっぽの長さは30~40㎝です。
このサルは他のマーモセットのなかまと同様、多くのサルが持つ平爪ではなくかぎ爪を持っています。
行動
ワタボウシタマリンは、2~15頭から成る群れを作ります。
群れは優位なペアとその子供の他、群れの行動域を超えて移動する劣位の複数の個体(ヘルパー)から成ることが多いです。
群れはなわばりをもち、臭腺から出るにおいでマーキングします。
コミュニケーションにはこのにおいの他、多彩な音声やグルーミングなどが使われます。
繁殖
ワタボウシタマリンは、優位のメス1匹だけが1年に2度出産します。
メスの排卵周期は約15日で、妊娠期間は約140日です。
通常双子の赤ちゃんが生まれ、赤ちゃんは母親だけでなく群れのメンバー全員に世話されます。
そして、生後1.5~2年で性成熟に達します。
寿命は飼育下で約23年です。
人間とワタボウシタマリン
動物園
先ほど述べた通り絶滅が危惧されているワタボウシタマリンですが、意外にも日本全国の動物園で見ることができます。
秋田県の大森山動物園、茨城県のかみね動物園、東京都の上野動物園、石川県のいしかわ動物園、愛知県の日本モンキーセンター、兵庫県の神戸どうぶつ王国、鹿児島県の平川動物公園などがワタボウシタマリンを飼育しています。
是非近くの動物園で、個性的な姿をしたワタボウシタマリンを観察してみてください!