ダマガゼルの基本情報
英名:Dama Gazelle
学名:Nanger dama
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ダマガゼル属
生息地:チャド、ニジェール
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉

最も絶滅に近いアンテロープ
コントラストの効いた体色が特徴的なダマガゼルは、最も絶滅が懸念されているアンテロープの一種です。
かつて彼らはサハラ砂漠の南縁のサヘル地域を中心に、大西洋からナイル川まで、セネガルやモロッコからエジプト、スーダンまで広く生息していました。
しかし、彼らが現在生息するのは、かつての分布域の1%以下。
チャドとニジェール、合わせて4ヵ所のみで野生個体群が確認されています。
野生の個体数は極めて少なく、100頭以下と推測されることもあります。
現在も半数以上が生息するとされるチャドの生物保護区(Ouadi Rimé Ouadi Achim Faunal Reserve)において、1970年代には1万~1万2千頭いたとされるダマガゼルは、現在50~60頭程度しかいないと推測されているほど、その減少傾向は著しいです。
彼らをここまでの窮地に追いやった要因はさまざまありますが、狩猟によるところが大きいです。
彼らの生息地となっている国々では、政治的に不安定であるところが多く、人々の狩猟を管理することが難しいのが現状です。
また、そうした国々では武器が多くの人の手元にわたるため、これもダマガゼルの密猟を助長してしまいます。
例えば内戦により国が分裂したスーダンではすでにダマガゼルが絶滅していますが、これはこうした背景による狩猟によるところが大きいと考えられます。
このような危機的状況に対して、世界的な保全活動が行われています。
生息域外に何らかの形で存在するダマガゼルは2,900頭いるとされ、例えばアメリカでは保全や狩猟、減税などを目的として1,500頭が農園で飼育されています。
また、800頭以上が世界中の動物園で飼育されており、ダマガゼルの遺伝子ストックとして重要視されています。
一方で、ここでも政治的不安定さの負の側面がその影を見せます。
かつての生息地であるモロッコでは160頭が保護区内に生息し、再導入が目指されていますが、2015年、野生に放された個体がノイヌや密猟者によって殺され、一度計画が頓挫しています。
また、野生個体が生息するニジェールの保護区(Termit & Tin Toumma National Nature Reserve)では、2023年7月におきた軍事クーデター以降、保全活動がままならない状況となっています。
心配なのは政治的なことにとどまりません。
これだけ個体数が少なくなると、遺伝的多様性の問題も出てきます。
遺伝的多様性に欠けた集団が、野生に帰されて生存していくことは難しいかもしれません。
ダマガゼルがかつての生活を取り戻すためには、まずは彼らの生息国の安定が第一でしょう。

Dama gazelle | Sahara Conservation
Dama Gazelle (Nanger dama) Conservation. Strategy 2019-2028 | Sahara Conservation
ダマガゼルの生態
分類
体色パターンによって3亜種に分けられてきましたが、現在その分類には遺伝的な裏付けはないことがわかっています。
生息地
ダマガゼルは草原や木がまばらに生えるサバンナ、砂漠周辺のステップなどに生息し、完全な砂漠は避けます。
形態
体長は1.4~1.7m、体重はオスが40~75㎏、メスが35~40㎏で、ガゼルでは最大となります。
角は雌雄に生え、オスの方が大きいです。
オスの角は25~35㎝です。

食性
ブラウザーよりの彼らは葉や花、蕾、樹皮、果実などを食べますが、草を食べることもあります。
捕食者にはセグロジャッカルやチーター、ブチハイエナ、ライオン、リカオン、ヒョウなどがいます。






行動・社会
10頭程度の単雄複雌の群れを作ります。
オスは繁殖期にはなわばり性が強くなり、糞尿や目の下にある臭腺からの分泌物でマーキングします。
季節移動をするダマガゼルは、雨季にはサハラの高原に、乾季にはサヘルの開けた草原で暮らします。
高い位置の餌を食べるため、ジェレヌクのように後肢で立つことがあります。

繁殖
繁殖は8月~10月にかけて行われます。
メスの妊娠期間は5.5~6ヵ月で、通常1頭の赤ちゃんが生まれます。
子供は3~4ヵ月で離乳し、1~2歳で性成熟に達します。
寿命は野生では12年ほど、飼育下では15年以上生きる個体もいます。

人間とダマガゼル
絶滅リスク・保全
ダマガゼルは、密猟や家畜との競合、生息地の破壊などによって、特に1950年代以降、個体数を激減させてきました。
現在は100~250頭程度しか野生に生存していないと推測されています。
IUCNのレッドリストでは、最も厳しい評価である絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
また、ワシントン条約(CITES)では、附属書Ⅰに記載されています。

動物園
日本ではダマガゼルに会うことはできません。
