ヤブノウサギの基本情報
英名:European Hare
学名:Lepus europaeus
分類:兎形目 ウサギ科 ノウサギ属
生息地:(元の生息地)アルバニア、オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イラン、イラク、イスラエル、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、モルドバ、モンテネグロ、オランダ、北マケドニア、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スイス、シリア、トルコ、ウクライナ、(元の生息地外)アルゼンチン、オーストラリア、バルバドス、ボリビア、ブラジル、カナダ、チリ、グレナダ、アイルランド、カザフスタン、ニュージーランド、パラグアイ、スウェーデン、イギリス、アメリカ合衆国、ウルグアイ
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
ヨーロッパのノウサギ
ヤブノウサギはヨーロッパに生息するノウサギのなかまですが、彼らはオーストラリアやカナダ、アルゼンチンなど、もともとの生息地以外の場所にも存在します。
それは、人間が狩猟を楽しむために、その標的として世界各地にヤブノウサギを持ち込んだからです。
ヤブノウサギはウサギの中では比較的大きく、時速60㎞以上で走ることができ、さらに高さ、幅で2m以上のジャンプをすることができます。
そんな機敏な彼らを捕らえる遊戯は、西洋人にとっての貴重な楽しみの一つで、そんな楽しみを入植した先でも味わうために、ヤブノウサギを各地に持ち込んだのです。
こうしたヤブノウサギの本来の生息地とは異なる場所への導入は、大航海時代よりさらに昔にさかのぼることができます。
時はローマ帝国がイギリスを支配していた1~5世紀、ローマ人は故郷に生息していたヤブノウサギをイギリスに導入します。
この時、ヤブノウサギの他に、ある動物もともにイギリスに連れていきます。
それがイエイヌ、品種はグレイハウンドです。
グレイハウンドは、その名前の由来ともされる古代ギリシャで、まさにウサギなどの小動物を狩るために作られました。
このグレイハウンドがヤブノウサギを狩る様子を見るために、ローマ人はわざわざ大陸からイギリスに彼らを持ち込んだのです。
このようなローマ人の趣味は円形闘技場などにも見ることができるでしょう。
ところで、このように人間とのかかわりが深いヤブノウサギですが、家畜化はされていません。
もちろん家畜化の試みはされてきましたが、繁殖させるのが難しく成功に至っていません。
同じような理由で各地に導入されており、ウサギで唯一家畜化されているアナウサギのなかま、ヨーロッパアナウサギとは異なり、ヤブノウサギはストレスに強くなく、感染症などの病気にもかかりやすく、さらに子供の死亡率が高いとされています。
人間の思い通りにはならないというヤブノウサギの断固たる決意が感じられます。
ヤブノウサギの生態
生息地
ヤブノウサギは標高2,400mまでの、開けた草原や牧草地などに生息します。
形態
体長は55~65㎝、体重は3~5㎏、耳は11~14㎝、しっぽは7~11㎝、後足は13~16㎝になります。
食性
生息環境や季節に応じて、草本類、木本類などの植物を食べます。
捕食者にはキツネやオオカミ、コヨーテ、猛禽類などが知られています。
行動・社会
薄明薄暮性、ないし夜行性で、日中はフォームと呼ばれる植物や岩影のくぼみで休息します。
主に単独性ですが、他個体の存在には寛容で、場所によっては複数みられる場合もあります。
繁殖
繁殖は冬の中頃から夏の中頃にかけて行われます。
メスは年に平均3回出産します。
妊娠期間32~42日で、100gほどの赤ちゃんを一度に通常2~5匹、最大で8匹産みます。
赤ちゃんは生後1ヵ月ごろ離乳し、約4~12ヵ月齢で性成熟に達します。
野生で生きのびる個体は、長いと8~12年生きるとされています。
人間とヤブノウサギ
絶滅リスク・保全
ヤブノウサギは1960年代以降、減少傾向にあるとされています。
主な理由は農業の過熱化、EBHS(European Brown Hare Syndrome)などの病気の蔓延です。
また、他の地域から導入された個体が、もともとそこに生息しているヤブノウサギの遺伝的多様性に影響を与える可能性があることも問題とされています。
全体的にみると現状のヤブノウサギの個体数や分布域は絶滅を懸念するほどではなく、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
動物園
ヤブノウサギを日本で見ることはできません。