アナウサギの基本情報
英名:European Rabbit
学名:Oryctolagus cuniculus
分類:兎形目 ウサギ科 アナウサギ属
生息地:フランス、ポルトガル、スペイン、アルバニア、アルジェリア、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チリ、クロアチア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、モロッコ、ナミビア、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、南アフリカ、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカ合衆国
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
参考文献
コインの表と裏
イエウサギ(カイウサギ)の野生種でもあるアナウサギは、その名の通りウサギ科の中では最も穴居生活に適応したウサギです。
ワーレンと呼ばれる地下に掘られたトンネルは、大きなもので出入り口が150以上、総延長距離は500mを超えます。
こうしたトンネルや穴は、他の生物の住処になりますし、掘られることで土地は肥沃になり、その地に育つ植生を支えます。
このように環境を物理的に変えることで他の生物種に影響を与える種を生態系エンジニアと呼び、ビーバーやサンゴなどが代表的です。
アナウサギは生態系において別の面でも重要な役割を果たしています。
彼らの現在の主な生息地はイベリア半島ですが、アナウサギはそこに住むスペインオオヤマネコやイベリアカタシロワシの重要な餌生物となっています。
スペインオオヤマネコの食べるエサのうち80~100%、イベリアカタシロワシの40~80%をアナウサギが占めているとされています。
アナウサギのようにその存在が他の多様な生物の生存に不可欠であるような種をキーストーン種と言い、ラッコが最も有名です。
このようにその地の生態系にとっては欠かせない役割を果たしているアナウサギですが、その力が反対に悪い方向に働く場合もあります。
それが外来種としてのアナウサギの問題です。
アナウサギは紀元前のローマ帝国時代にはすでに家畜化されており、16世紀以降、主にヨーロッパやオセアニアに、食肉用、衣類用などとして導入されていきます。
日本でも明治維新以降、養兎が産業化され、特に第二次世界大戦前後には飼育が盛んになり、それに伴い野生化した個体も増え始めます。
アナウサギは繁殖力が非常に高く、メスは年間15~45匹の子供を産むことができます。
もともとの生息地であれば、オオヤマネコといった捕食者や病原体などとの関係でその個体数は安定していましたが、そうした存在がいない環境においてはその繁殖力が大きな力を持つことは想像に難くありません。
導入された地域や飼育個体が野生化した地域では、アナウサギが勢力を増し、土着植物への食害やそれに伴う土壌流出などなど他の生物に影響を与えていくことになります。
そんな中、最もその影響を受けている生物の1種が我々ヒトです。
穴を掘るアナウサギにとって、人が耕した柔らかい土で満ちた農地は最適の場所です。
こうして生態系への被害とともに農業への被害が拡大した結果、もともとはヒト側の理由でそこに放されたアナウサギは、これまたヒト側の理由で駆除の対象となっていきます。
アナウサギは、IUCNの「世界の侵略的外来種ワースト100」、日本生態学会の「日本の侵略的外来種ワースト100」に指定されており、日本を含め現在でも各地で駆除活動が続いています。
ちなみに2019年、石川県輪島市の離島にある国指定七ツ島鳥獣保護区において、日本で初めてアナウサギの根絶が達成されています。
アナウサギの生態
分類
アナウサギにはO. c. cuniculusとイベリア半島といくつかの島嶼にのみ生息するO. c. algirusの2亜種が知られています。
イヌやネコと異なり、家畜種のカイウサギは亜種や別種として扱われていません。
家畜種には150以上の品種が知られており、食肉用や衣類用、実験用、ペット用として用いられています。
生息地
原産地はスペインやポルトガル、フランス南部ですが、ヨーロッパ各地やオーストラリア、ニュージーランド、南米、アフリカなどに導入されています。
暖かく乾燥した気候の草原や低木林などで暮らします。
捕食者から逃れるために岩場や植生によるシェルターを必要とします。
通常は標高1,500m以下で見られます。
形態
体長は34~50㎝、体重は1~2.5㎏です。
ノウサギと比べると小型で耳が小さく、運動能力に劣ります。
食性
草食のアナウサギは、盲腸に微生物を共生させており、ここで植物を発酵します。
アナウサギはこの盲腸での発酵物である軟糞を経口で摂取し、消化効率を高めています。
捕食者にはスペインオオヤマネコやイベリアカタシロワシの他、キツネやアナグマなどがいます。
行動・社会
アナウサギは夜行性ないし薄明薄暮性です。
通常2~10頭の雌雄の群れで生活します。
メスの方が優位で、雌雄それぞれに順位が存在します。
優位なオスは繁殖メスを取り囲むようになわばりを築きます。
巣には地下トンネルであるワーレンの他、植生や倒木の陰に作られるスクアットや繁殖用のストップが存在します。
ノウサギに比べて動きが遅いアナウサギは、巣穴から離れても400mの範囲で生活し、そのため行動圏は0.5~3haと広くありません。
繁殖
アナウサギは年中繁殖します。
メスは交尾刺激で排卵します。
妊娠期間は約1ヶ月で、無毛、閉眼の赤ちゃんを通常3~6匹巣に産みます。
育児は母親によってのみ行われます。
母子が一緒にいるのは授乳の際のみです。
母乳は栄養分が高く、子供は生後4週には離乳します。
性成熟は3.5~8ヵ月齢、寿命は長いと9年ほどです。
人間とアナウサギ
絶滅リスク・保全
世界的にみるとそうではありませんが、もともとの生息地だけを見ると、アナウサギは絶滅の危機にあります。
主な脅威は伝染病と生息地の破壊です。
伝染病ではミキソーマトシス(兎粘液腫)とウサギウイルス性出血病(RHD:Rabbit Haemorrhagic Disease)が代表的です。
ミキソーマトシスはノミや蚊によって媒介されるミキソーマウイルスが引き起こす、アナウサギにとっては致死病で、人による駆除にも用いられています。
また、RHDはアナウサギにのみ感染する病気で、致死率が高くこれも駆除に使用されます。
感染力が強く、1984年に初めて発症が確認された中国では、その後9ヵ月間で1,400万頭のカイウサギが死んでいます。
また、2010年には新たな変異株が猛威を振るい、野生在来種にも大きな打撃を与えました。
スペインのドニャーナ国立公園において、最も生息密度が高い場所では、これにより80%以上が死んだと推測されています。
こうした脅威により、野生在来種はここ10年で60~70%減少したとされており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧IB類に指定されています。
また、アナウサギの減少は捕食者の減少も伴っており、同じくここ10年で、スペインオオヤマネコは約65%、イベリアカタシロワシは約45%減少したとされています。
動物園
家畜種であるカイウサギは、全国各地の動物園で見ることができます。
さらには触れ合うこともできる場合も多いため、彼らに触れた際にはぜひイベリア半島の野生種のことも思い出してあげてください。