キンイロジェントルキツネザルの基本情報
英名:Golden Bamboo Lemur
学名:Hapalemur aureus
分類:キツネザル科 ジェントルキツネザル属
生息地:マダガスカル
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
“シアン化合物なんて知らん”な動物
キンイロジェントルキツネザルは、1986年に発見された(人間が知るサルの中では)比較的新しいサルです。
このサルは、名前の通り体が金色を帯びており、それはしっぽにおいて顕著です。
学名にある“aureus”という言葉も、ラテン語で「金色の」という意味になります。
そんなキンイロジェントルキツネザルですが、えさとして竹の若葉や葉柄(ようへい:葉が枝や茎についている接続部分)、たけのこを食べます。
たけのこはおいしそうと思われるかもしれませんが、これらを人間など他の哺乳類が食べることはできません。
というのも、これらには青酸(シアン化水素の水溶液)という猛毒が含まれているからです。
ジェントルキツネザルは青酸を含むシアン化合物に対する耐性が非常に強いです。
シアン化合物といえば、豊洲市場問題でもでてきた毒で、人間が摂取すればめまい、頭痛などの症状を引き起こし、ひどい場合は死に至ることもあります(致死量:体重1㎏あたり0.5~3.5mg)。
では具体的にはどれほどの毒性があるのでしょう。
毒性評価の指数として「LD50(半数致死量)」というものがあります。
これは同質的な動物の集団の半数を死亡させる薬物量を表しています。
例えば、シアン化合物の一種、シアン化水素をマウスに与える場合、LD50は3700µg/kgとなります。
つまり、1㎏のえさの中に3700µg(=3.7mg)のシアン化水素が含まれていれば、マウスの半数が死ぬということになります。
他のシアン化合物ではどうでしょう。シアン化ナトリウムはLD50=6400µg/kg(ラット)、シアン化カリウムはLD50=5000µg/kg(ラット)と、どれも猛毒になります。
これほど強い毒を含むものを、このキンイロジェントルキツネザルは知らん顔して食べているのです。
恐ろしいですね。
ところで、ジェントルキツネザルは皆竹を食べますが、それぞれ食べる部分が違います。
例えば、ハイイロジェントルキツネザルは竹の芽、ヒロバナジェントルキツネザルは竹の稈(幹)というように、竹を食べ分けています。
その中でもキンイロジェントルキツネザルがよく食べるたけのこには特に毒が多く含まれています。
その量なんと75mg、人間の致死量の20倍以上です。
ちなみに、彼らはなぜ彼らがこれほどの猛毒を消化できているのかは未だによく分かっていません。
キンイロジェントルキツネザルの生態
生息地
キンイロジェントルキツネザルは、マダガスカル南東部の熱帯湿潤林に生息します。
食性
ジェントルキツネザルのなかまは、昼でも夜でも活動しますが、このサルは昼にしか動きません。
しかも、活動時間ですら解毒、消化のためにその半分を寝て過ごすというので、何ともうらやましい生活を彼らは送っています。
形態
キンイロジェントルキツネザルはジェントルキツネザルの中でも最大です。
体長は約35㎝、体重は1.25~1.7㎏、しっぽの長さは約40㎝で、体格における性差は見られません。
行動
キンイロジェントルキツネザルは、基本的に1匹ずつのオスとメス、そしてその子供から成るペア型の群れを作ります。
コミュニケーションやなわばりのアピールには音声、におい、グルーミングなどが用いられます。
グルーミングでは、他のキツネザルのなかまも持つくし歯が使われます。
繁殖
キンイロジェントルキツネザルの繁殖は7月~8月にかけて行われます。
メスは約140日の妊娠期間の後、通常1匹の赤ちゃんを産みます。
興味深いことに、母親は自分の赤ちゃんを置き、遠くて250m先までエサを探しに行きます。
3時間以上もその状態が続くというので我々からしたら驚きです。
赤ちゃんは母親の他群れのメンバーにもよっても世話され、約3歳になるまで群れに留まります。
出産間隔は約1年、寿命は約20年と考えられています。
人間とキンイロジェントルキツネザル
絶滅リスク・保全
キンイロジェントルキツネザルは、焼畑農業や家の建築のための生息地の破壊、森林の分断、そして狩猟などのために、個体数を減らし続けています。
現在ではなんと630頭(内オトナは250頭)しか生存していないと推測されており、レッドリストでは最も絶滅が危惧される絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
動物園
そんなキンイロジェントルキツネザルですが、残念ながら日本の動物園では会うことができません。
マダガスカルでの保全活動が進み、日本の動物園で会うことができる日を望んでやみません。
ちなみに、先ほども出てきたハイイロジェントルキツネザルには上野動物園でのみ会うことができます。
竹を食べるクマだけでなくサルも見たい方は是非行ってみてください。