グラントガゼルの基本情報
英名:Grant’s Gazelle
学名:Nanger granti
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ダマガゼル属
生息地:エチオピア、ケニア、ソマリア、南スーダン、タンザニア、ウガンダ
保全状況:LC〈軽度懸念〉

生き抜くための術
タンザニアのセレンゲティを中心に、サバンナなどに生息するガゼルの一種、グラントガゼル。
名前のグラントは、19世紀に生きたスコットランドの探検家、ジェームス・グラントに由来します。
そんなグラントガゼルは、生きのびるために様々な能力を有しています。
例えば、グラントガゼルは同じ場所に生息するヌーやトムソンガゼルなどと比べると、乾燥に強い生き物で、水がなくてもしばらく生存することができます。
そのため、彼らは他の草食動物が利用しない場所でも生きていくことができます。
セレンゲティでは、ヌーやシマウマ、トピといった水に依存する草食動物の大群が、エサを求めて大移動を繰り広げますが、彼らほどは水を必要としないグラントガゼルは、その移動とは異なる動きをします。
つまり、乾季には丈の短い草が生い茂る平原で過ごし、雨季には木々も生えるサバンナウッドランドで生活するのです。
グラントガゼルは、草だけでなく木の葉も食べることができるため、これも大きなアドバンテージとなっていることでしょう。



生きる上では、捕食者に食べられないことが重要ですが、グラントガゼルは捕食者への対抗策もぬかりありません。
まず、彼らは視界の悪い深い茂みは避ける傾向にあります。
また、チーターなどの捕食者を見つけた際は、うなったり足を踏み鳴らしたりして、他の個体に伝達します。
それでも襲われたら逃げるしかありません。
彼らの速度はチーターには遠く及びませんが、チーターよりも持久力があるため逃げ切れることもあります。
また、角が役立って追い払えることもあります。

ただ、逃げ切っても問題となるのが温度です。
暑い中走り続けると、当然体温が上昇しますが、特に暑さに脆弱な脳はダメージを受ける可能性があります。
彼らはこれを熱交換の仕組みで解決します。
ガゼルは体温調節のために浅い呼吸を何度も繰り返すあえぎ呼吸をするため、水分が大量に蒸発する鼻腔付近の血管を通る血液は、気化熱によって冷却されます。
脳へ向かう温かい動脈がこの静脈と接することで、熱が移動し、脳は体の中心部よりも2~3℃低い状態となるのです。
これは対交流熱交換システムと呼ばれ、イルカなどでは逆に、海により冷えた鰭の血管を通る血液は、温かい血管によって温められたうえで体をめぐります。
進化の歴史の中で常に追われる立場であったグラントガゼルですが、今日まで生きのびてこられたのはこうした術を獲得してきたからなのです。


グラントガゼルの生態
分類
タンザニアやケニアに生息するグラントガゼル(Nanger (granti) granti)、ウガンダやソマリア、南スーダン、ケニア、エチオピアに生息するブライトガゼル(Nanger (granti) notata)、ケニアやソマリアに生息するピーターガゼル(Nanger (granti) petersii)の3亜種が知られています。
個体数はそれぞれ7.5万頭、5万頭、1.5万頭未満と推測されています。
生息地
標高2,500mまでの半砂漠やサバンナウッドランド、平原、山地の草原、低地の茂みなどに生息します。
乾燥し、開けた環境が特徴的です。
セレンゲティの個体群が最大で、3.5~5.5万頭いるとされます。



形態
体長は1.4~1.7m、体重は45~65㎏で、オスの方が大きくなります。
両サイドに黒いラインが現れることもあり、トムソンガゼルと似ていますが、彼らとは大きさやお尻の大きな白いパッチなどで見分けることができます。
角は雌雄に生えますが、オスが50~80㎝となる一方、メスは30~40㎝と小さくなります。


食性
草だけでなく、葉っぱも食べます。
乾燥に強く、水がなくてもしばらく生きていくことができます。
捕食者にはチーターの他、リカオンやセグロジャッカル、ライオン、ヒョウなどがいます。




行動・社会
グラントガゼルは30頭までの群れを作ります。
群れは1頭のオスが率い、若いオスは若いオスだけで群れを作ります。
オスは糞尿でなわばりをマーキングし、挑戦してくるオスがあれば、威嚇や角をぶつけ合う闘争で追い払います。
エサが少なければ移動しますが、豊富にある場合は他の動物と混群を形成しつつ長期間滞在します。
繁殖
繁殖には季節性があるようですが、定まっておらず年中繁殖する場合もあるようです。
メスの妊娠期間は6~7ヵ月で、通常1頭の赤ちゃんが生まれます。
ハイダー型のグラントガゼルは、赤ちゃんを茂みに隠し、日に3~4回訪れ授乳します。
そしてある程度育ったのち子供は群れに合流していきます。
子供は生後1ヵ月で固形物を食べるようになり、生後半年頃離乳します。
オスは3歳、メスは1.5歳で性成熟に達します。
寿命は野生で約12年です。

人間とグラントガゼル
絶滅リスク・保全
グラントガゼルは少なく見積もっても14万頭はいるとされます。
そのうち30%は保護区内で生活しており、25%は安定もしくは増加傾向にあります。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、全体としては減少傾向にあります。
肉や毛皮を狙った狩猟や、家畜との競合、農地への転換などによる生息地の破壊が脅威となっています。

動物園
日本ではグラントガゼルに会うことはできません。
