コククジラの基本情報
英名:Gray Whale
学名:Eschrichtius robustus
分類:鯨偶蹄目 コククジラ科 コククジラ属
生息地:北太平洋
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
哺乳類最長の移動距離
ヒゲクジラには、季節に応じて高緯度海域と低緯度海域を回遊する種が多いです。
回遊する理由はまだよくわかっていませんが、一説には繁殖場所として捕食者であるシャチの少ない海域を選んでいるといわれています。
回遊の移動距離は数千㎞におよび、特にコククジラはヒゲクジラの中でも長い距離を移動するといわれています。
北太平洋に生息するコククジラには、東部の個体群と西部の個体群が存在するとされています。
北太平洋東部の個体群は、夏はチュクチ海やベーリング海で採餌し、その後片道8,000㎞を泳いで冬にはメキシコのバハカリフォルニア近海で繁殖します。
東部個体群に比べてあまりよくわかっていない西部個体群は、夏にカムチャッカ半島やサハリンを囲むオホーツク海で採餌し、冬には中国海南島近海で繁殖しているといわれています。
ところが最近、サハリン島を出発した個体がバハカリフォルニアまで到達し、さらにサハリン島に戻ってきたことが確認されました。
バーバラと名付けられたこの個体は、172日間の間に2万2,511㎞を移動したとされています。
この記録は哺乳類の移動距離で最長であるだけでなく、海棲脊椎動物中でも最長になる記録です。
驚くべきはその移動距離だけではありません。
それまで中国近海に移動し繁殖すると考えられていた西部個体群が、東部個体群の繁殖海域に現れたのです。
バーバラは東部個体群と一緒にいるのも確認されています。
回遊するヒゲクジラの回遊ルートや目的地は保守的で、母親から受け継ぐといわれています。
バーバラの存在は、それまで互いに隔離されていたと考えられる個体群の間に交流がある可能性を示唆しています。
個体数を見てみると、東部の個体群が2万7千頭である一方、西部個体群は300頭未満といわれ、最も絶滅に近い鯨類個体群とされています。
コククジラの東部個体群は、捕鯨による絶滅の危機からの復活で有名ですが、バーバラのような個体の研究が進めば東部個体群とは遺伝学的に別の集団とされる西部個体群の復活の可能性も見えてくるかもしれません。
ところで、2013年、アフリカのナミビア近海で若齢個体と思われるコククジラが見つかりました。
これは南半球では初めての発見で、この個体はなんと2万7千㎞を移動したと推測されています。
また、イスラエルやスペイン近海でも迷い込んだ個体が確認されています。
コククジラは我々の常識を超える旅をしているのかもしれません。
マッコウクジラの基本情報
生息地
北太平洋の水深の浅い沿岸域に生息します。
大半は水深60m以内、岸から20~30㎞離れた海で生活します。
形態
体長はオスが11.1~14.3m、メスが11.7~15.2m、体重は16~45tでメスの方が大きくなります。
背びれはなく、尾柄の尾根にそって6~12個のコブが存在します。
尾びれは大きく、幅は3~3.6mにもなります。
喉には2~7本の畝、ひげ板はヒゲクジラでは最も短く5~25㎝で黄色がかっています。
体にはフジツボやクジラジラミが付着していますが、頭部には少ないです。
食性
コククジラはカニやヨコエビなど海底の甲殻類を食べます。
彼らは彼ら特有のボトムフィーディングと呼ばれる方法で採餌します。
まず、海底で体の右側下に横になります。
そしてわずかに開いた口の右側から海底の泥もろとも吸い込み、逆側の口の隙間から海水を吐き出してエサをひげ板で漉しとるのです。
ボトムフィーディングの際、多くの個体が右側を下にしますが、その理由は不明です。
捕食者はほとんどいませんが、子どもはシャチに狙われることがあります。
行動・社会
コククジラは、通常単独かもしくは3頭までのつながりの緩い小集団で生活します。
繁殖時には10頭以上で見られる場合もあります。
水面から頭を出して周囲を見渡すスパイホップや、ジャンプして体を水面にたたきつけるブリーチングがよく見られます。
潜水は長いと15分程度できるようです。
繁殖
コククジラは複数の異性と交尾しているとされています。
11月~12月にかけて妊娠し、11~13カ月の妊娠期間ののち、体重680~920㎏、体長3~5mの赤ちゃんを一頭産みます。
赤ちゃんは脂肪分が50%を超える母乳を毎日200ℓ以上飲んで急激に成長します。
生後8ヵ月頃には離乳をはじめ、その時点で体長は9m近くにまでなります。
性成熟には8年ほどで達し、寿命は推定60~70年です。
人間とコククジラ
絶滅リスク・保全
コククジラは沿岸性で遊泳スピードも早くはないので有史以前から捕鯨の対象でした。
コククジラはかつて北大西洋にもいましたが18世紀までに絶滅しています。
主に捕鯨が原因であったとされていますが確実な理由は不明です。
残った北太平洋の個体群も捕鯨の毒牙にかかります。
東部個体群では19世紀中ごろには年に500頭近く捕獲されていたようです。
20世紀になってもアメリカやノルウェー、ソ連などによる捕鯨は続き、個体数も減少していきます。
捕鯨が禁止されてからも違法な捕鯨やアラスカやワシントン州、チュクチの原住民による捕鯨が行われた結果、1985年~2016年の間に、年平均118頭が捕獲されます。
にもかかわらず、20世紀後半に東部個体群は個体数を増加させ、今では2万7千頭にまで回復しました。
一方、韓国や日本の捕鯨により個体数を減少させたと思われる西部個体群はいまだ危機的状況にあります。
コククジラ全体でいえばIUCNのレッドリストで軽度懸念の評価ですが、特に西部個体群については油断できません。
動物園
ザトウクジラは世界のどこでも飼育されていません。
ただ、沿岸性ということもあり、野生個体は比較的見つけやすく、日本近海でも回遊途中の個体を見ることができます。
ちなみに、今では人気のホエールウォッチングは、1955年にコククジラを対象にアメリカで始まったといわれています。