インドサイの基本情報
英名:Greater One-horned Rhino
学名:Rhinoceros unicornis
分類:奇蹄目 サイ科 インドサイ属
生息地:インド、ネパール
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
参考文献
水辺のサイ
ヨロイサイの異名を持つ、鎧を着ているかのような厚い皮膚を持つインドサイは、川などの水資源がある草原や湿地に好んで生息します。
太陽が照り付ける昼間、彼らはカバのように水の中に入って泳いだり、泥を浴びたりして過ごします。
こうすることで太陽の熱から身を守れるだけでなく、皮膚やその割れ目に住み着く寄生虫を殺すことができます。
しかし、このような水が豊富な環境は、人間にとっても望ましい環境です。
かつて、増える人口を支えるべく、こうしたサイの生息地が次々と農地に変えられていきました。
この状況に、民間から国王までその威信をかけて当たり前のように行われていた狩猟や、伝統薬としての需要がある角を狙った密猟が拍車をかけたことで、サイの個体数は激減します。
20世紀初頭に生きていたインドサイはなんと200頭以下。
その昔、西はパキスタンから、東はバングラデシュに広く生息していたインドサイは、ネパール南部とインド北部にわずかに生息するまでになってしまったのです。
この危機的状況を打開するため、彼らの生息地であるインドとネパールでは国を挙げての保護活動が行われます。
保護区の設置や生息地の管理、移住、密猟の規制などなど、その保護活動は世界的な成功例としてかなりの成果をあげました。
ネパールでは1960年代に65頭だった個体数は、2018年に650頭近くにまで増えます。
また、インドでも2018年には約3,600頭が生息すると推定されるまでになります。
この増加傾向は現在でも続いており、例えばインドサイの70%以上が生息するインドのアッサム州のカジランガ国立公園では、2018年の推定個体数2,413頭が2022年には2,613頭にまで増えます。
密猟は今では主要な脅威ではないとされ、同国立公園で確認された密猟は2021年でたった1件です。
ネパールでも、ネパール内戦(マオイスト反乱)の最中である2000年~2003年には90頭以上が密猟されましたが、その後の密猟数は大幅に減少しています。
今や明るい未来が見えつつあるインドサイですが、油断は禁物です。
インドサイの生息地が蝕まれつつあるのです。
例えば家畜によるサイの餌資源の枯渇や、よその植物の侵入は新たな懸念となっています。
また、モンスーンによる洪水は短い期間に大きな影響をサイに与えます。
カジランガ国立公園では、2019年の洪水で12頭が、200人以上の犠牲者が出た2020年の洪水では少なくとも8頭のサイが死んでいます。
いくら水に慣れ、鎧をまとったような姿のインドサイでも、こうした自然の威力にはかないません。
彼らが昼間、呑気に水に浸かっていられるよう、皆で協力して地球を守りたいですね。
インドサイの生態
名前
属名のRhinocerosはギリシャ語で「鼻の角」を意味し、種小名のunicornisはラテン語で「一本の角」を意味します。
生息地
インドサイは、インド北部およびネパール南部の川辺の草原や湿地、沼地、森林近辺に生息します。
現在彼らはそのほとんどがインドとネパールにある12の保護区内で生活しています。
形態
体長は3~3.8m、肩高は1.7~2m、体重は1.8~2.7t、尾長は70~80㎝でオスの方が大きくなります。
角は英名や学名の通り1本しかなく、その長さは20~60㎝です。
角は骨ではなく毛や爪などと同じケラチンからできています。
前歯はなく、上顎には犬歯もありませんが、下顎にはオスでは8㎝にもなる犬歯が生えています。
これは闘争の際に使われると言われています。
厚い皮は一部では4㎝にもなります。
食性
インドサイはグレイザーで、150種を超える植物を食べます。
地面に生えている草を主食としますが、水生植物や果実、木の葉、枝、農作物も食べます。
毎日体重の1%の重さのエサを食べるとされています。
サイはウマやゾウなどと同じ後腸発酵動物です。
捕食者はほとんどいませんが、稀に子供や弱った個体はトラ(ベンガルトラ)に襲われることがあります。
行動・社会
繁殖時のオスとメスや母子を除くと、インドサイは単独性です。
オスは緩やかななわばりを作り、糞尿でマーキングします。
インドサイは朝方や夕方に採餌を行い、夜にも活動します。
視力は弱い一方、嗅覚は優れています。
聴覚もよく、12種の音声が知られています。
インドサイは泳ぎがうまく、場合によっては時速40㎞以上で走ることもできます。
繁殖
インドサイの繁殖に季節性はありません。
メスの出産間隔は2~3年で、15~16カ月の妊娠期間ののち、体長1~1.2m、体重50~70㎏の赤ちゃんを一頭産みます。
赤ちゃんは生後3~5ヵ月で植物を食べ始めますが、完全に離乳するのは1歳半ごろです。
長いと4歳まで母親とともに過ごしたのち、独立した子供はその後、オスが8~10歳、メスが5~7歳で性成熟に達します。
寿命は30~45年です。
人間とインドサイ
絶滅リスク・保全
紀元前の物品や、ヒンズー教、仏教、ジャイナ教といった宗教にも登場するインドサイは、それまで絶滅危惧ⅠB類に指定されていましたが、個体数の増加が評価された2008年には絶滅危惧Ⅱ類に格下げされ現在に至ります。
1975年以降、CITES附属書Ⅰに記載されており、国際取引は禁止されています。
WWF REPORT 2016 | THE GREATER ONE-HORNED RHINO – PAST, PRESENT AND FUTURE
動物園
日本では東京都の多摩動物公園、神奈川県の金沢動物園、愛知県の東山動物園、山口県の秋吉台自然動物公園サファリランドがインドサイを飼育しています。
特に金沢動物園と東山動物園ではクロサイも見ることができます。