ハイイロギツネの基本情報
英名:Grey Fox
学名:Urocyon cinereoargenteus
分類:イヌ科 ハイイロギツネ属
生息地:ベリーズ、カナダ、コロンビア、コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、アメリカ合衆国、ベネズエラ
保全状況:LC〈軽度懸念〉
木に登るキツネ
イヌ科の動物と言えば、足の長いスリムな体型で、草原を颯爽と走る姿を簡単に想像できます。
しかし、ハイイロギツネを見てみると、足は短く、足も遅いです。
イヌ科動物は、森林から草原に進出した動物です。
そのためイヌ科動物は、オオカミなどを見ると分かるように、走ることに適した体を持っていることが多いです。
一方のハイイロギツネは、草原には進出せず、森林地帯に留まりました。
そのため、その体は走ることに適していません。
しかし、それでも彼らは生きていくことができます。
生きていくためには、食べることと食べられることを気にしなければなりません。
まず、ハイイロギツネは足が遅くても食べるものには困りません。
なぜなら、彼らは雑食性で、動物のように動かないえさも食べるからです。
ハイイロギツネのえさメニューの幅は広く、彼らはエサの量によって適宜スイッチしながら採食することができます。
このような食性に足の速さは必要ありません。
また、彼らのえさには齧歯類などの小型哺乳類が含まれますが、このような獲物を狩るのに足の速さは必要ありません。
次に食べられる、つまり捕食の危険についてです。
ハイイロギツネは、一応肉食動物に分類され、生態系においては高次に位置しますが、例えば猛禽類やボブキャット、コヨーテなど、彼らを食べる更に高次の動物もいます。
このような捕食者から逃げる手段として、足の速さと言う能力を持っていないのは少し不利な気もします。
しかし、ハイイロギツネにはある武器があります。それが木に登る能力です。
ハイイロギツネはイヌ科動物の中でも、最も木登りを得意としています。
足首は柔軟で、垂直に生える木でも簡単に上り降りすることができます。
さらに、木から木へジャンプして移動することもできます。
このような能力は、捕食者からの逃避能力として、これまで大きな力を発揮してきたことでしょう。
ちなみに、ハイイロギツネと同じく木に登ることができ、足が短く、草原に進出しなかったイヌ科動物にはタヌキがいます。
ハイイロギツネは、このタヌキについで原始的なイヌ科動物だと考えられています。
ハイイロギツネの生態
生息地
ハイイロギツネは、アメリカ合衆国を中心に、標高3,000mまでの、主に落葉樹林に生息します。
混交林や針葉樹林などにも生息し、茂みや都市の郊外などにも出没することがあるようです。
食性
機会的捕食者である彼らは、雑食性で、齧歯類や果実、昆虫、死肉などを食べます。
食べきれないエサは地面に隠し、尿などでにおいづけして、後で食べに戻る行動が観察されています。
形態
体長は48~73㎝、体重は3~9㎏、尾長は27~44㎝で、オスの方がメスよりもやや大きくなります。
肛門や顔、手のひらなどに臭腺を持っており、マーキングの際にここからの分泌物を利用します。
行動
ハイイロギツネは、夜行性ないし薄明性です。
日中は岩陰や地面に作られた巣穴で休息します。
巣穴は自分で掘ることもありますが、他の動物のものを利用することが多いです。
また、彼らは木登りが上手であるため、地面から10m近くも離れた木の洞などに巣穴を設けることもあります。
巣穴は春には通常毎日変えられますが、冬は同じ巣穴が使われることも少なくないようです。
行動圏は平均約2㎢で、大幅な重複が見られることもあります。
生息密度は1㎢に1~27頭です。
繁殖
繁殖には地域や標高ごとに季節性があり、大体1~3月に行われます。
妊娠期間は53~63日で、100g前後の赤ちゃんが1~7頭(平均3.8頭)産まれます。
ハイイロギツネは通常単独で行動しますが、繁殖と子育ての時期は一時的に家族群を作ります。
育児は父母によって行われ、特に父親はエサを運んでくる役割を担っています。
赤ちゃんは約10日で目を開き、生後約3週から固形物を食べるようになります。
そして、生後3~4カ月には自分で狩りができるようになり、10カ月で性成熟、独立を果たします。
寿命は野生で約6年、飼育下では10年ほどです。
人間とハイイロギツネ
絶滅リスク・保全
ハイイロギツネは、幸いなことに絶滅を危惧されておらず、レッドリストでも軽度懸念とされています。
ただ、家畜を襲うことに対する人間からの報復や、事故、イヌジステンパーなどの病気、毛皮目的の狩猟などは、脅威として考えられています。
ハイイロギツネは罠にかかりやすく、そうして捕らえられたものの毛皮がかつては広く流通していました。
しかし価値はそれほど高くなかったようです。
ハイイロギツネにはこれらのような脅威があるものの、現在のところは個体数は安定していると考えられています。
動物園
そんなハイイロギツネですが、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
木に登るキツネ。
是非いつか見たいものですね。