ハーテビーストの基本情報
英名:Hartebeest
学名:Alcelaphus buselaphus
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ハーテビースト属
生息地:アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、コートジボワール、エチオピア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、マリ、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、南スーダン、スーダン、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況:LC〈軽度懸念〉

タフな牛
アフリカのサブサハラに生息する、特徴的な顔を持つウシ科動物、ハーテビーストは、特にエサが豊富な雨季には1,000頭以上の群れで見られることもあります。
しかし、基本的な群れの単位はもっと小さく5~12頭程度です。
特にメスは家族内のつながりが強く、群れ内には最大4世代が含まれます。
一方、オスは若いオスはオスだけの群れを作るものの、成熟すると単独でなわばりを作り、そのなわばり内にやってきたメスと交尾します。
メスは一頭のオスのなわばりに留まることなく、良質な餌がある場所を転々とするようです。
ちなみにオスは最長3歳ごろまで母親の群れで暮らし、その後独立し、若いオスの集団で生活するようになります。
ところで、ハーテビーストという聞きなれない言葉は、オランダ語で「雄鹿」、「獣、雄牛」を意味する言葉に由来しているようですが、「タフな雄牛」という意味で解釈されているケースも見受けられます。
確かに、ウシ科に分類されるハーテビーストの長い顔はシカのような感じもないこともありませんが、一方で、彼らは実にタフな生き物です。
ハーテビーストは、高速で長い距離を走ることができるウシ科動物の一種です。
彼らは最高時速70~80㎞で走ることができ、長時間高速を維持することができます。
ヌーのような大移動をしない彼らは、この脚力を主に天敵からの逃走に使います。
また、ハーテビーストは粗食に耐えることができます。
彼らはイネ科植物の茎を主食としていますが、エサの少ない乾季になるとさらに低質なものを食べて生きのびます。
この時、ウシ科動物が持つ反芻という能力は、栄養を最大限吸収する効率的なシステムとなります。
これに加え、ハーテビーストは長い顔を持っているため、これが咀嚼能力を向上させ結果的に消化効率を高めていると考えられています。
彼らが他のウシ科動物よりも高い効率で植物を消化できるという事実は、こうした理由であるとされています。
ハーテビーストのこのような能力を知ると、彼らの語源が「タフな雄牛」という意味の言葉にあると解釈したくなる理由もわかります。

ハーテビーストの生態
分類
定住傾向にある彼らには遺伝子の交流が少ないためか、8亜種が知られています。
カーマハーテビースト( A. caama)とコンジハーテビースト(A. lichtensteinii)を種とする場合もあります。
北アフリカに生息していたキタハーテビースト(A. b. buselaphus)は、かつてイスラエルやヨルダンなどの中東にも生息していたようで、エジプトの墓にも描かれています。
しかし20世紀半ばごろに絶滅しています。
生息地
標高4,000m(ケニア山)までのサバンナや草原、ミオンボ林などに生息します。
特に林の端や草原と隣接するエコトーンが重要な生息環境となります。
他のハーテビースト亜科の種よりも林や背の高い草が生えた環境に耐えることができます。
エジプト、モロッコ、アルジェリアなどの北アフリカや中東では絶滅しています。

形態
体長は1.5~2.5m、肩高は1.1~1.5m、体重は75~200㎏、尾長は30~70㎝で、体毛の長さは2.5㎝ほどです。
角(ホーン)はオスメスともに生え、45~70㎝になります。
食性
グレイザーであるハーテビーストは、雨季には摂取するものの95%が草です。
主にイネ科植物を食べ、他にマメ科植物なども食べます。
他のハーテビースト亜科の種よりも水には依存していませんが、それでも生きていくために水は必要です。
捕食者にはライオンやハイエナ、チーター、リカオンなどがいます。




行動・社会
普段はオスメス離れて暮らします。成熟したオスはなわばりを作り、糞などでマーキングします。
他のオスの挑戦時には頭をぶつけ合って闘争します。
メスは出産間近になると群れから離れ、茂みで出産します。
母親は定期的にそこを訪れ授乳し、数週間後に子は群れに合流します。

繁殖
地域によって繁殖には季節性があります。
メスは214~242日の妊娠期間の後、一頭の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは生後4ヵ月~8ヵ月で離乳し、1歳ごろ性成熟に達します。
ただ、オスが繁殖するようになるのは4歳ごろです。
寿命は12~15年、飼育下では20年程度です。

人間とハーテビースト
絶滅リスク・保全
ハーテビーストは分布域が広く、個体数も30万頭以上いるとされており(最も多い亜種はカーマハーテビーストで約13万頭)、絶滅は心配されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、亜種によっては1,000頭未満のものもあります。
肉目的の狩猟や人間と家畜の居住地の拡大、それに伴う生息地の分断、病気、干ばつなどが脅威となっています。
これらの理由で、例えばコートジボワールのコモエ国立公園では1984年に18,300頭いたハーテビーストが、1998年には5,200頭まで減少しています。

動物園
日本でハーテビーストに会うことはできません。
