ヒョウアザラシの基本情報
英名:Leopard Seal
学名:Hydrurga leptonyx
分類:食肉目 アザラシ科 ヒョウアザラシ属
生息地:南極、オーストラリア、ブラジル、チリ、ニュージーランド、南アフリカ
保全状況:LC〈軽度懸念〉

参考文献
ユニークな鰭脚類-歯と声
南極に生息するヒョウアザラシ。
彼らはペンギンを食べたり、ウェッデルアザラシやカニクイアザラシなどの子供を食べたりする、南極海氷域の生態系の最上に位置する捕食者です。
彼らはアザラシでは珍しく、後肢だけでなくアシカのように前肢も使って泳ぎます。
鰭から生み出される推進力で、彼らは時速40㎞ものスピード泳ぐことができ、獲物を逃がすことはありません。
そんな彼らの歯は鋭く、犬歯は2.5㎝にもなります。
この歯で獲物に噛みつき、特にペンギンを捕食する場合はイヌのように左右に頭を振り獲物をばらばらにするという残虐な食べ方をします。
彼らの歯をよく見ると、どれも同じ形をしています。
鰭脚類は基本的にエサを丸呑みするため、歯はかみ砕いたり切り裂いたりする機能を持つ必要がなく、同じ形をしているのです。
これを同型歯性といい、哺乳類では同じくエサを丸呑みするハクジラ類にも見られる特徴です。

ただ、彼らの歯をよく見るとハクジラのような単純な円錐形やスペード状ではなく、複雑な形をしています。
これは彼らの食性に密接に関係しています。
実はヒョウアザラシはペンギンや魚だけでなく、オキアミを食べることで知られています。
特にペンギンが広く海洋を動く冬にオキアミが主要なエサとなることがあり、この小さいオキアミを漉しとるためにこの複雑な歯が機能しているのです。
このようにヒョウアザラシはアザラシの仲間の中でも非常にユニークですが、音声に関してもユニークな特徴があります。
まず、多くの鰭脚類の音声がヒトの可聴域(20Hz~20kHz)に収まりますが、報告は少ないもののヒョウアザラシは100kHzを出すことができます。
また、音声には異なる音声の組み合わせからなる歌の構造を持つものもあり、雌雄ともに音声を求愛に使っていることが知られています。
求愛の音声は通常オスから発することが多いですが、飼育下ではあるものの雌雄ともに求愛の音声を発していることは注目に値します。
また、一般的に低い音を出すことができる個体は体が大きく、メスを魅了する要素となります。
しかし、ヒョウアザラシでは体が大きい個体ほど繁殖期に高周波の音を出し、長期間にわたって一定の頻度で音を出し続けられることが知られています。
彼らの場合、オスの音声がスタミナと結びついている可能性が指摘されています。
このように、オスの質をそのまま表す音声のことを正直なシグナルと言います。
アザラシの中でも特に異彩を放つヒョウアザラシ。
その生態上まだまだ解明されていないことが多いので、今後も彼らのユニークネスは増していくことでしょう。

ヒョウアザラシの生態
生息地
南極、亜南極の浅い海で生活します。
個体によっては温帯域まで進出するものいます。
形態
体長はオスが2.8~3.3m、メスが2.9~3.6m、体重はオスが約300㎏、メスは260~500㎏になります。
前肢は第一指が一番長く、第五指にかけて次第に短くなっていきます。

食性
季節や地域によって利用する餌生物は異なりますが、ナンキョクオキアミや魚類、イカ類、ジェンツーペンギンなどのペンギン類、海鳥類の他、ロスアザラシやミナミゾウアザラシなどの子供を捕食します。
特にカニクイアザラシでは子の死亡の約8割をヒョウアザラシによる捕食が占めています。
唯一の捕食者はシャチです。


行動・社会
主に単独で生活しているとされています。
陸でも氷上でも休息しますが、沿岸に漂う氷を好むようです。
オスは繁殖期には特によく海中で鳴きます。
交尾は水中で行われると考えられています。

繁殖
出産は10月から1月にかけて見られます。
メスは約9ヵ月の妊娠期間ののち、1~1.6m、30~35㎏の赤ちゃんを一頭産みます。
赤ちゃんは4週ごろ離乳し、母親はそのすぐあと発情を始めます。
性成熟にはオスが4.5歳、メスが4歳で達します。
寿命は長いと25~30年です。

人間とヒョウアザラシ
絶滅リスク・保全
生息地への接近の難しさから商業的な捕獲対象とはなってきませんでした。
個体数の推定は難しいですが、30万頭とも言われています。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
大きな脅威はありませんが、地球温暖化や観光の隆盛による船舶との衝突や騒音による被害が考えられます。
また、彼らはイヌジステンパーウイルスの抗体を有していることが知られていますが、これは病気が蔓延しうることを示しています。

動物園
日本でヒョウアザラシに会うことはできません。
