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ヘラジカ

ヘラジカ
©2022 Grand Teton : clipped from the original
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ヘラジカの基本情報

英名:Moose
学名:Alces alces
分類:鯨偶蹄目 シカ科 ヘラジカ属
生息地:ベラルーシ、カナダ、中国、クロアチア、チェコ、エストニア、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、カザフスタン、ラトビア、リトアニア、モルドバ、モンゴル、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、スウェーデン、ウクライナ、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉

ヘラジカ
Photo credit: U.S. Fish and Wildlife Service Headquarters

最大のシカ

ヘラジカは北米とユーラシアに生息しています。

両大陸のヘラジカはかつて別種とされていましたが、今ではその変異は亜種レベルとされています。

両者を含め、現在ヘラジカには8亜種が知られています。

このような経緯があってか、ヘラジカは北米では「ムース」、ユーラシアでは「エルク」と別の名前で呼ばれています。

ややこしいことに、北米で「エルク」といったらアメリカアカシカ、そのアメリカアカシカはユーラシアでは「ワピチ」と呼ばれています。

ちなみに、北米のヘラジカは1.1~1.4万年前、ベーリング陸橋を渡ってユーラシアからやってきたとされています。

また、ムースという言葉は、北米の先住民族であるアルゴンキン族の、「枝を食べるもの」を意味する言葉に由来するとされています。

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さて、名前が定まらないヘラジカは、シカ科最大の種です。

最大のオスは体長3m、肩の高さは2mを超え、体重は700㎏を超えてきます。

ヘラジカの最大の特徴はオスにのみ生える角ですが、この角も哺乳類が持つものの中では最大級で、大きいもので最大幅2m、片方の角の重さは20㎏近くにもなります。

また、シカの角は枝角と呼ばれますが、ヘラジカの角は枝が発達しており、その枝は片方で10以上になることもあります。

このヘラジカの角は他のシカ同様、毎年生え変わります。

春に生え始めた角は、骨の周りが栄養を供給する表皮に覆われており、袋角と呼ばれます。

繁殖期が近づくとこの表皮ははげ落ち、骨がむき出しの角となります。

メスは主にこの角によってオスを選んでいると考えられています。

繁殖期の終わり、つまりエサの少なくなる冬に、役目を終えた角は抜け落ちます。


ところで、これだけ大きいと、ヘラジカが生態系に与える影響もまた大きくなります。

例えば、彼らのする糞は、植物の成長に必要な窒素を大量に土壌に供給しています。

また、彼らは1日に20㎏近くのエサを必要としますが、地面に生えるエサを食べるのは難しいため、自分と同じ高さくらいの木本類の葉っぱや枝などが主食となります。

こうして若木が成長段階でヘラジカに食べられると、キャノピー(林冠)まで成長することができません。

するとそれらの木々の林床部には他よりも日光が行き届くため、低木など様々な種類の植物が下生えを形成することができます。

このような林床部の植生は、それを構成する植物の繁栄だけでなく、それを住みかやエサとする生物の生活を支えているかもしれません。

ヘラジカはその生態系においてなくてはならないキーストーン種として、体に負けない大きな役割を果たしているのです。

参考:キーストーン種について

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ヘラジカ
夏の袋角 | Photo credit: NPS Climate Change Response

ヘラジカの生態

生息地

ヘラジカは北米とユーラシアの、標高2,500mまでのツンドラやタイガから亜寒帯、温帯の森林に生息します。

森林には沼や湖、湿地があり、冬には60㎝以上の積雪があることもあります。

また、火事や伐採、洪水などの影響で攪乱された状態から再生する段階の森林が彼らにとっては非常に重要です。

北米では南は五大湖まで分布し、特にカナダのブリティッシュコロンビアでは西方に分布域を拡大しています。

オーストリアでは絶滅しています。

また、かつてニュージーランドに導入されたことがありますが、今では絶滅しています。

形態

体長はオスが2.5~3.2m、メスが2.4~3.1m、肩高は2.3mまで、体重はオスが360~600㎏、メスが270~400㎏、尾長は8~12㎝、耳は約25㎝、体毛は15~25㎝です。

上顎切歯と犬歯が欠けています。

角は4~5月に生え始め、12~1月に大抵抜け落ちます。

嗅覚と聴覚に優れ、耳は180度ずつ回転させることができます。

ヘラジカ
5月のオスの袋角 | Photo credit: Seokhee Kim

食性

春や夏にはカバノキ、ヤナギ、トリネコなどの広葉樹の葉を、秋冬にはそれらの枝、そしてモミやヒノキなどの針葉樹、地衣類、コケ類を食べます。

このほか、ベリー類やツツジなどの低木や、水生植物、ミネラルリックを利用します。

森林に近いところであれば農作物を食べることもあります。

捕食者にはオオカミヒグマアメリカクロクマピューマが知られています。

主に弱った大人や子供が狙われます。

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行動・社会

昼夜問わず活動しますが、明け方と夕方に最も活発になります。

暑いときは陰で休んだり水に入ったりします。

泳ぎが得意で、時速10㎞で泳ぐことができ、10㎞以上の長距離を泳ぐこともあります。

一方、普段は静かに移動しますが、最高時速50㎞以上で走ることができます。


ヘラジカは繁殖期を除き単独性です。なわばり性は弱く、餌場では複数が集まることもあります。

行動圏は3.6~259㎢で、一部の個体群は1年の間に長距離移動(北米では170㎞、ユーラシアでは300㎞)することが知られています

コミュニケーションにはにおいや音声が使われます。

繁殖期にはオスもメスも音声を用いますが、この時のメスの音声は3㎞以上先にも届くようです。

オスはメスをめぐってしばしば闘争します。

繁殖

繁殖は9月から10月にかけて見られます。

メスは約8ヵ月の妊娠期間の後、体重11~16㎏の赤ちゃんを1~2頭産みます。

赤ちゃんの育ちは早く1日に1㎏体重が増え、生後5日には人間よりも速く走ることができます。

生後3週ごろには固形物を食べ始め、生後5ヵ月頃までには完全に離乳します。

その後、次の繁殖期までは母親とともに過ごし、2歳ごろ性成熟に達します。

ただ、完全に成熟するのは雌雄とも4~5歳ごろです。

寿命は野生で8~15年、最大で22年です。

ヘラジカ
Photo credit: USFWS Mountain-Prairie

人間とヘラジカ

絶滅リスク・保全

ヘラジカは全体的に増加傾向にあり、特にスカンジナビアで顕著です。

また、コーカサスでは分布域を拡大しています。

ヨーロッパには約44万頭、北米には約100万頭のヘラジカがいると推測されており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。


脅威としては人間による生息地の改変や、オジロジカなどから伝染する病気、狩猟などがあります。

18~19世紀、ヨーロッパでは狩猟により個体数が激減しましたが、今では回復しています。

ただ、狩猟は現在でも行われており、北欧などでは重要な肉の一つとされています。

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動物園

日本でヘラジカを見ることはできません。

ヘラジカ
Photo credit: USFWS Mountain-Prarie
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