ヤマバクの基本情報
英名:Mountain Tapir
学名:Tapirus pinchaque
分類:奇蹄目 バク科 バク属
生息地:コロンビア、エクアドル、ペルー
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
山のバクの危機
バク科に属する4種のバクは、すべて絶滅危惧種ですが、アンデス山脈の高山地帯に生息するふさふさの毛が特徴的なヤマバクは、その生態の性質上、特に絶滅の危機に瀕していると言えます。
ヤマバクにとって、狩猟はかつて主要な脅威の一つでした。
彼らの肉は食用として消費され、皮はカーペットやカバンなどに使用されてきました。
また、体の一部はてんかんや心疾患に効く薬としても需要がありました。
しかし、地方政府などによる制限や人々の保全意識の高まりにより、狩猟はいまや大きな脅威ではなくなりつつあります。
そんな中、現在最大の脅威となっているのが生息地の破壊とそれに伴う生息地の分断です。
道路やダムなどのインフラの整備や金属・石油の採掘、バクの生息地の農地への転換などなど、人間の活動はバクの住処を奪うだけでなく、彼らの生息地を分断します。
南米では最大級の動物であるヤマバクは広い範囲の生息地を必要とします。
生息地の分断はヤマバクの移動範囲を狭め、彼らの生存に負の影響を与えます。
また、特にインフラの整備は密猟者がヤマバクの生息地にアクセスしやすくしています。
さらに車にひかれるロードキルの可能性も高まるため、インフラの整備はヤマバクの大きな脅威となりうる可能性があります。
ところで、ヤマバクが生息するコロンビアでは長らく内戦が続いていました。
森林に潜むゲリラの存在は、以上のような人間活動を妨げる効果があるとしてヤマバクにとっては利益となるとされる一方、武器が出回ることを考慮すると、学者たちは戦闘状態にあることはヤマバクにとっては不利益になると考えているようです。
さて、こうした脅威に加え、畜牛の導入も問題です。
かつてのヤマバクの生息地に解き放たれた畜牛は、病気をヤマバクに移す可能性があります。
実際、ヤマバクやアメリカバク、ベアードバクでは、畜牛からの病気の感染が確認されています。
そして、高山地帯に住むヤマバクに特有の脅威が気候変動、特に地球温暖化です。
気温が高くなると、ヤマバクが好む環境の標高は必然的に高くなります。
山には頂上が存在するので、気温が上がり続けるとヤマバクは袋小路にはいってしまいます。
その意味で、ヤマバクにとって地球温暖化は特に憂慮すべき問題かもしれません。
ヤマバクの今後の生存のために、解決すべき問題は山積みです。
ヤマバクの生態
生息地
ヤマバクは標高2,000m~4,000mの間の熱帯山地林、雲霧林などに生息します。
形態
体長は約1.8m、肩高は約1m、体重は150~250㎏、尾長は約10㎝で、バク科では最小となります。
防寒のために毛が密に生えており、長さは2.5㎝ほどになります。
足の指は他のバクと同様、前に4本、後ろに3本です。
食性
植物食のヤマバクは、葉や枝、果実などを長い鼻を上手に使って食べます。
捕食者にはピューマやメガネグマが知られています。
行動・社会
シャイなヤマバクは主に単独性です。
薄明薄暮性で、寒い日はより活発になります。
泳ぎが得意で、泥浴びもよくします。
嗅覚と聴覚が発達しており、それを活かしたコミュニケーションを行います。
繁殖
雨季が始まる前に多くの繁殖が行われるようです。
メスは約2年に1度の間隔で、約13ヵ月の妊娠期間ののち、体重4~7㎏のスイカ模様の赤ちゃんを一頭産みます。
赤ちゃんは生後半年ごろ離乳し、1~2歳で独立、2~4歳で性成熟に達します。
寿命は飼育下では20~30年です。
人間とヤマバク
絶滅リスク・保全
ヤマバクの成熟個体数は2,500頭未満と推測されています。
彼らは過去33年の間で個体数が50%以上減ったとされており、同じ割合が今後の33年で減るだろうと予測されています。
ヤマバクはIUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定され、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されています。
動物園
ヤマバクには日本では会えません。
日本だけでなく、世界でもヤマバクを飼育している動物園はほとんどないようです。