アマゾンカワイルカの基本情報
英名:Pantropical Spotted Dolphin
学名:Stenella attenuata
分類:鯨偶蹄目 アマゾンカワイルカ科 アマゾンカワイルカ属
生息地:ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラ
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉

参考文献
ピンクイルカ
アマゾンカワイルカはその名の通り、アマゾン川に生息するイルカです。
多くのイルカは海に住みますが、このイルカは淡水や汽水域に生息する珍しいイルカです。
彼らがユニークなのはそれだけではありません。
濁った川で暮らすアマゾンカワイルカは、目が悪く、視力は0.02ほどしかありません。
そこで彼らは目ではなく音に生活を頼ります。
他のハクジラ同様、彼らはエコロケーションで周囲の状況を把握するのです。
これに加え、彼らの口先には洞毛(とうもう)呼ばれる感覚毛が生えています。
他の鯨類では、この洞毛は赤ちゃんのうちに消えてしまいますが、アマゾンカワイルカの場合は大人になってもなくならず、エサなどの動きや周囲の状況を感知するのに役立っています。
それだけではありません。
アマゾンカワイルカは、川や湖などで暮らしますが、特に洪水で水没した森林では、水中は障害物だらけ。
他のイルカであれば泳ぐのに難儀しますが、アマゾンカワイルカはとても柔軟で、障害物をものともしません。
水深2mという浅い川でもすいすい泳いでいきます。
それを可能にするのが柔らかい首です。
多くの鯨類では頸椎が癒合していますが、アマゾンカワイルカの頸椎は癒合しておらず、自由に首を動かすことができます。
さらに彼らのほとんど稜線と言っていい低い背びれのおかげで、障害物に引っかかることもありません。
ちなみに、彼らのように頸椎が癒合していない鯨類にはほかにシロイルカなどがいます。

アマゾンカワイルカの特徴は嘴にも見て取れます。
細長い嘴には上下に31~36対の歯が生えています。
この歯も特殊で、普通ハクジラでは同じ形の歯しか生えていませんが、彼らの場合、歯には前方の尖った歯と、奥の土台が広がったような歯の2種類があります。
この形の違う歯のおかげで彼らは硬い甲殻類や、カメまで捕食することができます。
また、彼らはこの口を使って枝やはっぱを水面にたたきつけたり投げたりするなどの、他の鯨類では見られない特殊な行動も見せます。
ここまでアマゾンカワイルカがどれだけユニークなイルカであるか説明してきましたが、彼らの最大の特徴と言えば、なんといってもその色。
ピンクのイルカなど彼らのほかにいません。
ただ、ピンクなのは大人だけ。
生まれたときは灰色がかっていますが、年を取るにつれてピンクがかってきます。
また、オスの中には鮮やかなピンクになるものがおり、彼らはメスに特にモテるようです。
この鮮やかなピンク色は、ケンカの傷によるものと言われたり、水温などの環境によるものと言われたりしていますが、その理由は定かではありません。
なんにせよ、アマゾンカワイルカはその色からピンクカワイルカと呼ばれることもあります。

アマゾンカワイルカの生態
分類
カワイルカ類はラプラタカワイルカ科、ヨウスコウカワイルカ科、ガンジスカワイルカ科、アマゾンカワイルカ科の4科に分かれるとされています。
アマゾンカワイルカにはボリビアカワイルカ(I. g. boliviensis)とアマゾンカワイルカ(I. g. geoffrensis)という2亜種が認められています。
ただ、分類についてはいまだ議論があり、2亜種を独立種としたり、アマゾン川に合流しないトカンチンス川の支流であるアラグアイア川に生息する種をアラグアイアカワイルカ(Inia araguaiaensis)という独立種とする場合もあります。
生息地
アマゾンカワイルカはアマゾン川やオリノコ川、トカンチンス川に生息します。
鯨類では唯一コビトイルカと生息域が重複しています。
形態
体長は1.8~2.6.m、体重はオスが平均154㎏、メスが平均100㎏で、オスは最大200㎏にもなります。
アマゾンカワイルカはカワイルカ類の中で最大となります。
背びれと呼べるものはなく、5cmほどの稜線が50㎝ほどあります。
食性
水位が激しく変化する環境に住むアマゾンカワイルカが食べるエサの種類は40種以上と、鯨類で最も多いとされています。
主食は魚類ですが、甲殻類やカメなども稀に食べます。
毎日体重の2.5%ほどを食べるとされています。

行動・社会
通常単独もしくは5頭前後の群れで生活しますが、場合によっては40頭ほどの集団となることもあります。
水位が高いとき、オスが主流で生活する一方、子連れの母親は水没した森林や湖にいることが多いです。
これは水の流れが遅いこと、サメなどの捕食者やオスから狙われにくいことが理由と考えられます。
水位が低くなると、閉じ込められる危険性があることからも、主要な水路に雌雄が集まります。
交尾は水位が低くなったこの時に行われます。
繁殖
性的二型が見られることからオスはメスをめぐって闘争していると考えられます。
つまり、オスは複数のメスと交尾している可能性があります。
メスは約11カ月の妊娠期間ののち、80~90㎝、10~13㎏の赤ちゃんを一頭産みます。
母親は1年ほど授乳しますが、授乳と妊娠が重複することもあります。
子は母親と2年は連れ添い、独立したのち、メスは7~10歳で初産を経験します。
寿命は長くて30年ほどといわれています。
人間とアマゾンカワイルカ
絶滅リスク・保全
アマゾンカワイルカにとって、混獲や生息地の破壊に繋がるダムの建設、森林伐採、汚染をもたらす金や油の採掘は大きな脅威です。
2000年代に入ると、こうした脅威に加え、漁獲する魚のエサとして捕らえられることが多くなります。
これはブラジルから始まったとされており、その後ペルーやコロンビア、ボリビアに急速に広がっていきます。
ブラジル西部のマミラウア自然保護区では、2000年をまたぐ22年ほどの間で、個体数が70%以上減少したと推測されています。
現在、個体数全体の推計はありませんが、2000年から2075年までの間で個体数は少なくとも50%以上減少すると推定されています。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されています。


動物園
日本でアマゾンカワイルカを見ることはできません。
コロンビアなどでは彼らを飼育する水族館があるようですが、そこまで行くならぜひ野生のアマゾンカワイルカを見たいものです。