コミミイヌの基本情報
英名:Short-eared Dog
学名:Atelocynus microtis
分類:イヌ科 コミミイヌ属
生息地:ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉
未知の原始イヌ
いわゆるイヌっぽさが、そのマズル(吻)部分にぐらいしか見られないこのイヌ科動物。
名前をコミミイヌと言います。
和名のコミミ、英名のShort-eared、種小名のmicrotis(ギリシャ語でmicroは小さい、otは耳を表す)は、ともに彼らの小さな耳を表しています。
耳の大きさは3.4~5.6㎝で、イヌ科動物の中では最も小さいです。
コミミイヌの姿は、ヤブイヌに似ており、オオカミなど他のイヌ科動物の姿からはかけ離れています。
しかし、原始的なイヌ科動物はコミミイヌやヤブイヌのような姿をしていたと思われます。
元来、イヌ科動物は森林の動物です。
コミミイヌやヤブイヌ、そして日本人に身近なタヌキなど、一見イヌ科動物とは思えない彼らも、イヌ科動物の祖先と同じく、みな森林で暮らします。
そんな森林で暮らしていたイヌ科動物の先祖が、ある日草原へと飛び出したことで、最終的に現在のオオカミのようなすらっとした姿になったのです。
今ではイヌ科動物と言うと、オオカミが代表となっているようですが、源流を濃く汲んでいるという点から言えば、コミミイヌたちの方が代表となるにふさわしいでしょう。
しかし、コミミイヌの属名(ギリシャ語でatelesは不完全な、cyonはイヌを表す)に見られるように、発見当初から彼らは傍流扱いとされていたようです。
なんとも不憫です。
さて、そんなコミミイヌですが、森林で生活しているためか、彼らが用心深いためか、人の目に付くことがなく、その生態はほとんど知られていません。
彼らに関する情報は数少ない飼育個体からのもので、コミミイヌはイヌ科動物の中でも特に研究が進んでいない種です。
彼らの生態を知ることは、イヌ科動物の祖先がどのような生活をしていたかを知ることにもつながります。
コミミイヌがどのような暮らしを営んでいるのか、今後の研究を待つばかりです。
コミミイヌの生態
名前
ペルーの原住民アマラカエリは、コミミイヌを“huiwa toto”と呼びます。
これは一匹の悪魔という意味で、彼らが男の睾丸に咬みつくという迷信に由来しています。
コミミイヌは、興奮するとしっぽの毛を逆立てます。
ただでさえ太い尾が更に太くなり旗のように見えることからブラジルのタパジョス川流域の人々は、彼らを“旗の尾をした野生イヌ”と呼んでいるようです。
生息地
コミミイヌは、標高2,000mまでのアマゾンの低地熱帯雨林に生息します。
食性
主に魚類、昆虫、齧歯類などの小型哺乳類を食べます。
その他に、カエル類、爬虫類、甲殻類、鳥類、果実なども食べます。
捕食者には、オセロットやピューマ、ジャガーがいます。
形態
体長は70~100㎝、体重は約10㎏、尾長は30㎝前後で、メスの方がオスより3分の1ほど大きくなります。
手足にはヤブイヌのように部分的に水かきがあります。
オスは肛門付近に臭腺を持っており、驚いた時や脅威を感じたときにそこから臭い分泌物を出します。
行動
彼らが最も活発な時間帯や、どのような行動をするかなどについてはほとんど分かっていません。
ただ、魚を食べることや水かきがあることなどからも、かなりの程度水辺での生活に適応していることがうかがわれます。
繁殖
繁殖に関してもほとんど分かっていません。
産仔数については、コミミイヌが2~3頭の子供を連れているという目撃例があります。
寿命は飼育下で約10年です。
人間とコミミイヌ
絶滅リスク・保全
コミミイヌは、主に生息地の破壊により個体数を減らし続けていると推測されており、IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧の評価を与えられています。
ただ、目撃例が増加していることから、個体数は一部地域で増えていると考えらえています。
しかし、目撃例の増加は、学者や観光客の増加や、カメラトラップなど彼らを捕らえる技術が向上したことなどに起因しているとも考えられます。
今後、彼らの研究が進めば、個体数などの実態も分かってくることでしょう。
動物園
そんなコミミイヌですが、半ば当然ながら日本の動物園では見ることができません。
いつの日か日本でも彼らを見ることができるようになるといいですね。