ナマケグマの基本情報
英名:Sloth Bear
学名:Melursus ursinus
分類:クマ科 ナマケグマ属
生息地:インド、ネパール、スリランカ
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
アリクイグマ
英名に付く“Sloth”とは怠惰や怠け者を意味し、あの動きがゆっくりとしたナマケモノのことも指します。
そんな言葉を名前に付けられ、発見当初は上顎の切歯がないことからナマケモノの仲間とされたことすらあるナマケグマ。
本当に彼らは“ナマケ”という名にふさわしい動物なのでしょうか。
ナマケモノと比べると、答えは否です。
ナマケグマは、人よりも早いスピードで走ることができるし、食物も沢山摂取します。
トラのような敵に遭遇したらナマケモノのようにじっとせず、立ち向かいもします。
下の動画ではナマケグマがトラと戦い、追い払う様子を見ることができますが、このような姿を見れば彼らを怠けているとはとても形容できません。
そこで、ここでは新たな名前を提案しようと思います。
「アリクイグマ」です。
ナマケグマは、8種いるクマ科動物の中で最も昆虫を食べるクマです。
果実のなる季節以外では摂取する食物の8割以上を昆虫が占めるほどです。
この昆虫の中でも特に好きなのが、アリとシロアリです。
ナマケグマの嗅覚は非常に優れており、地下深くのアリやシロアリの存在をにおいで感知します。
そして、長い爪と強靭な前足で土を掘り、大きな舌や長い下唇を使って獲物をすすり取ります。
この時の音は大きく、100m以上先でも聞こえると言います。
下の動画では、彼らがアリクイを食らう様子を見ることができます。
舌や爪以外にも、ナマケグマはアリやシロアリを食べるためにいくつかの特徴を持っています。
例えば、ナマケグマは鼻の穴を自在に閉じることができます。
これはアリやシロアリが鼻の中に入ってこないようにするためです。
また、先ほど述べた通り、ナマケグマは上顎切歯が退化しています。
そのため、歯がアリやシロアリを大量に舐めとるのを邪魔することはありません。
ちなみに、アリやシロアリをよく食べる有名な動物にアリクイがいますが、彼らには歯が全くありません。
さらにちなむと、アリクイはナマケモノと同じく有毛目(ナマケグマは肉食目)に分類されます。
こう見るとナマケグマはなにかとナマケモノとの因縁があるように思えます。
さて、アリやシロアリを食べるという特徴に由来したアリクイグマという名称は、ナマケグマという名称よりもふさわしいのではないでしょうか。
そもそも、ナマケグマは勝手に怠惰を意味する名前を付けられ、不服に感じているのではないでしょうか。
まあでも、どんな名前を付けられようが、そんなの気にすることもなく、彼らは今日もせっせとアリとシロアリを食べるのでしょうが。
ナマケグマの生態
生息地
ナマケグマは、南アジアの森林地帯に生息します。
低地を好みますが標高2,000mでの観察例があります。
生息地の9割はインドに位置すると考えられており、かつて生息していたブータンやバングラデシュでは絶滅した可能性があります。
生息地の一部では、ツキノワグマとマレーグマと、同所的に生息しているようです。
食性
ナマケグマは雑食性ですが、昆虫を好んで食べます。
この他、葉やハチミツ、花、果実なども食べ、果実がなる季節には食物の7~9割を果実に依存するようになります。
農地が近ければ、サトウキビやトウモロコシ、ピーナッツなどの作物を利用することもあります。
主な捕食者にはトラがいますが、その他ヒョウやドールも彼らを襲うことがあるようです。
形態
体長は1.5~1.9m、肩高は60~90㎝、体重はオスが80~140㎏、メスが55~95㎏で性的二型が見られます。
尾はクマ科の中で最長で、15~18㎝になります。
手足は大きく、穴を掘る爪は約10㎝にもなります。
鼻先は動かすことができ、においをかいだり砂を払ったりするのに使われます。
胸にはUやYの模様があることがあります。
行動
ナマケグマは主に夜行性ですが、特に子連れの母子は日中活動します。
単独性と考えられ、行動圏は他のクマと比べて狭いようです。
木登りはできますが、ツキノワグマほど素早くは登れません。
また、泳ぐこともできます。
ナマケグマは、ヒグマなどに見られる冬ごもりはしません。
繁殖
繁殖は地域によっては年中行われるようですが、一般的には5月~7月に行われると考えられています。
妊娠期間は6~7カ月で、通常1~2頭の赤ちゃんが産まれます。
赤ちゃんは生後3週以降に目を開き、4~5週で巣穴から出始めます。
ナマケグマでは、子どもが母親の背中に乗る姿がよく観察されます。
子供は1.5~2.5歳で独立し、約3歳で性成熟に達します。
寿命に関しては、飼育下で40年近く生きる個体もいるようです。
人間とナマケグマ
絶滅リスク・保全
ナマケグマは、生息地の破壊、分断、密猟などのために個体数を減らし続けています。
ナマケグマを捕らえることは禁止されていますが、胆のうや脂肪、歯、骨、爪などを伝統的な儀式や薬に利用するため、密猟が未だ絶えません。
また、今ではほとんど見られなくなったものの、かつては“踊るクマ”という見世物として野生のナマケグマの子供がさらわれていました。
これら脅威に加え、増加する人口は人とナマケグマの更なる軋轢を生みます。
ナマケグマには、トラという捕食者がいるためか攻撃性があり、人を襲い死に至らしめることもあります。
インドで行われたある調査では、1989~1994年の間に700件以上もの襲撃事故があったと言います。
人口が増えている今、こういった事故は増えているようで、作物を荒らすことも加えて、人々の間にはナマケグマに対するよくないイメージが醸成されています。
このような人々の認識は、保全の際の懸念事項となっています。
この他、スリランカでは四半世紀も続いた内戦の影響も示唆されています。
ナマケグマは現在、絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、CITES附属書Ⅰに記載されています。
動物園
そんなナマケグマですが、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
ナマケグマは、日本で飼育されていない唯一のクマです。
いつの日か彼らも日本で見ることができるようになるといいですね。