クチジロペッカリーの基本情報
英名:White-lipped Peccary
学名:Tayassu pecari
分類:鯨偶蹄目 ペッカリー科 クチジロペッカリー属
生息地:アルゼンチン、ベリーズ、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、フランス領ギアナ、グアテマラ、ガイアナ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ベネズエラ
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉

参考文献
群居性のペッカリー
ブタのような姿をした動物、分類でいえばイノシシ亜目に分類される哺乳類は、イノシシ科とペッカリー科に分けることができます。
両者は似たような姿かたちをしていますが、実は4,000万年前ごろにはすでに分岐していたとされています。
よく似た両者ですが、違いもあります。
例えば、イノシシは上方向に曲がり、外からも見える顕著な上顎犬歯を持ちます。
一方、ペッカリーの上顎犬歯は下を向いており、外からも見えず盛り上がりが見えるくらいです。
そんなペッカリー科には3種が現存しますが、口元の白い毛が特徴的なクチジロペッカリーは特に群居性が高いイノシシ亜目の哺乳類です。
彼らは多いと200頭以上にもなる群れを作ります。
群れにはオスもメスも含まれていますが、メスの方が序列が高いようです。
群れのメンバー同士の絆は、臀部の臭腺からでるにおいや、鳴音や歯をカチカチ鳴らす音などで保たれています。
クチジロペッカリーの群れは大きいため、広い行動圏を必要とします。
彼らの年間の行動圏は広いと120㎢にもなり、群れは長いと1日に10㎞も移動します。
クチジロペッカリーは果実を主食としますが、種子は完全に消化されないことがあります。
広範囲を群れで移動する彼らは、種子散布者として森林の維持に貢献しています。
また、地面を踏み固めて道を作ったり、植物を食べて適度に間引いたりなどなど生態系においても重要な役割を果たしています。
ところで、彼らの群れはより小さい群れに分かれることもあります。
亜集団のメンバーは一定ではなく、入れ替わりは普通にあるようです。
群れを亜集団に分裂させる要因は、エサや水の豊富さが主なようです。
群れのメンバーでケンカせずに暮らすために、このような群れの一時的な分裂は必要です。
これに加え、別の要素も彼らの群れの分裂に関係していると考えられています。
クチジロペッカリーは、現地の人々の生活にタンパク源や収入源として必要で、少なくない数が狩られています。
人間からすれば、クチジロペッカリーは集団で暮らすため、一度の狩りでたくさんの個体を狩ることができますが、クチジロペッカリーからしたらたまったものではありません。
この狩猟圧は、彼らが亜集団に分かれる一つの要因とされています。
群れでいることは防御の面で有利ですが、圧倒的な力の前ではむしろ弱点となってしまうのです。

クチジロペッカリーの生態
生息地
クチジロペッカリーは、中南米の標高1,900mまでの新熱帯区に生息します。
多くは湿潤熱帯林に生息しますが、乾燥した草原やウッドランド、グランチャコ、マングローブなどにも生息します。
エルサルバドルでは絶滅したとみられています。
形態
体長は75~100㎝、肩高は45~60㎝、体重は25~40㎏、尾長は1.5~5.5㎝で、犬歯はオスの方が大きくなります。
前肢には2つの主蹄と2つの小さい副蹄、後肢には2つの主蹄と一つの小さい副蹄があります。

食性
雑食性ですが植物質が多くを占めます。
彼らは140種以上の果実を食べ、このほか根や種子、昆虫、菌類、魚類、小型脊椎動物、死肉なども食べます。
捕食者にはピューマとジャガーが知られています。


行動・社会
日中だけでなく夜にも活動します。
泳ぐことができるため川を渡って移動することもあります。
他のペッカリーやイノシシ同様、泥浴びをよく行います。
ケンカや捕食者と対峙した際などは毛を逆立てます。
繁殖
季節繁殖をしますが、その時期は地域によります。
メスは150~160日の妊娠期間の後、1㎏強の赤ちゃんを通常2頭産みます。
赤ちゃんは生後数時間で走れるようになります。
生後半年までに離乳し、1~2歳で性成熟に達します。
寿命は野生では10年程度です。

人間とクチジロペッカリー
絶滅リスク・保全
クチジロペッカリーはこの18年(3世代)で30%近く個体数を減らしており、現在も個体数を減少させています。
エルサルバドル含め一部の地域ではすでに絶滅しているようで、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
主な脅威は生息地の減少、狩猟、家畜との競合です。
ペルーでは生活のための狩りが認められており、肉は30ドル、毛皮は3ドルで取引されています。
毛皮の輸出はワシントン条約により認められており、毎年約3.5万頭分が割り当てられています。
毛皮はペルーでなめされ、ヨーロッパに渡り、手袋などの革製品となりますが、この狩猟がクチジロペッカリーの個体数に負の影響を与えている可能性が指摘されています。
ワシントン条約(CITES)において、彼らは附属書Ⅱに記載されています。

動物園
日本でクチジロペッカリーを見ることはできませんが、近縁のクビワペッカリーには、日本のいくつかの動物園で会うことができます。