シロオリックスの基本情報
英名:Scimitar-horned Oryx
学名:Oryx dammah
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 オリックス属
生息地:チャド
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉

絶滅からの復活
英名にある“Scimitar”とは三日月刀のことで、1m以上にもなるその角を形容しています。
その角と白と茶色からなる体色が特徴的なシロオリックスは、乾燥に非常に強い動物で、数週間水を飲まずに生きていくことができます。
彼らは体温を46度以上にまで上げることができるため、人間が暑いと感じる程度の気温では汗をかく必要がありません。
また、エサが豊富にあれば、夜には排泄を通じて体温を36程度にまで下げることができるため、日中の体温上昇を和らげることができます。
他の動物は体温がここまで上がると脳が損傷してしまいますが、彼らは脳に行く血液が呼吸による蒸発が盛んにおこなわれる吻部付近で5度近く冷やされるため、その心配はありません。
そんな乾燥と暑さにめっぽう強いシロオリックスですが、一度野生で絶滅しています。
かつてサハラ砂漠の北部と南部の半砂漠地帯に広く分布し、1万年ほど前には100万頭が生きていたとされる彼らは、時に政治的不安定により加速した過度な狩猟と生息地の破壊により個体数を減らし、19世紀から20世紀にかけて各国で絶滅していきます。
そうして20世紀末、1頭のオスが殺されたのが彼らの野生での観察例の最後となったのち、2000年にIUCNによって彼らの野生絶滅(Extinct in the Wild)が宣言されるに至ります。
しかし、その後の2008年、政府や保全団体、動物園など何百もの組織の活動により、シロオリックスの野生復帰計画が始動します。
そして2016年、遺伝的多様性を保つために世界中からアブダビに集められたシロオリックス達21頭が空輸され、ついにチャドのライム渓谷-アキム渓谷動物保護区に放されます。
ライム渓谷-アキム渓谷動物保護区は7.8万㎢(北海道の面積が約8.3万㎢)におよぶ巨大な動物保護区で、チャド最大、アフリカでも最大級です。
この地には2022年までに250頭を超えるシロオリックスが追加で放たれますが、個体群は安定的に増加しているようです。
彼らの再導入が始まった2016年末には最初の赤ちゃんが野生で生まれ、その後も500頭を超える赤ちゃんが野生で生まれます。
現在の野生個体数は600頭を超えると推測されており、2023年にはとうとう、IUCNによって野生絶滅から絶滅危惧ⅠB類に格下げされました。
現在、完全な野生下にあるシロオリックスはチャドの個体群だけとされていますが、チュニジアやセネガル、モロッコなどではフェンスで囲まれ管理された個体群が数百頭おり、彼らの完全なる野生復帰が期待されています。
野生絶滅から復帰した動物には他に、モウコノウマやクロアシイタチなどが知られていますが、中でもシロオリックスはもともとの分布域が各国に及ぶ動物です。
世界中の団体が協力して野生復帰が実現したこのシロオリックスの例は、哺乳類の再導入や野生復帰において重要な成功例と言えるでしょう。



シロオリックスの生態
生息地
シロオリックスは、半砂漠や乾燥ステップなど、高温乾燥地帯に生息します。
アメリカのテキサス州や南アフリカでは牧場で飼育されていますが、彼らはチャドで捕獲された野生個体の子孫とみられています。
アラブ首長国連邦でも3,000頭程度が飼育されています。
形態
体長は1.6~1.8m、体重は120~200㎏、尾長は60㎝で、オスの方が大きくなります。
角は雌雄ともに生え、1m程度になりますが、1.2mを超えるものもあります。
メスの角はオスよりも細身です。

食性
一年草などの草や根、蕾、果実などを食べます。
ウシ科動物に属する彼らもまた反芻動物です。
本来の捕食者にはライオンやヒョウ、ハイエナ、アフリカンゴールデンウルフなどがいます。




行動・社会
数頭から40頭までの単雄複雌の群れを作り、群れは優位な1頭のオスにより率いられます。
他の若いオスは若いオス同士で群れをつくり、単独生活はしないとされています。
繁殖
メスの妊娠期間は約8.5ヵ月で、9~15㎏の赤ちゃんを1頭産みます。
赤ちゃんは他のオリックス同様、黄みがかった単色で生まれますが、その後大人の色になっていきます。
寿命は飼育下で20年以上です。

人間とシロオリックス
絶滅リスク・保全
シロオリックスの個体数は増加傾向にありますが、それを阻む狩猟や病気、生息地の減少といった脅威があります。
シロオリックスは肉や毛皮、角を目的に密猟されてきました。
毛皮は丈夫らしく、ロープやカバン、靴などに使われます。
ただ、現在シロオリックスは、保護区内で管理されているため、密猟の脅威は低いとされています。
一方で、今後彼らが生息域を拡大した場合の密猟の影響が懸念されています。
また、リフトバレー熱などの病気の蔓延もまた脅威であり、これらは豪雨などの気候変動に関係する場合があります。
また、気候変動はサハラ砂漠の拡大に関係していると思われます。
1950年から2015年の間に、サハラ砂漠は8%も広くなり南縁は100㎞も拡大しており、シロオリックスの潜在的な生息環境を狭める恐れがあります。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されており、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されています。

動物園
世界には数千頭のシロオリックスが動物園で飼育されていますが、日本も飼育されたシロオリックスを見ることができる国です。
サファリパークを含め、10以上の動物園で、彼らを見ることができます。