アジアゾウの基本情報
英名:Asian Elephant
学名:Elephas maximus
分類:長鼻目 ゾウ科 アジアゾウ属
生息地: バングラデシュ、ブータン、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、スリランカ、タイ、ベトナム
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
参考文献
ゾウは賢いぞう-象と人間のかかわり
ゾウは脳の重量がヒトの3倍以上もあり、嗅覚のほか、記憶力、学習能力が優れているといわれています。
例えば、彼らは鏡の中の自分を認識することができます。
この能力は哺乳類では大型類人猿、イルカやシャチといった動物でしか確認されておらず、自分という概念がゾウにもあることを示します。
また、ゾウは水場の位置を何十年も保持できますし、トラックの音真似もできます。
さらに、お互いを鼻で撫であって仲間の死を悼むような行動も見られますし、訓練すれば絵を描くことだってできます。
これだけ賢いためか、特にアジアゾウは歴史的に人と深く関わってきました。
ゾウは早くから世界史の舞台に登場します。
4000年以上も昔の、モヘンジョダロで有名なインダス文明の時代にはすでにゾウは知られており、遺跡からはゾウの印章が出土しています。
また、インドや地中海では、ゾウは戦象として戦いに駆り出されます。
カルタゴ将軍のハンニバルによる、ゾウを用いたアルプス山脈越えは勝敗にさえ影響しました。
現在、ミャンマーのカチン独立軍では物資を運ぶために50頭近いゾウが飼育されているようですが、戦いの場にゾウが参戦することはなくなっています。
ゾウは宗教にも登場します。
例えば、ヒンドゥー教の神、その名が「群衆の主」を意味するガネーシャの頭部はゾウです。
ガネーシャは現生利益をもたらす神として、人々から信仰を集めています。
インドやスリランカなどではゾウを飼育する寺院もあります。
こうした地域のお祭りでは、ゾウは華やかに着飾り、通りを行進します。
インドの3大祭りであるダサラ祭でも装飾されたゾウが活躍します。
仏教とのかかわりも深いです。
ブッダの母・マーヤーは、白いゾウの姿をしたブッダが自らの右脇に入ったという夢を見たのち、ブッダを懐妊したといわれています。
また、仏教の前世の物語である『ジャータカ』にもゾウの説話が残っています。
ゾウは現代の人間の生活にも深く関わっています。
例えばミャンマーでは、道のない山に入って木を運ぶという役割をゾウが負っており、その土地の林業には欠かせない存在となっています。
また、動物園などではその迫力で、そしてその賢さで私たちを楽しませてくれます。
さらには芸術となって私たちを魅了してくれることもあります。
鶏の絵で有名な伊藤若冲はゾウの絵をいくつか残しています。
徳川吉宗の時代にゾウが日本に来たようで、伊藤若冲も直接ゾウを見たのではないかといわれています。
というように、ゾウは長らく人と深いかかわりを持ってきましたが、それはいつもいい関係とはいきません。
近年起こっている問題について、後ほど紹介しましょう。
アジアゾウの生態
分類
アフリカゾウ(サバンナゾウとマルミミゾウ)とアジアゾウの祖先は、約700万年前に分岐したとされています。
その100万~200万年のち、アジアゾウとマンモスが分岐します。
マンモスは約1万年前まで地球に存在していましたが、その後絶滅しています。
現在、アジアゾウにはインドゾウ、セイロンゾウ、スマトラゾウの3亜種が知られています。
このほかボルネオゾウを亜種として位置付ける学説もあります。
生息地
アジアゾウは、南アジア、東南アジアにかけて、標高3,000mまでの熱帯雨林や草原、時には農地など人の手が入ったところに生息します。
かつてはユーフラテス川流域から中国にかけて、広く生息していたといわれています。
現在アジアゾウはかつての5%の生息地で暮らしています。
生息地は分断されており、人との遭遇の可能性が近年高まってきています。
形態
アジアゾウの全長は5.5~6.5m、肩高はオスが2.4~3.4m、メスが2~2.4m、体重はオスが3.5~6トン、メスが2~3.5トン、尾長は1.2~1.5mで、性的二型が顕著です。
アジアゾウの牙は口の中に納まり外からは見えないこともあります。
スリランカに生息するセイロンゾウは、オスでも9割以上が明瞭な牙を持ちません。
これはかつての狩猟圧によるものだといわれています。
特徴的な鼻は1.5~2mにも及び、アフリカゾウとは異なりその先端の突起は1つです。
食性
アジアゾウは1日のうち14~19時間を採餌に費やします。
日に150㎏もの葉や果実、花、種子、草、樹皮、根などを食べます。
ゾウは盲腸や腸で微生物に植物を発酵させ、栄養を吸収する後腸発酵動物です。
牛のように大きな胃で発酵する前胃発酵動物に比べると消化効率は劣りますが、若い植物であれば最大70%もの栄養を吸収することができます。
捕食されることは稀ですが、トラによる捕食例があります。
■補足:他の後腸発酵動物
行動・社会
アジアゾウは数頭のメスとその子供からなる母系集団を作ります。
アフリカゾウと比べると必ずしも最高齢のメスが群れを率いるわけではなく、群れは小規模です。
また、群れのつながりは緩く、柔軟に離合集散します。
オスは性成熟に達すると群れを離れ単独か、オスだけの群れを作って行動します。
行動域は広いと1,000㎢にもなります。
これにはエサや水場が関係しており、季節が変わると大規模な移動が見られます。
アジアゾウは薄明薄暮時に活発になります。
コミュニケーションにはヒトが聞こえない20Hz以下の低周波も使われ、特に長距離コミュニケーションに多用されます。
10㎞先にも聞こえるようです。
繁殖
アジアゾウは通年繁殖可能ですが、雨季に交尾することが多いようです。
オスは繁殖期にはムストと呼ばれる状態になります。
この間、テストステロンなどのホルモンが急激に上昇し、側頭腺からの分泌物や尿でメスにアピールします。
また攻撃性が高くなり、オス同士の闘争では死に至る場合もあります。
妊娠期間は18~23か月で、100㎏の赤ちゃんが通常1頭生まれます。
赤ちゃんはほかのメスからも世話をうけ(アロマザリング行動)、4歳ごろ離乳します。
栄養状態の影響を受けますが、おおよそ10~15歳の時に性成熟に達します。
実際の繁殖は20歳ごろになります。
寿命は60~70年です。
人間とアジアゾウ
絶滅リスク・保全
アジアゾウは現在、生息地の破壊、分断、密猟などの脅威により個体数を減らし続けています。
農地への転換などにより生息地が分断されると、ゾウと人間の生活圏が重なってしまします。
そうなると例えばゾウは農園を荒らしたり、人間を傷つけたりしてしまい、反対に人間はそんなゾウを毒や銃、電気などで殺します。
こうした人間とゾウの軋轢によりインドでは2018年から2020年の間に人が約1,400人、ゾウが約300頭、スリランカでは2020年から2022年の間に人が約400人、ゾウが約1,100頭、亡くなっています。
また、生息地の分断によりゾウが電車にひかれる数も増えています。
インドでは1987年から2019年の間に310頭のアジアゾウが電車にひかれて死んでいます。
これらに加え、密猟もゾウを窮地に陥れています。
かつては象牙目的の密猟が後を絶ちませんでしたが、近年は皮膚を目的とした密猟が特にミャンマーで増えています。
ゾウの皮膚は漢方に使われたり、幸運を呼ぶアクセサリーとしてブレスレットやネックレスに使われたりしています。
アジアゾウの個体数は1945年と比べると半減しており、現在は約5万頭と見積もられています。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されており、さらなる保全が求められています。
ゾウは保全の象徴として人々からの理解も得やすく、また彼らを守ることで種子散布において彼らに依存する植物種や、ゾウに倒された木々に住む生物たちも守ることができます。
前者に当たる種は象徴種(フラッグシップ種)、後者に当たる種はアンブレラ種と呼ばれています。
動物園
日本にいる多くのゾウはアジアゾウです。全国各地の動物園がアジアゾウを飼育しています。
千葉県の市原ぞうの国では、タイからきているゾウ使いがゾウを飼育しており、アジアゾウだけでなくアフリカゾウも飼育されています。
ゾウにおやつをあげられるだけでなく、毎日開催されている「ぞうさんのパフォーマンスタイム」を見ることができます。
現在、絵を描く「ゆめ花」ほか、10頭が飼育されています。
また、群馬サファリパークではスマトラゾウが、山口県の徳山動物園などではセイロンゾウを見ることができるようです。