マイルカの基本情報
英名:Common Dolphin
学名:Delphinus delphis
分類:鯨偶蹄目 マイルカ科 マイルカ属
生息地:北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
精子競争-キンタマイルカ
最も広く生息し、最も数が多い鯨類の一種であるマイルカは、数百頭~数千頭、時には万を超える群れで生活します。
これだけ数がいれば、オスメスともに、複数の異性と交尾することはほとんど自明です。
実際、マイルカはオスもメスも、複数の異性と交尾していると思われます。
その証拠となるのがオスの睾丸の大きさです。
マイルカのオスの睾丸は通常0.5~1㎏。
これだけでも大きいですが、繁殖期になるとその重さはなんと5㎏にもなります。
左右合わせて重さ1t近くにもなるセミクジラと比べると小さく感じてしまいますが、体重が1.5倍ほどあるスジイルカと比べた時、繁殖期の睾丸の重さがスジイルカの10倍ほどであることを考えても、マイルカの睾丸の大きさがどれだけのものかがわかります。
交尾する相手が一人であれば、受精するのに大量の精子とそれを保存する大きい睾丸を持っている必要はありません。
つまり、マイルカの睾丸がこれほどまでに大きいのは、彼らが複数のメスと交尾しているからです。
メスの生殖器に注入される大量の精子は、先に交尾したオスの精子を洗い流し薄めることで、自らが受精する確率を上昇させます。
生物には、他のオスに交尾させまいとメスを守る種が少なくないですが、巨大な群れを作るマイルカのオスの場合それが難しいため、彼らは交尾後のフェーズで他のオスと戦っているのです。
これを精子競争といい、霊長類ではチンパンジーの例が有名です。
チンパンジーもまた比較的大きな群れを作り、複数の異性と交尾しています。
ところで、マイルカは日本近海にも生息し、日本の漁師によって捕獲されてきた歴史があります。
現在は捕獲対象となってはいませんが、当時の伊豆半島において、漁師の間で「マイルカ」というと、スジイルカを指したそうです。
一方、本当のマイルカはなんと呼ばれていたかというと、その名も「キンタマイルカ」。
当然区切り方は「キンタ・マイルカ」ではなく、「キンタマ・イルカ」でしょう。
マイルカの生態
分類
かつてマイルカはハセイルカ(Delphinus capensis)と別種とされていましたが、2016年以降、両種は同種であるとされています。
生息地
マイルカは、大西洋と太平洋の熱帯から冷温帯にかけて広く生息しています。
沿岸域で暮らす個体群もあれば、沖合で暮らす個体群もいます。
形態
体長はオスが1.7~2.4m、メスが1.6~1.9m、体重は150~200㎏になります。
50~60対前後のとがった歯を持ちます。
食性
主食はイワシやアンチョビなどの群集性の小型魚類ですが、イカを食べることもあります。
群れで協力してエサを囲み、捕食することもあります。
捕食者にはサメやシャチがいます。
行動・社会
数百頭から数千頭になる群れを作りますが、それらは10~30頭の性別や年齢ごとのサブグループからなります。
スジイルカやハナゴンドウなど、他の鯨類と行動することもあります。
マイルカは活発でポーパシングやバウライドなどの水面行動が盛んです。
音声によるコミュニケーションもよく行い、クリックスのほか、ホイッスルも多用します。
繁殖
メスは1~3年の間隔で出産します。
妊娠期間は10~11ヵ月で、体長0.8~1mの赤ちゃんが一頭生まれます。
授乳は少なくとも生後10ヵ月まで行われます。
オスは3~12年、メスは2~7年で性成熟に達します。
寿命は野生化で20年ほどのようです。
人間とマイルカ
絶滅リスク・保全
マイルカの個体数は600万頭以上と見積もられており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、地域によっては絶滅が懸念されており、黒海の個体群は絶滅危惧Ⅱ類、地中海の個体群は絶滅危惧ⅠB類、ギリシャのコリントス湾の個体群は絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
混獲や過剰な漁業によるエサの枯渇、汚染などがマイルカの潜在的な脅威となっています。
動物園
マイルカは日本の動物園では見ることができませんが、日本近海にも生息しており、かつては伊豆半島や三陸地方で捕獲の対象となっていました。