イロワケイルカの基本情報
英名:Commerson’s Dolphin
学名:Cephalorhynchus commersonii
分類:鯨偶蹄目 マイルカ科 イロワケイルカ属
生息地:南大西洋、インド洋
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
分断
鯨類の中には、例えばハンドウイルカなど、背中側が暗色で腹側が薄い色をしたものが少なくありません。
これは特に幼体で顕著で、周囲の色と同化し他から見つかりにくくする効果があります。
見つけづらいのは、背中が黒いと水面から水中をのぞき込んでも海の色に紛れ、一方で腹が白いと水面を見上げて日光に紛れるからです。
このような配色型をカウンターシェーディングと言い、サバやサンマなど魚類でも広く見られます。
大人の鯨類の場合、捕食者は少ないので、その効果はもっぱらエサとなる魚類に対して発揮されていると思われます。
一方、丸みを帯びた体が特徴的なこのイロワケイルカを見ると、名前の由来となっている白と黒のツートンカラーは背と腹に分かれていません。
このような配色では、周囲の色によってどちらかの色が強調されるため、全体のシルエットが捉えづらくなるという効果があります。
これを分断効果と呼び、この配色型は他にシャチにも見られます。
鯨類の体色は他に、シロイルカなどほとんど均一の色をしたタイプもありますが、いずれにせよ敵やエサに気付かれないような効果が少なからずあります。
ところで、イロワケイルカではその分布に関しても“分断”という言葉を使うことができます。
彼らの分布域は明確に2つに分かれているのです。
一つが南アメリカとフォークランド諸島周辺、もう一つがインド洋に位置するフランス領のケルゲレン諸島周辺です。
これら2つは経度130度、距離にして8,500㎞も離れており、そこに生息するイロワケイルカはそれぞれ亜種として認められています。
二つの分布域の間で暮らす個体群はいまだ見つかっていないことから、イロワケイルカはその体色だけでなく、分布域についても分断されているということができるでしょう。
イロワケイルカの生態
生息地
南アメリカおよびフォークランド諸島と、ケルゲレン諸島の水温は1~16℃の海域に生息します。
波の動きが激しい沿岸で暮らし、港や河口付近にも現れ、200mより深いところにはめったに姿を見せません。
形態
体長は1.5~1.7m、体重は40~80㎏で、一般的にメスの方がオスよりも大きくなります。
嘴はなく、ひれは丸みを帯びています。
ケルゲレンの個体は南アメリカの若齢個体のような灰色をしています。
食性
群集性の小型魚類や頭足類、エビなどを食べます。
海底のエサを食べることもあれば、エサを水面に追い詰めて食べることもあります。
行動・社会
10頭程度の小集団が普通ですが、単独で見られることも、また30頭以上の群れで見られることもあります。
採餌は臨機応変に行われ、単独で採餌することも、集団で協力することもあります。
遊泳速度は時速11~13㎞に達します。
繁殖
メスの出産間隔は2~4年、妊娠期間は11~12ヵ月で、一度の出産で体長70㎝前後、体重8㎏前後の赤ちゃんを一頭生みます。
赤ちゃんは灰色がかっていますが、生後4~6ヵ月で大人のような明確なツートンカラーになっていきます。
赤ちゃんはゾウなどにも見られるバンピングという母親の腹をつつく行為を見せますが、これは授乳を催促する行為だとされています。
メスの泌乳期間は9ヵ月ほどで、子供は5~9年で性成熟に達します。
寿命は20年ほどです。
人間とイロワケイルカ
絶滅リスク・保全
アルゼンチンにおいて、20世紀末までイロワケイルカはカニのエサとして捕獲されていました。
現在、イロワケイルカの個体数は不明ですが、絶滅を危惧するほどではないとされており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、サーモンなどを養殖するのに使われる魚類の漁獲により、イロワケイルカのエサが減るのではないかという懸念や、混獲の懸念は依然として存在します。
動物園
日本国内でイロワケイルカを見ることができるのは、宮城県の仙台うみの杜水族館と三重県の鳥羽水族館のみです。
鳥羽水族館では2023年6月に赤ちゃんが生まれたそうです。
赤ちゃんの体色は下の水族館のサイトでぜひ見てみてください。