クビワナキウサギの基本情報
英名:Collared Pika
学名:Ochotona collaris
分類:兎形目 ナキウサギ科 ナキウサギ属
生息地:カナダ、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
干し草の貯蓄
北米にはナキウサギが2種います。
主にアメリカ合衆国の北西部にあるロッキー山脈に生息するアメリカナキウサギと、アラスカとカナダに生息するクビワナキウサギです。
両種の祖先は、ユーラシアとアメリカ大陸がつながっていた200万年前にベーリング陸橋を渡って、アジアからやってきたとされています。
両種はどちらも岩場に適応したナキウサギで姿も生態もよく似ています。
より北に生息するクビワナキウサギは、標高3,000m以上の森林限界よりも高いところに生息しています。
そこでは冬に積雪があり、もはや植物は雪に隠れて見えません。
クビワナキウサギは冬眠をしないので、このエサのない厳しい冬を何とかして生き延びなければならないのですが、彼らはどのような方法をとるのでしょうか。
タヌキなど秋までにエサを食い溜めて脂肪を付け、冬を乗り切るような動物がいる中、クビワナキウサギはエサを巣に溜めるという手段をとります。
植物が繁茂する夏の間、彼らは日々の食事をするだけでなく、自らの住処に植物を運んで貯蔵します。
クビワナキウサギの住処は草場からは離れているので、その間を行き来しなければなりませんが、夏の間、彼らはそこを1万回以上行き来するといいます。
また、最終的に集められた植物は4㎏以上にもなるようです。
集められた植物は一度天日に干されて乾かされてから岩場の陰の巣に持ち込まれます。
面白いことに、夏の間には食べないバラ科のダイコンソウなどがこの貯蔵された植物の中に含まれています。
こうした植物には毒があり普段は食べられないのですが、干されて時間がたつうちに次第に毒性が失われていくのです。
さらにこれらの植物は防腐剤としての役割も果たしています。
クビワナキウサギはこうして冬を乗り切るのですが、彼らが冬の間に食べるのは植物だけではありません。
一つは糞。
ウサギの仲間は、盲腸で植物を発酵して消化しますが、一度では消化しきれなかった栄養分を吸収するためにその糞を食べます。
この糞は軟糞、盲腸糞とよばれ、通常の硬い硬糞と区別されます。
クビワナキウサギはこのほか、オコジョなど他の動物の糞も食べるとされています。
そしてもう一つは鳥です。
クビワナキウサギは、植物食の動物でありながら死んだ鳥の脳みそを食べます。
糞や鳥の脳みそは、冬だけの食べ物ではありませんが、これらがエサの少ない寒い冬の中、クビワナキウサギにとって重要な食糧であることは間違いありません。
クビワナキウサギの生態
生息地
主に寒冷な高山地帯に生息しますが、アラスカ南部やブリティッシュコロンビアでは、標高0m付近でも見られます。
草場の近い岩場や崖で暮らします。
形態
体長は15~20㎝、体重は150~160gでしっぽはありません。
また、見た目上の性差はありません。
手には5本の指が、足には4本の指が生えています。
食性
植物食のクビワナキウサギの捕食者には、オコジョやアメリカテン、アカギツネ、コヨーテ、猛禽類などが知られています。
行動・社会
昼行性で、朝方や午後に活動します。
主に単独性で、直径30mほどの行動圏を持ちます。
定住性が強い彼らは、最も近い行動圏を持つ異性と交尾するようですが、複数と交尾することは稀です。
ナキウサギの名の通り、なわばりをアピールするときや捕食者がいるとき、繁殖時によく鳴きます。
繁殖
繁殖期は3月から7月にかけて、メスは年間最大2回出産することができます。
妊娠期間は約1ヵ月で、毛がまばらで目が閉じた赤ちゃんを2~6匹産みます。
子供は生後4週ごろ離乳し、40~50日で大人のサイズになります。
性成熟は1歳ごろ、寿命は約6年と言われています。
人間とクビワナキウサギ
絶滅リスク・保全
クビワナキウサギは、人の手から離れた場所に生息するため、直接的な影響はわずかですが、地球温暖化は彼らの脅威となりえます。
現状、広い範囲に生息する彼らの絶滅は懸念されておらず、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
動物園
クビワナキウサギを日本で見ることはできません。