アメリカナキウサギの基本情報
英名:American Pika
学名:Ochotona princeps
分類:兎形目 ナキウサギ科 ナキウサギ属
生息地:カナダ、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
地球温暖化を鳴いて教えてくれるウサギ
北米のロッキー山脈を主な生息地とする、寒冷で湿潤な高山での生活に適応したアメリカナキウサギ。
地球温暖化の影響を最も受けるとされる動物は、極圏に住む、例えばホッキョクグマなどが有名ですが、最近ではアメリカナキウサギもその一員に数えられるようになっています。
アメリカナキウサギは、地球温暖化によってどのような影響を受けるのでしょう。
寒冷な地域を好む彼らにとって、特に夏の高温は大敵です。
彼らは通常昼行性ですが、夏には暑さを避けるために日中の活動が減り、日没後の活動が増えるほど、暑さを苦手としています。
アメリカナキウサギは代謝が高く、体温も約40度と高いです。
一方、致死体温は約43度とされており、それほど高くはありません。
そんな彼らは、気温25.5~29.4度の岩陰などの隠れ場がない環境で太陽にさらされ続けると死んでしまいます。
高温への耐性がない彼らは、一方で寒すぎる環境にも脆弱です。
彼らの生息環境では、冬には積雪があり、彼らの住処である岩の隙間を覆い隠します。
雪はその中をかまくらのように外の寒さから守る役割を果たしますが、温暖化が進み積雪が十分でなかったり、雪解けが早くなったりすると、アメリカナキウサギは寒い気温にさらされてしまいます。
0度~−5度が快適に過ごせる気温とされる彼らにとって、それ以下の気温では冬を越すのが難しいと言われています。
また、彼らは夏に集めておいた草を食べて冬を乗り切りますが、寒くなりすぎると体温を維持するための食料が尽きてしまうという状況にも陥ります。
このように、アメリカナキウサギは地球温暖化の影響をもろに受ける生物ですが、彼らが高山に生息しているというのもまた悲劇です。
なぜなら、もう避難する場所がないからです。
彼らの中には低地に生息するものもいますが、体が小さく移動能力が低い彼らにとっては、仮に避難場所があったとしてもそれが隣接した近くになければ意味がありません。
こうした特性から、アメリカナキウサギは他の生物種に影響を与える前に地球温暖化の進行を人間に教えてくれる重要な種とされています。
ナキウサギはその名の通り、捕食者が周囲にいるときや繁殖時によく鳴きますが、アメリカナキウサギはこれに加え、温暖化に苦しんでいるために泣いているのかもしれません。
アメリカナキウサギの生態
生息地
アメリカ合衆国西部からカナダ南西部にかけて、寒冷で湿潤な高山地帯に生息します。
彼らは岩場に住む典型的なナキウサギです。
主に森林限界より高い場所で暮らしますが、コロンビア川峡谷などの低地から、ロッキー山脈で12番目に高いマウントエバンスの4,175m地点まで見られます。
形態
体長は15~22㎝、体重は120~175gで、しっぽはありません。
食性
水分やタンパク質などの栄養分が多い植物を選択的に食べます。
水分はエサからとるので、水を飲む必要はありません。
冬を越すため、夏には岩場の巣に植物を集め、貯蔵します。
貯蔵することで夏には毒となる植物も、次第に毒性を失い食べるのに適していきます。
捕食者にはオコジョやアメリカテンなどのイタチ類、コヨーテ、猛禽類などが知られています。
行動・社会
単独性のアメリカナキウサギは、各々のテリトリーを持ち、そこに一生定住します。
草場から近いところを好み、夏には冬越しのための食料を得るため、1日に何百回も巣と草場を行き来します。
若齢個体は大人のテリトリーの隙間で暮らし、大人が不活発な時間に活発になります。
そして成熟個体が死ぬなどしてテリトリーが空くと、自分のテリトリーを広げていきます。
彼らの行動圏は500㎡前後とされています。
コミュニケーションには鳴き声の他、においによるものがあります。
糞尿の他、頬の臭腺から出る分泌物を使います。
繁殖
雪が解けだす1ヵ月前頃から繁殖が始まります。
繁殖期には異性の行動圏との重複が大きくなり、その異性と繁殖します。
メスは年間1~2回出産します。
妊娠期間は約1ヵ月で、一度に1~5匹の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは約10g、毛がまばらで目が閉じている状態で生まれます。
母親は2時間に1回の間隔で、10分程度の世話をします。
生後9日で目を開き、生後1ヵ月頃に離乳し、3ヵ月齢には大人と同じ大きさになります。
性成熟には1歳までに達します。
体の大きさのわりに長寿で、通常3~4年、長いものは6~7年生きます。
人間とアメリカナキウサギ
絶滅リスク・保全
全体として絶滅は懸念されておらず、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
アメリカ合衆国内でも、「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(Endangered Species Act:ESA)」の対象とするよう申請がありましたが、情報不足などを理由として却下されています。
しかし一方で、グレートベースンなどの地域では温暖化や牛の放牧などによる減少が確認されています。
動物園
アメリカナキウサギを日本で見ることはできません。