ヤマワタオウサギの基本情報
英名:Mountain Cottontail
学名:Sylvilagus nuttallii
分類:兎形目 ウサギ科 ワタオウサギ属
生息地:カナダ、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
高い繁殖力
その名の通り山に生息するヤマワタオウサギにはコヨーテやボブキャットといった捕食者がいます。
捕食者は彼らの死因の多くを占めており、ほとんどが1歳未満で死んでしまいます。
しかし、ヤマワタオウサギがいなくなることはありません。
なぜなら彼らの繁殖力は、哺乳類の中でも非常に高いからです。
ヤマワタオウサギの繁殖は3月~7月にかけて行われます。
その間、メスは最大5回も出産をすることができます。
さらに、ヤマワタオウサギのメスが1回の出産で産む赤ちゃんは最大8匹。
さらにさらに、ウサギ科では重複妊娠と言って、出産直前の赤ちゃんを子宮に宿しながら、次の妊娠をする重複妊娠が見られます。
ウサギの母子関係が希薄であることも繁殖を効率的にしていると思われます。
ウサギの母親は1日に1~2回授乳して世話する以外は別々に行動しています。
そしてそのような少ない養育でも子供たちはものの3ヵ月程度で大人の姿に成長します。
子供への投資が小さいこと、そしてそれでも子供は成長するというウサギの力は、彼らの繁殖を語る上では無視できません。
また、ウサギ科は交尾の刺激で排卵する交尾排卵をする動物です。
我々人間は周期的に排卵をする動物なので、不妊治療の一つとしてタイミング法があるほどですが、交尾後に排卵が起こるウサギ科にタイミング法は必要ありません。
出産後すぐに交尾できるのも彼らの強みです。
他の哺乳類では、通常子供がいる母親が発情することは珍しいです。
だからこそ、その子供を奪うことで母親の発情を再開させる子殺しがライオンや霊長類で見られるのですが、ヤマワタオウサギを含むウサギ科は出産後すぐに交尾し、妊娠することができます。
これを後分娩発情と言います。
こうした能力は、ウサギの効率的な繁殖を可能にしています。
そして彼らのこの能力のおかげで、捕食者となる動物たちは生きのびることができるのです。
ヤマワタオウサギを含め、ウサギの仲間は生態系で欠かせない役割を果たしているのです。
一方で、人間の世界ではウサギというと性的なイメージがちらつきますが、こうしたイメージは彼らの高い繁殖力に関係しているのかもしれません。
ヤマワタオウサギの生態
生息地
ヤマワタオウサギは、北米の標高3,500mまでの茂みや森林地帯に生息します。
彼らの生息地は、生い茂る植物や岩の隙間、地面の穴など身を隠す場所と大いに関係しています。
形態
体長は35~39㎝、体重は0.7~1.2㎏、尾長は3~5㎝で、メスの方が大きくなります。
食性
エサの9割は草が占めますが、セイヨウネズやヤマヨモギ、ベリー類なども食べます。
捕食者にはコヨーテ、ボブキャット、イタチ類、アカオノスリなどの猛禽類などが知られています。
行動・社会
ヤマワタオウサギは主に夜行性、薄明薄暮性です。
繁殖時以外は単独で生活します。
聴覚、嗅覚が鋭いです。
繁殖
メスは28~30日の妊娠期間ののち、毛や草などを敷いた巣に赤ちゃんを産みます。
一度に生まれる赤ちゃんは2~8匹で、毛はなく、目は閉じた未熟な状態で生まれます。
赤ちゃんは生後1ヵ月で離乳し、3ヵ月齢ごろには性成熟に達するようです。
寿命は飼育下で最長7年です。
人間とヤマワタオウサギ
絶滅リスク・保全
全体として、ヤマワタオウサギは広い範囲に生息し、個体数も十分とみられ、絶滅は懸念されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
一方ヤマワタオウサギは、サウスダコタ州ではトウブワタオウサギに、テキサス州ではサバクワタオウサギによって生息地を追われた、もしくはその途中です。
動物園
ヤマワタオウサギを日本で見ることはできません。