カバの基本情報
英名:Hippopotamus
学名:Hippopotamus amphibius
分類:鯨偶蹄目 カバ科 カバ属
生息地:アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ、コンゴ民主共和国、コートジボワール、赤道ギニア、エスワティニ、エチオピア、ガボン、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、マラウィ、マリ、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、南アフリカ、南スーダン、スーダン、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
川馬
カバの英名は、“川の馬”という意味の古代ギリシャ語に由来しています。
そしてカバという和名は漢字では「川馬」、もしくは「河馬」。
鯨偶蹄目に分類されるカバは、奇蹄目に分類されるウマとは系統的に離れていることが今では知られていますが、カバという名前には、彼らが川や湖の中を優雅に動く姿が投影されています。
カバは水中でも陸上でも生活する両生動物です。
これは彼らの種小名“amphibius”にも表れています。
ちなみに両生類は英語でamphibianです。
カバは1日のほとんどの時間を水中ですごします。
陸上に上がるのはエサを食べる夜くらい。
最長で5分間潜水できる彼らは交尾や出産、睡眠すら水中で行います。
水中での生活に適応した彼らの頭部を見ると、耳、目、鼻がちょうど水面に平行に並んでいます。
ただ、水中で生活すると言っても、水より重たい彼らは泳ぎがあまり得意ではありません。
そのため、彼らは水深2m程度の川や湖で、水底を歩いて生活します。
普段は水に覆われたカバの体には毛がまばらです。
そのため日光に対して脆弱で、長い時間日光にさらされると皮膚にひびが入ります。
そこで彼らは粘液を皮下の分泌腺から出して体を守ります。
この粘液はピンク色をしており、かつては血と汗が混ざったものだと考えられていました。
“血の汗”と呼ばれたこの粘液には、血は混ざっていないこと、そして彼らは汗腺をもたないことが今ではわかっています。
ところで、彼らは危険を感じた際に大声で鳴くことが知られています。
この音は最大115デシベル、雷鳴と同じ大きさになります。
彼らの発達した喉から出される音は、水中だけでなく空気中にも伝わりますが、このような性質は哺乳類では彼らにしか確認されていません。
もはや水中での生活により適していると思われるカバ。
遺伝子研究が発展した現在、彼らは海を生きる鯨類に最も近縁であることがわかっています。
ちなみに、水中において、彼らは耳につながる顎を通じて音を聞いているとされています。
これは鯨類にも見られる特徴です。
アフリカで最も危険な動物
アフリカには百獣の王・ライオンやブチハイエナ、ワニ、ヒョウなど様々な危険な動物がいますが、その中でも特に危険と言われているのが、まさかのカバです。
草食動物である彼らは、なぜ肉食動物をしのぐほど危険と言われているのでしょうか。
カバは10~100頭ほどの集団で暮らしますが、なわばり性が非常に強いです。
特に群れを統べ、群れのメスを手中にしている1頭のオスは、他のオスや捕食者から群れを守る必要があるので攻撃性が高いです。
また、メスの中でも子連れのメスや妊娠中のメスは特に攻撃性が高いとされています。
カバの攻撃手段は、見た目通りその口。
150度開く口に生えた最大50㎝にもなる犬歯は殺傷能力が高く、その傷が原因で死ぬカバもいるほどです。
水というアフリカでは貴重な資源を大いに使って生活するカバだからこそ、これほどのなわばり性があるのかもしれません。
実際、水が少なくなく乾季には他のオスや多種とのなわばり争いが激しくなるようです。
そんなカバに攻撃されれば、我々人間はなすすべもありません。
彼らは地上でも意外に素早く、時速30㎞で走ることができます。
これに加え、カヌーを真っ二つにする彼らの口、そして空気がない水中。
カバの攻撃によって死亡する人の数は、毎年500人はいると言われています。
人間が遭遇して死ぬ確率もカバでは突出しており、サメが25%、ライオンですら75%であるところ、カバはなんと85%以上。
彼らがなぜアフリカで最も危険とされているかがわかります。
地上ではその存在が明らかなカバでも、ひとたび水中に潜ればその姿はほとんどわかりません。
水辺ではカバにお気を付けください。
カバの生態
生息地
カバは、アフリカのサハラ砂漠以南の川や湖があるサバンナなどに生息します。
かつてエジプトのナイル川にも生息していたようですが、19世紀以降、その姿は確認されていません。
形態
体長は3~4m、肩高は1.5~1.65m、体重は1.3~3.2t、尾長は35~50㎝でオスの方がメスよりも200㎏ほど大きくなります。
オスが生涯成長し、最大4tを超える一方、メスは25歳ほどで成長が止まります。
カバはゾウ、サイに次いで陸上では大きな哺乳類になります。
口の前方には犬歯と最大40㎝になる切歯が生えており、これはディスプレイや攻撃のためだけに使われます。
草をむしる際は、唇を用います。
足には水かきがついています。
食性
カバは水生植物を食べず、採食の際は水から上がり地上の植物を食べます。
餌が少なければ水辺から数㎞移動して採時することもあります。
カバは短い草を主に食べます。1日4~5時間を採食に費やし、約40㎏の草を食べます。
胃はウシのように4つに分かれていますが、反芻はしません。
カバはシマウマなど他の動物を食べる姿が目撃されていますが、その理由は定かではありません。
捕食者にはライオンやブチハイエナ、ワニが知られています。
行動・社会
群れを率いるオスは、服従の姿勢を見せる限り他のオスに寛容ですが、他のオスが自分の地位を脅かす場合、相手を激しく攻撃します。
特にカバのオスは水中でも地上でもしっぽで自分の糞をまき散らす行動を見せますが、これにはマーキング効果があると考えられています。
繁殖
明確な繁殖期はありませんが、主に乾季に交尾、雨季に出産が見られます。
メスは1年おきに出産します。妊娠中のメスは攻撃的で、産後2週ごろまでは群れから一時的に離れます。
妊娠期間は約8ヵ月。
1度の出産で50㎏程度の赤ちゃんを1頭産みます。
赤ちゃんは1歳半ごろまでには離乳します。
性成熟にはオスが9~11年、メスが7~9年で達します。
寿命は野生で40年ほど、飼育下では50年以上生きる個体もいます。
人間とカバ
絶滅リスク・保全
カバの個体数は11万5千~13万と推測されており、全体的に安定しているとみられていますが、IUCNのレッドリストにおいてカバは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
主な脅威は生息地の破壊、肉や牙を狙った密猟です。
象牙取引が国際的に禁止された1989年以降、カバの牙の需要が高まります。
1989年~1990年には15t、1991年~1992年には27tものカバの犬歯が輸出されています。
また、2002年にはウガンダから5,000㎏(カバ約2千頭分)の牙が輸出されています。
特に内戦中には武器が出回るため、密猟が横行します。
モザンビークでは、1980年から1992年の内戦中、カバの数は70%以上減ったとされています。
また、コンゴ民主共和国では1970年代に2万9千頭いたカバが、主に内戦の影響で2005年には900頭ほどにまで減少しています。
カバは、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅱに記載されており、国際取引には輸出国政府が発行する許可証等が必要となります。
動物園
カバは北海道から沖縄まで、全国の動物園で見ることができます。
長崎バイオパークでは、カバがスイカを丸ごと食べるのを見ることができるようです。
彼らの迫力をぜひ間近で安全に確かめてみてください。