コーブの基本情報
英名:Kob
学名:Kobus kob
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ウォーターバック属
生息地:ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、コートジボワール、エチオピア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、南スーダン、トーゴ、ウガンダ
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
レック
生物のオスとメスが見せる繁殖の様式を繁殖システム、または配偶システムと言います。
特に哺乳類ではこの配偶システムが非常に多様です。
例えば、イヌ科動物やテナガザルといった一部の霊長類では、一夫一妻制をとり、雌雄は生涯にわたる関係を結ぶことも少なくありません。
一方、ハダカデバネズミは1匹の女王が数匹のオスと交尾をするという一妻多夫制をとります。
また、チンパンジーや鯨類などは、複数の異性と交尾する乱婚型もしくは多夫多妻の配偶システムをとります。
そんな中、哺乳類に広く見られる配偶システムが、一頭のオスが複数のメスと交尾するという一夫多妻制です。
一口に一夫多妻と言っても、その形は様々です。
エサや水場などの資源を含むなわばりをオスが守り、メスを惹きつける採食なわばり型や、行動圏を重複させる複数のメスと交尾するなわばり性のないタイプ、メスの群れにオスが加わりその群れを守るハレム型などなど。
それでは、このアフリカの中型アンテロープ・コーブはどうでしょう。
彼らは一夫多妻の中でも特に珍しい配偶システムを持ちます。
コーブのオスは繁殖期になると一か所に集まり、それぞれが直径15~50mの繁殖なわばりを築きます。
メスたちはそのなわばりを訪れ、最終的に最も魅力的なオスと交尾をします。
このような求愛が行われる場をレックと言い、レック型は哺乳類ではセイウチやウマヅラコウモリ、いくつかの有蹄類にしか見られません。
レック型の配偶システムは哺乳類以外にも、セージライチョウなどの鳥類や昆虫類、両生類でも見られますが、やはり一般的ではありません。
コーブのレックは二重構造になっており、レックの外側には順位の低いオスたちが、そして中心部には順位の高いオスが密集しています。
レックの中でメスを手中にできるのはごく一部のオスだけ。
捕食リスクが高まったり、大部分のオスには徒労になったりする可能性があるにもかかわらず、このような配偶システムが存在する理由はよくわかっていません。
一説では、メスを守る範囲が広すぎて割に合わない場合にレック型にメリットが出るとされています。
また、個体群が高密度で他のオスに邪魔される頻度が高くなり、それにより防衛コストがかさむ場合にレック型が登場する可能性が示唆されています。
実際、コーブがレック型を見せるのは高密度の場合だけです。
低密度の場合、オスはレックの代わりに資源を含むなわばりを築いたり、ハレムを築いたりします。
日本では全く知られていないコーブですが、レック型の配偶システムを持つその生態は、まさにレックのごとく、多くの学者が研究したいと思う対象となっています。
コーブの生態
分類
一般的にK. k. leucotis、K. k. thomasi、K. k. kobの3亜種が知られていますが、後者2亜種のミトコンドリアDNAの近縁性が指摘されたり、別種のプークーを同種とすべきとの議論があったりします。
生息地
コーブはアフリカ中西部から中東部にかけて、標高500mまでの草原や氾濫原、サバンナウッドランドなどに生息します。
形態
体長は125~180㎝、肩高は70~105㎝、体重は90~120㎏、尾長は20~40㎝で、オスの方が大きくなります。
角はオスにのみ生え、40~69㎝になります。
食性
グレイザーであるコーブは、丈の短い草を主食とします。
水を必須とし、水場から離れない場所で暮らします。
捕食者にはライオンやヒョウ、チーター、ハイエナ、リカオンなどが知られています。
行動・社会
薄明薄暮性のコーブは、メスや若いオスは数十頭規模の群れを作ります。
一部の個体群は季節移動をし、乾季に150㎞以上を移動することもあります。
この場合、群れは大規模になり、1,000頭以上になることもあるようです。
彼らは餌場や水場、繁殖場を覚えており、同じ場所を長期間利用するようです。
繁殖
出産は年中見られます。
メスは7.5~9ヵ月の妊娠期間ののち、通常一頭の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは生まれて数週間は茂みなどに隠れて生活し、母親は授乳のために日に数回そこを訪れます(置き去り型:ハイダー)。
性成熟にはオスが1.5歳以降、メスは早いと13ヵ月齢で達します。
寿命は飼育下で17年程度です。
人間とコーブ
絶滅リスク・保全
コーブの全個体数は50万~100万頭入ると推測されており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、肉を目的とした狩猟や人間活動の影響による生息地の減少により、個体数は減少傾向にあるとされており、ブルンジやガンビア、ケニア、シエラレオネ、タンザニアではすでに絶滅、モーリタニアでも絶滅した可能性があります。
現在、効果的な保全活動が各保護区で行われていますが、それが無くなれば彼らにも絶滅の危機が訪れるかもしれません。
動物園
日本でコーブに会うことはできません。