ツチブタの基本情報
英名:Aardvark
学名:Orycteropus afer
分類:管歯目 ツチブタ科 ツチブタ属
生息地:アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ、コンゴ民主共和国、コートジボワール、ジブチ、赤道ギニア、エリトリア、エスワティニ、エチオピア、ガボン、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、リベリア、マラウィ、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、南アフリカ、南スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況:LC〈経度懸念〉
土豚
土を掘る姿と豚のような顔をしていることから、アフリカーンス語で“土の豚”を意味する名前が付けられた動物。
彼らは日本語でもそのまま訳されてツチブタと呼ばれています。
日常的に穴を掘り、そこで生活する哺乳類にはほかにアナグマやアナウサギなどがいますが、ツチブタはその中でも最大の穴掘り動物として知られています。
ツチブタの前足には4本、後足には5本の指があり、それぞれにスペード状の爪が生えています。
彼らはこの手足を使って、穴を掘り、エサを探したり逃避や居住したりする場所を作ります。
彼らが作る穴は最大で8つ以上の出入り口を持ち、長さ6m以上にもなります。
このほか彼らは休息用の小さな穴も掘りますが、ツチブタは穴を頻繁に掘り、一つの穴に留まることはありません。
そうして捨てられた穴は他の動物の重要な住みかとなります。
イボイノシシやヤマアラシ、ハイエナ、リカオン、ハイラックスなどアフリカに住む多くの哺乳類は、自らが休息したり捕食者から逃げたり、繁殖したりする場として、時に自らも改築しながらツチブタの穴を利用します。
その大きさや個体数から想定されるよりも大きな影響を他の生物に与える種のことを、キーストーン種と呼びますが、ツチブタはその一種と考えられています。
ツチブタが属する管歯目には、ツチブタ一種しかいません。
ルックス的にも進化的にも非常にユニークな彼らは、アフリカの生態系において非常に重要な役割を果たしているのです。
蟻豚
その昔、ツチブタはアリクイやセンザンコウの仲間と考えられていました。
その後、ツチブタの歯の形状からその名前が付けられた管歯目という新たな分類群が作られますが、なおもそれは異節類(アリクイ、ナマケモノ、アルマジロ)と近しいとされていました。
20世紀以後、遺伝子研究の発達により彼らはアフリカ獣上目に分類されることとなり、ようやく分類上の位置が定まってきています。
アフリカ獣上目にはほかに、ゾウやジュゴン、ハイラックス、ハネジネズミ、テンレックなどが分類され、ツチブタの祖先はゾウなどの祖先と8,000万年以上前に分岐したとされています。
そもそも見た目も生息地も異なるツチブタが、なぜ当初アリクイの仲間と見なされていたかというと、ツチブタがアリとシロアリを主食としているからです。
ツチブタはその穴掘り能力と30㎝にもなるベトベトした舌を使って、毎日5万匹のアリやシロアリを食べています。
こうしたアリ塚を壊すための爪や長い舌はアリクイとツチブタの共通点です。
また、彼らが目に錐体を持たず桿体だけを持っており、それゆえ色の判別ができないこと、そして鋭い嗅覚を持っていることもよく似ています。
しかし、アリクイが歯を持たない一方、ツチブタは特殊な歯を持ちます。
ツチブタの歯はエナメル質を欠いており、管歯目の名の由来ともなっている、変形した象牙質が集まってできた特殊な歯を持っています。
しかし、彼らはエサをすりつぶすのにこの歯をあまり使ってはいないようです。
エサは主に筋肉質な胃の幽門部(胃の入り口)ですりつぶされています。
また、嗅覚について、ツチブタは鼻甲骨という骨を発達させており、これによりにおいを感知する細胞の表面積が増え、彼らの嗅覚をより鋭いものとしています。
ちなみに、エナメル質を持たないという特徴は、歯を持つ異節類にも見られます。
ブタのような鼻、ウサギのような耳、ナマケモノのようなエナメル質がない歯、アリクイのような生態を併せ持つツチブタは6,000種以上いる哺乳類の中でも、きわめてユニークな動物と言えるでしょう。
ツチブタの生態
生息地
サハラ砂漠以南のアフリカに広く生息します。
エチオピアの標高3,200m地点でも見られます。
サバンナや低木林、森林(沼沢林除く)などの半乾燥地帯に生息し、岩場やサハラ砂漠、ナミブ砂漠などには生息しません。
分布はアリやシロアリの存在に依存します。
形態
体長は1~1.5m、体重は39~82㎏、尾長は53~66㎝です。
耳は大きく片方ずつ動かせることができます。
皮膚は獲物の攻撃を防ぐために厚いです。
肘とお尻に臭腺があり、ここからの分泌物でコミュニケーションをしていると言われています。
犬歯、切歯はなく臼歯のみになります。
食性
ツチブタはエサのすべてを地下から取ります。
アリとシロアリを主食としますが、甲虫やその幼虫を食べることもあります。
エサを食べる際、彼らは鼻を閉じることができます。
水分は主にエサから摂取しますが、水を飲むこともあります。
捕食者にはライオンやハイエナ、ヒョウが知られています。
行動・社会
主に夜行性ですが、寒い日やエサが少ない場合は日中も活動します。
単独性のツチブタは、エサを探して毎日2~5㎞を移動します。
アリ塚やシロアリ塚はすべてを壊すことなく次の餌場を探します。
オスの行動圏の方が大きいようです。
繁殖
ツチブタの野生下での繁殖についてはあまりわかっていませんが、季節繁殖を行うようです。
メスは約7ヵ月の妊娠期間ののち、1.8㎏の赤ちゃんを1匹巣に産みます。
赤ちゃんは毛が生えていませんが、目は開いています。
育児は母親によって行われます。
赤ちゃんは生後2週ごろには母親の後をつけ始め、3ヵ月ごろからアリなどを食べ始めます。
1歳ごろには独立し、2歳ごろ性成熟を迎えます。
寿命は野生で最長18年、飼育下では最長23年です。
人間とツチブタ
絶滅リスク・保全
その分布域の広さから絶滅はあまり懸念されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
人間の居住地の拡大やそれに伴う生息地の破壊、食肉としての狩りなどは脅威となる可能性があります。
東アフリカや西アフリカ、中央アフリカでは個体数が減少中である可能性があります。
また、ザンビアやモザンビークではブッシュミート(野生で狩られた動物の肉)の取引が脅威となっているとされています。
動物園
ツチブタには日本でも東京都の上野動物園、愛知県ののんほいパーク、東山動物園で見ることができます。
ぜひ他の動物たちと比べて、ツチブタの魅力を間近で感じてみてください。