アフリカスイギュウの基本情報
英名:African Buffalo
学名:Syncerus caffer
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 アフリカスイギュウ属
生息地:アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、今後、コンゴ民主共和国、コートジボワール、赤道ギニア、エチオピア、ガボン、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、リベリア、マラウィ、マリ、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、南アフリカ、南スーダン、スーダン、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉

ビッグファイブの一角
サハラ砂漠以南のサバンナや森林に生息する、バッファローとも呼ばれるアフリカスイギュウ。
その名の通り水が生活に必須で、水に入ったり泥を浴びたりする習性が知られています。
これには温度調整の役割の他、寄生虫を払ったり防いだりする役割があると考えられています。
ダニなどの寄生虫については、泥浴びの他、ウシツツキという鳥によっても除去されます。
ウシツツキのつつくままにされるアフリカスイギュウの姿は、なんとも鷹揚で彼らの懐の深さがうかがえます。
アフリカスイギュウの特徴と言えばホーンと呼ばれるその角でしょう。
角は雌雄ともに生えますが、特にオスではその基部が額でつながっており(英語でボス“boss”と呼ばれる)、他のウシ科動物と容易に区別できます。
巨体も彼らのアイデンティティです。
アフリカスイギュウは非常にたくましい体を持っており、特にオスは1t近くにもなります。
彼らは数十から数百頭、セレンゲティでは1,000頭以上の群れを作ることがありますが、巨体が集団を成す様子は圧巻です。
アフリカスイギュウはアフリカという大地を象徴するような種と言えるでしょう。
そんな彼らはアフリカではビッグファイブの一種として知られています。
ビッグファイブとは、狩猟をする上で最も危険な5種の動物のことで、アフリカスイギュウの他、ゾウ、サイ、ライオン、ヒョウが名前を連ねています。
ビッグファイブという言葉は、19世紀の白人による植民地時代に誕生したようです。
入植した白人たちはアフリカに生息する目新しく巨大な動物たちを次々と狩っていきましたが、そんな中でも最も難しく危険な動物がビッグファイブと呼ばれたのです。
ビッグファイブは今でも人間を魅了し、世界中からやってくるトロフィーハンターたちが射止めたい標的となっています。
ビッグファイブたち






そんなビッグファイブの一角をなすアフリカスイギュウ。
一見すると草ばかり食べておとなしそうな彼らですが、その攻撃力は侮れません。
その巨体、そして角から繰り出される攻撃はライオンをもひるませます。
また、彼らはその巨体のわりに時速50㎞以上で走ることができます。
彼らの突進を食らえば、百獣の王ですらひとたまりもありません。
ライオンですらそうなのだから、人間が食らえば死んでしまうでしょう。
実際、ハンターがアフリカスイギュウによって殺される例が知られており、彼らはビッグファイブの中でも最も危険と言われることもあります。
一方で、彼らを狙う弾丸は着実に彼らを絶滅の縁に近づけています。
彼らの数は1990年代にはすでに減少が始まっていたようで、その傾向は現在も続いていますが、密猟はその大きな原因の一つとされています。
アフリカスイギュウはIUCNのレッドリストでは準絶滅危惧の評価ですが、このまま減少が続けば絶滅危惧種に指定されるのも時間の問題です。
しかし、彼らの状況は他のビッグファイブと比べるとまだましです。
ビッグファイブのうち絶滅危惧種だけでないのは彼らだけだからです。
ビッグファイブという言葉は近い将来、絶滅に近い大型動物を指す言葉になってしまうかもしれません。

アフリカスイギュウの生態
分類
西から中央にかけて、東から南にかけての大きく2つのグループに大別できます。
亜種としては2~4亜種が知られています。
東から南のグループを構成する亜種は1つでケープバッファロー(Syncerus caffer caffer)。
もう一つのグループではアフリカ西部に生息するモリバッファロー(S. c. nanus)が広く認められています。
一方、セネガルからカメルーンにかけて生息するニシアフリカサバンナバッファロー(S. c. brachyceros)と、中央アフリカからスーダンにかけて生息するチュウオウアフリカサバンナバッファロー(S. c. aequinoctialis)の妥当性には議論があります。
亜種が同所的に生息する場所では亜種間の交雑種も知られており、ケープバッファローとモリバッファローは染色体数が違いますが、飼育下では交雑種が誕生しています。

生息地
アフリカスイギュウは、標高4,000mまでの年間降水量250㎜以上のサバンナやアカシアウッドランド、ミオンボ林、山地の草原や森林、湿潤林などに生息します。
モリバッファローは森林性で年間降水量1,500㎜以上の、サバンナと熱帯林の移行地帯などに生息します。
他の3亜種はサバンナなど開けた場所に生息します。
アフリカスイギュウはかつてサハラ砂漠以南に広く生息していましたが、化石の不在などから北アフリカには生息していないとされています。
これには北アフリカにも生息していたウシの祖先種であり絶滅種、オーロックスの存在が影響していると推測されています。
形態
体長は2.4~3.4m、肩高は1~1.6m、体重は250~900㎏で、オスの方が7割近くメスよりも重くなります。
最大亜種はケープバッファローで、体重はオスが800㎏以上、メスも最大500㎏で、肩高は1.4~1.6m。
最小亜種はモリバッファローで、体重250~320㎏、肩高1m程度しかありません。
モリバッファローは色も赤みがかっており、角は他ほど下方向に下がっていません。
また、オスの角は額でつながっていなかったり、その程度が弱かったりします。
角はオスが5歳、メスが4歳ごろに完成します。
角は1歳ごろまでまっすぐ伸びますが、その後曲がり始めます。
オスの角は3~5歳ごろ額でつながり始め、毛もなくなっていきます。
ケープバッファローでは角が最大130㎝になります。

食性
グレイザーであるアフリカスイギュウは、イネ科のメガルカヤ属などを食べます。
茎部分よりも葉の部分をよく食べます。
他のウシ同様、彼らには上顎切歯と犬歯がないため、舌や本来は歯があるはずの部分にある歯床板を使って採餌します。
捕食者にはライオンやヒョウ、リカオン、ブチハイエナがいます。


行動
アフリカスイギュウは24時間行動しますが、薄明薄暮時は休息や反芻に充てます。
定住傾向にありますが、80㎞以上の長距離移動をすることもあります。
嗅覚に優れ、メスの発情を確かめるためにオスは尿や陰部を匂います。
視覚はそこまでとされていますが、1㎞先の捕食者の存在を感知できるぐらいはあります。
群れで暮らす彼らは、孤児を他のメスが育てる事例が知られています。

社会
アフリカスイギュウは序列のある群れを作ります。
開けた環境にいるものの方がより大きな群れを作る傾向にあります。
モリバッファローは10~20頭程度の群れを作ります。
一方サバンナのアフリカスイギュウは、50~500頭の群れを作ります。
群れはオスだけの群れと、老若男女入り乱れた群れに大別できます。
オスだけの群れには成熟したオスだけが属し、繁殖期には雌雄いる群れに合流します。
一方、雌雄入り乱れた群れは小集団に分かれたり、それが再び合流したりと離合集散することが知られています。
この群れの性比はメスに偏っており、大人のオス1に対し、メスは100ほどです。
しかし繁殖期にはオスが流入することで、群れの性比はオス1に対しメス4にまでなります。
オスもメスも複数の異性と交尾し、オスとメスの関係が長期にわたることはありません。
繁殖
出産も交尾も年中見られますが、出産は雨季に見られることが多いです。
出産間隔は1~2年で、メスの発情時間は24時間以内です。
メスの妊娠期間は330~346日で、40㎏前後の赤ちゃんが通常1頭生まれます。
赤ちゃんはヌーなどの他のウシ科動物に比べると走り回れるようになるには時間を要します。
生後2ヵ月で草を食べ始めますが、完全に離乳するのは生後9~10ヵ月頃です。
1~2歳で独立し、2~5歳で性成熟に達します。
寿命は野生で最長22年、飼育下では30年近く生きる個体もいます。


人間とアフリカスイギュウ
絶滅リスク・保全
その生態からモリバッファローの正確な数はわかっていませんが、アフリカスイギュウ全体では、50万~60万頭が存在していると推計されています。
このうち約7割は保護区かその周辺に生息していると言われていますが、個体数は減少傾向にあり、今後も続くとされています。
モリバッファロー以外の個体数は1999年には約63万頭だったものが2014年には約51万頭、そして2027年には約43万頭になると推測されています。
主な脅威は肉やトロフィー目的の密猟の他、干ばつなどの自然現象や生息地の破壊、そして病気です。
2011年にアフリカで根絶が宣言された牛疫はかつて猛威を振るい、1890年代のアウトブレイクでは致死率は90%以上にもなったようです。
また、口蹄疫などの病気の防疫フェンスは彼らの移動を妨げていると指摘されています。
IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧に指定されていますが、ワシントン条約(CITES)の附属書には記載がありません。


動物園
日本では群馬県の群馬サファリパーク、兵庫県の姫路セントラルパーク、広島県の安佐動物公園でアフリカスイギュウに会うことができます。