アフリカノロバの基本情報
英名:African Wild Ass
学名:Equus africanus
分類:奇蹄目 ウマ科 ウマ属
生息地:エリトリア、エチオピア
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
参考文献
ロバの祖先
アフリカノロバという和名は、英名を直訳した形となっています。
“Ass”という言葉はかつてロバを意味した単語で、お尻を意味する卑猥な方の同音異義語とは語源を異にします。
ちなみにオスのロバのことを英語で“Jackass”と言いますが、ジャックラビットと呼ばれるウサギの“ジャック”はこれが語源とされています。
耳がロバのように大きなことから“Jackass rabbit”と呼ばれ、それが短縮されて今の呼び方となったようです。
ちなみにJackassという言葉には“のろま”という意味があり、現在のアメリカの民主党をロバが表すきっかけともなっています(共和党はゾウ)。
さて、そんなアフリカノロバは家畜のロバ(Equus asinus)の祖先種とされています。
ロバはアフリカノロバの3分の2ほどの大きさですが、力持ちで丈夫なことから人間に長らく重宝されてきました。
最も古い考古学的証拠は5,000年前のスーダンの遺跡から見つかっており、その後、シリアやイランなどの中東を経て4,000年前にはヨーロッパに持ち込まれたとされています。
ロバが人間社会で活躍する様子は聖書にも見られ、イエス・キリストが十字架にかけられる1週間前、エルサレム城に入城する際に乗っていたのがロバであることは有名です。
ロバは非常に頑丈です。
彼らは体重の3割の水分を失っても生きられ、その損失をたった2~5分間の飲水で取り戻してしまいます。
また、体温を35~41.5℃の間で変動させることができ、気温が高くても水分の損失を最小限に抑えることができます。
また、力持ちでもあり古くから荷物の運搬などに重用されてきました。
こうしたロバの強さは、ウマと掛け合わされることで増強します。
オスのロバとメスのウマを掛け合わせたものはラバと呼ばれ、ロバよりも大きく、ウマよりも粗食に耐える丈夫な特徴を持ちます。
このように、異種を掛け合わせることで、父母よりも高い能力が子に現れることを雑種強勢と言います。
一方、メスのロバとオスのウマを掛け合わせたものはヒニーとよばれ、ラバと比べると小さくあまり生産はされてきませんでした。
ちなみに、生物学的種概念からすると異種同士の子には繁殖能力がないはずですが、この通りラバにもヒニーにも繁殖能力はないとされています。
そんなロバの祖先種であるアフリカノロバもまた、ウマ科動物の中では暑くて乾燥しているという最も厳しい環境に生息しており、ロバの丈夫さの理由を垣間見ることができます。
彼らの生態をより詳しく見てみましょう。
アフリカノロバの生態
分類
ソマリノロバ(Equus africanus somaliensis)とヌビア砂漠に生息するヌビアノロバ(E. a. africanus)の2亜種が知られていますが、ヌビアノロバはすでに絶滅したのではないかと言われています。
生息地
大地溝帯の海抜-100m~2,000mまでの乾燥、半乾燥の低木地や草原に生息します。
ジブチ、ソマリア、スーダン、エジプトでは絶滅した可能性があります。
形態
体長は2~2.3m、肩高は1.1~1.4m、体重は200~230㎏。
ソマリノロバには足の縞模様が顕著です。
ヌビアノロバには背中の模様があり、足の縞模様は薄かったりなかったりします。
食性
グレイザーの彼らはイネ科植物を主食としますが、それらが少なければ木の枝や樹皮なども食べます。
数日は水を飲まずに生きられますが、行動圏内には必ず水資源があります。
潜在的な捕食者にはブチハイエナやライオンが知られています。
行動・社会
乾燥地域に生息する他のウマ科動物のように、5頭程度までの一時的な緩いつながりの群れを作ります。
群れは同性だけであったり異性を含んでいたり様々で、サイズは主にエサに左右されているとされています。
オスの中にはなわばりをもつ者がおり、糞などでアピールします。
繁殖できるのは基本的になわばりオスだけで、なわばり内の複数のメスと交尾します。
African wild ass ( Equus africanus somalicus) mating | Syydehaas Basel
繁殖
メスの妊娠期間は12~13ヵ月で、10月~4月にかけて出産が見られます。
子供は2歳ごろ独立しますが、メスは生まれた地域に留まることもあるようです。
寿命について、飼育下では25年以上生きる個体もいるようです。
人間とアフリカノロバ
絶滅リスク・保全
アフリカノロバの最も大きな脅威は密猟です。
肉は食用となり、体の一部は薬として利用されます。
骨のスープは結核や便秘、リウマチなどに効果があると信じられています。
また、家畜とのエサや水資源をめぐる競合も大きな脅威となっています。
こうした脅威のために、特にエチオピアではここ35年の間で95%以上も個体数が減り、ここ12年の間で生息地の半分から姿を消したとされています。
現在、アフリカノロバの個体数は、600頭程度と見積もられており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
また、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されており、国際取引は原則禁止されています。
動物園
アフリカノロバを日本で見ることはできませんが、家畜のロバは各地の動物園で見ることができ、触れ合える動物園もあるようです。