ホッキョクウサギの基本情報
英名:Arctic Hare
学名:Lepus arcticus
分類:兎形目 ウサギ科 ノウサギ属
生息地:カナダ、グリーンランド
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
冬景色への適応
その名の通り北極圏のツンドラに生息する最北のウサギであるホッキョクウサギは、冬の平均気温-25度以下、平均積雪が35㎝以上の極寒の環境によく適応しています。
たとえば寒さに対する適応を見てみましょう。
ホッキョクウサギは北米では最大のウサギで、体積に対する表面積が小さいことで放熱が最小限になります。
これは高緯度になるにつれて大型化するというベルクマンの法則に合致します。
また、同じノウサギのジャックウサギなどと比べると耳は短く、これも放熱の抑制に貢献しています。
こちらは寒冷気候地域に生息するものほど首や耳などの体の出っ張りが短くなるというアレンの法則に則っています。
続いて雪に対する適応はどうでしょう。
ホッキョクウサギはウサギの中では最大級の足を持っています。
これにより体重が広く分散され、雪に埋もれることなく歩くことができます。
彼らの足の速さは見た目以上で、最高時速は60㎞以上にも達し、その機敏さで捕食者から逃げ切ることも稀ではありません。
雪への適応について、もう一つ忘れてはならないのが体色です。
ホッキョクウサギの夏毛は灰褐色ですが、このままでは真っ白な冬の雪景色では目立ってしまい、捕食者の格好の餌食です。
そこで彼らは、冬に真っ白な毛に衣替えします。
体のほとんどすべてを白色化することで、背景の雪景色に紛れるのです。
特筆すべきは1年中真っ白な個体がいることです。
このような個体はカナダのエルズミーア島やバフィン島、そしてグリーンランドに生息しています。
このような地域の夏は非常に短いため、毛色を変えるコストや毛色を変えるメリットなどを考えると1年中白いままでいた方が有利であると考えられています。
冬季に白化するノウサギは、ニホンノウサギ、ユキウサギ、カンジキウサギ、オジロジャックウサギ、そしてこのホッキョクウサギが知られていますが、1年中白いのはホッキョクウサギだけのようです。
ホッキョクウサギは最も冬に適応したウサギと言えるでしょう。
ホッキョクウサギの生態
生息地
ホッキョクウサギは、カナダのマニトバ、ケベック、ラブラドール、ニューファンドランド、ヌナブトと言った地域の北部やグリーンランドのツンドラに生息しています。
形態
体長は48~60㎝、体重は3~7㎏で北米のウサギの中では最大となります。
手足は大きく、穴を掘るために大きな爪が生えています。
白化しても耳の先は黒いままです。
真っ黒のまつげは厳しい日光を和らげる効果を持ちます。
食性
ホッキョクウサギは地衣類やコケ類、木本類やベリー類、芽やつぼみ、根、枝、樹皮などなど様々な植物を食べます。
捕食者にはホッキョクギツネやアカギツネ、オオカミ、カナダオオヤマネコ、オコジョ、猛禽類などが知られています。
行動・社会
薄命薄暮性、夜行性のホッキョクウサギは主に単独性ですが、冬には数百頭以上にもなる大群を作ることがあります。
行動圏は10~290ha。
体温を維持するために雪に穴を掘ってそこで休息します。
繁殖
ホッキョクウサギの繁殖は4月~5月にかけて行われます。
交尾中オスは攻撃的で、メスの首に噛みつき血を流させることすらあります。
メスは通常年に1度出産します。
妊娠期間は約50日で、一度に2~8匹の100g程度の赤ちゃんを産みます。
母親は産後2~3日以降は18~20時間おきに子供の世話をする程度で育児への投資は少ないです。
子供は生後8~9週で離乳し、生後10ヵ月で性成熟に達します。
寿命は野生では長くても3~5年と言われています。
人間とホッキョクウサギ
絶滅リスク・保全
ホッキョクウサギはその地の原住民にとっては歴史的に重要な存在です。
耐久性、質はよくないものの、その毛皮は生活に欠かせず、比較的大きな体は重要な食糧となっています。
ホッキョクウサギの現在の個体数のトレンドは知られていませんが、絶滅は懸念されていません。
南部個体群については気候変動の影響が懸念されているものの、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
参考文献
ホッキョクウサギは日本では見ることができません。