アジアノロバの基本情報
英名:Asiatic Wild Ass
学名:Equus hemionus
分類:奇蹄目 ウマ科 ウマ属
生息地:中国、インド、ネパール、パキスタン
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
広い行動圏と蹄
かつてアジアを中心にヨーロッパにも生息していたアジアノロバは、広い行動圏を持ちます。
乾燥した地域に生息する彼らは、エサや水を求めて広いエリアを歩く必要があるからです。
ウマ科動物は水資源を行動圏に必ず持ちます。
アジアノロバもエサからだけでは必要な水分を摂取できないため、行動圏内に水場を持ちます。
環境が厳しく近くに水がないときなどは、水を求めて川床などを蹄で60㎝近くも掘ることがあります。
アジアノロバはエサと水を求めて1日に20㎞も移動します。
また、特にエサや水が少なく厳しい環境では、年間の行動圏は7万㎢にも及びます。
これほど広範囲を移動するため、障害物に邪魔される可能性が高くなります。
例えば鉄道や道路、家畜や探鉱のための囲い込みフェンスなどは、アジアノロバの行動圏を制限します。
こうした生息域を分断しかねない障害物はアジアノロバの生活を脅かす脅威となっています。
ところで歩くアジアノロバの足先にはウマ科動物に共通するある特徴があります。
蹄です。
ウマはその進化の過程で指の数を減らしてきました。
5,500万年前のウマの祖先である「最初のウマ」エオヒップス(ヒラコテリウム)の指は、すでに5本から4本になっており、その後の進化の過程を経て、今ではウマ科動物の指はとうとう中指の1本を残すのみとなります。
この先端を蹄という角質層で覆い守ることで、彼らは平坦で硬い地面を長時間、颯爽と移動できるのです。
ちなみに蹄を持つもう一つの大きなグループである偶蹄目とウマなどの奇蹄目との違いは、偶蹄目の足の中軸が第3指と第4指の間を通るのに対し、奇蹄目では第3指を通ることにあります。
たったこれだけの違いが今の偶蹄目と奇蹄目の違いを生み出しているのは興味深いですね。
さて、アジアノロバはこの蹄から生まれる移動力で、厳しい環境を生き抜いています。
そしてこうしたウマの性質は、歴史的に人間に重宝されてきました。
しかし、今では人間によって彼らの生活が脅かされています。
彼らを今日まで生存させてきた立役者である蹄ですら、この状況を駆け抜けていくことは難しいかもしれません。
アジアノロバの生態
分類
キャンをアジアノロバの亜種とする場合もあります。
現在5亜種が知られています。
アジアノロバはオナガー(Equus hemionus onager)と呼ばれることもありますが、これはイランに生息する亜種です。
生息地
標高3,000mまでのステップや半砂漠、砂漠の平原に生息します。
モンゴルには全個体数の75%が生息しています。
カザフスタンやイスラエルには再導入された個体群が生息しています。
ウズベキスタンとウクライナには再導入された個体群が広い囲いの中(半保護区)で生活しています。
モンゴルのゴビ砂漠ではモウコノウマと一部で生息域を重複させています。
形態
体長は2~2.4m、肩高は1~1.4m、体重は200~240㎏です。
アフリカノロバと異なり、足の縞模様はありません。
食性
アジアノロバはグレイザーで、地面に生えた草を主食としますが、エサが少ないときは樹皮や木の葉なども食べます。
水がなくても2~4日は生きられますが、生活の上で水は必須です。
潜在的な捕食者にはオオカミがいます。
行動・社会
乾燥地域に生息する他のウマ科動物と同じく、群れは永続的ではありません。
群れは10~20頭になり、最も強い個体間のつながりは母子に見られます。
オスはなわばり性が強いと思われ、なわばり内のメスたちと交尾します。
アジアノロバは最高時速70㎞で走ることができます。
繁殖
メスは条件が良ければ毎年出産できます。
妊娠期間は11~12ヵ月で、1頭の赤ちゃんを産みます。
出産前後は群れから一時的に離れます。
子供は2歳ごろ独立し、3~4歳で性成熟に達します。
メスは3歳、オスは5歳ごろ最初の繁殖を経験します。
寿命に関して、飼育下では30年近く生きる個体がいます。
人間とアジアノロバ
絶滅リスク・保全
現在の個体数は5.5万頭と推測されており、安定しているとされています。
アジアノロバは19世紀と比べると7割近くの生息範囲を失ったと考えられています。
家畜との競合や生息地の分断、破壊、そして肉、皮などを目的とした密猟は今でも絶えません。
特に肝臓は薬効があると信じられており、密猟の原因となっています。
こうした状況から、彼らはIUCNのレッドリストでは準絶滅危惧の評価を与えられています。
動物園
アジアノロバを日本で見ることはできません。