シロイルカの基本情報
英名:Beluga Whale
学名:Delphinapterus leucas
分類:鯨偶蹄目 イッカク科 シロイルカ属
生息地:北極海
保全状況:LC〈軽度懸念〉

参考文献
海のカナリア
視界の悪い海の中では音が重要な情報となりますが、海生哺乳類の中でも特にハクジラ類は、音に関する能力を発達させてきました。
例えば、ハクジラは音で獲物を見つけます。
鼻声門(フォニックリップス、モンキーリップス)と言われる特殊な構造から生まれる音は、これまた特殊なメロンという組織を通って対象物に発射されます。
そして跳ね返った音を、下顎を通して聞くことによって対象物を認識しているのです。
これはエコロケーション(反響定位)と呼ばれ、これに使われる超音波はクリックスと呼ばれます。
このように音が生命線ともいえるハクジラですが、特にベルーガという名前でも知られるシロイルカは「海のカナリア」とも呼ばれるほど、様々な音を発することで知られています。
中でも彼らに特有な音は、ギー音(クリーキングコール)と呼ばれています。
ハクジラの鳴音は周波数帯の広いパルス音と狭いホイッスルに大きく分けられますが、ギー音は前者に含められます。
人間にはギーと聞こえるギー音ですが、その実は間隔の短いたくさんのパルス音。
中には人間には聞こえない100kHz以上の超音波も含まれます。
このギー音は個体ごとにパターンが決まっており、鳴き交わしも見られることから、シロイルカ同士の個体識別に使われている可能性があります。
また面白いことに、メス同士では見られませんが、オス同士ではこのギー音の共有が見られます。
このように個体同士のつながりの維持に重要な音はコンタクトコールと呼ばれ、ギー音にもコンタクトコールの機能が備わっていると考えられます。
そして、ギー音が共有されるということは、シロイルカには音をまねする能力があるということです。
実際シロイルカは、シロイルカの音だけでなく、人工音にたいしてパターンや抑揚を模倣したり、ヒトの声をまねしたりすることができます。
下のしゃべるシロイルカ、ナックの記事には実際の動画が載っているので、ぜひ見てみてください。
今ではその多様な鳴音が鳥類にたとえられるシロイルカですが、いつか「~のベルーガ」と呼ばれる生き物が出てくるほど、今後彼らの鳴音についてもっとわかってくるかもしれません。


シロイルカの生態
生息地
北極海とその周辺に生息します。
海氷の塊がある海、海氷がまばらな海、海氷がない海に出現しますが、特に夏には河口付近や川で見られることもあります。
形態
体長はオスが3.1~5.2m、メスが3~4.2m、体重はオスが1.4t、メスが0.7tで性的二型が見られます。
鯨類では通常、頸椎のうち最初の2つないし4つは癒合していますが、シロイルカではすべて分離しています。
そのため、首は柔軟で後ろを振り返ることができます。
背びれはなく、代わりに稜線があります。
これは海氷がある海を泳ぐ邪魔にならないためと考えられます。
尾びれ、背びれが加齢とともに変形するという珍しい特徴を持ちます。
脂皮は15㎝ほどになり、体温低下を防ぎます。
食性
アークティックコッドやサケ、カラフトシシャモなどの魚類や、イカなどの頭足類、貝類、甲殻類などを食べます。
捕食者にはシャチやホッキョクグマがいます。


行動・社会
群集性が強く、その規模は2~2,000頭と様々です。
構成も同性のみだったり同じ年代だったり、複数の異性や年代でできていたりと様々です。
生息地の最北部では数千㎞にも及ぶ季節回遊をする個体群が知られていますが、同じ海域に留まる個体群もいます。
20分の潜水が可能で、900m以上潜ることができるようです。
スパイホップや尾びれたたきなどの水面行動がよく見られます。
10㎝程度なら海氷を割ることができます。
繁殖
性的二型があることや、オスの体にケンカの痕があることなどから、少なくともオスが複数のメスと交尾する一夫多妻制の配偶システムであると考えられます。
交尾は晩春から初夏にかけて、出産は夏に行われます。
発情周期は48日、妊娠期間は12~15ヵ月で、1.5~1.7m、80~100㎏の赤ちゃんが一頭生まれます。
離乳は約2歳の時、性成熟にはオスで7~9歳、メスは4~7歳で達します。
寿命は40年ほどとされていますが、60年を超える個体もいるようです。
閉経する老齢個体の存在が示唆されています。

人間とシロイルカ
絶滅リスク・保全
現在、シロイルカの個体数は20万頭を超えると推測されており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、懸念される脅威も存在します。
たとえば、商業捕鯨は行われていませんが、アラスカやロシアなどの原住民による狩猟が行われています。
そうした人々の中には、シロイルカの肉や脂肪を最も価値の高いものとする慣習もあるようです。
また、地球温暖化は餌生物の変化を引き起こしたり、背びれの高いシャチから逃げる海氷というシェルターを奪ったりする可能性があります。
事実、シャチは温暖化で氷がないところに生息地を広げているようです。

動物園
シロイルカは日本でも人気者で、いくつかの水族館で見ることができます。
千葉県の鴨川シーワールド、神奈川県の横浜・八景島シーパラダイス、愛知県の名古屋港水族館、島根県のしまね海洋館アクアスがシロイルカを飼育しています。
シロイルカの飼育は、1860年代のカナダ・セントローレンス湾の6頭の飼育から始まったようです。
