チーターの基本情報
英名:Cheetah
学名:Acinonyx jubatus
分類:ネコ科 チーター属
生息地:アルジェリア、アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、チャド、エチオピア、イラン、ケニア、マリ、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、南アフリカ、南スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
地上最速ハンター
チーターは、言わずと知れた地上最速のハンターです。
その体は、スピードに特化しています。
しなやかな背骨に、長い脚としっぽ。
小さい頭や短い吻(ふん)は、空気抵抗を減らします。
また、ほとんど鞘に入らない爪は、スパイクの役割を、肉球に刻まれた溝はグリップ力を高めています。
この他、大きな心臓や広い鼻腔も彼らのスピードを可能にしています。
その体から生み出される加速力は半端ではなく、2秒で時速約70km、3秒で時速90km以上。
最高速度は時速100km以上にもなります。
この間、心拍数は毎分60回から150回まで上がり、体は通常の5倍もの熱量を生みます。
しかし、実際の狩りにおいて、そのスピードが存分に生かされるわけではありません。
獲物は直線を逃げるわけではないからです。
また、その速すぎるスピードは、当然ながら長い時間維持されることはありません。
チーターがトップスピードで獲物を追うのは、大体300m、長くても600mほどで、それ以上を追いかけることはありません。
チーターの狩りの成功率は25~40%ほどで、あまり高くはありません。
ただ、相手が子どもであれば、100%に近い確率で仕留めることができます。
しかし、仮に狩りが成功したとしても油断はできません。
チーターは仕留めた獲物をすぐには食べません。
5~55分の間、休憩して呼吸を整えなければならないのです。
その間に、ライオンやブチハイエナから獲物を奪われることもあります。
残念なことに地上最速ハンターは、地上最強ハンターではないのです。
オスの連合
ネコ科の動物は基本的に単独で行動しますが、そんな中、チーターはプライドと言う群れを作るライオンの次に高い社会性を持つ、例外的なネコです。
チーターの社会は、独特です。
まず、メスは群れを作りません。
メスは、なわばりを持つことなく(=防衛しない)、えさを求めて単独で放浪しながら暮らします。
なわばりを持たないため同種他個体には比較的寛容で、しばしば短い時間を一緒に過ごすこともあります。
チーターの行動圏は、ネコ科の中でも広い方です。
特に獲物が季節移動する場合は、その行動圏は非常に広くなります。
獲物が季節移動しない、もしくは豊富な場合、メスの行動圏は200㎢前後ですが、獲物が季節移動する、もしくは稀少な場合、その大きさは5,000㎢以上になることもあります。
メスが単独で放浪する一方、オスは同じ時期に産まれた兄弟と連合を作ります。
連合は2~5頭から構成され、血縁関係ない個体が含まれることもあります。
兄弟がいない場合などは、メスのように放浪するか、どこかの連合に合流することになります。
なわばりを持たずに放浪したり、放浪(行動圏は4,000㎢になることも)と定住(なわばりを持つ)を繰り返したりするオスもいますが、基本的にオスは、連合であれ単独であれ、100㎢前後のなわばりを持ちます。
なわばりは連合で防衛される方が維持できる成功率が高いので、健康状態も単独で行動するオスより連合を作るオスの方が良いようです。
チーターの生態
名前
チーター(Cheetah)という名前は、多彩なとか、斑点のあるという意味のヒンディー語“Chita”に由来します。 また、属名の“Acinonyx”は、ギリシャ語で出し入れできない爪を指しています。
分類
近年の分子研究の発展により、チーターはそれまで考えられていたヒョウ系統ではなく、ピューマやジャガランディと同じ、ピューマ系統のネコであることが分かりました。
ヒョウ系統が、ネコ科動物の祖先から1080万年前に分岐したのに対し、ピューマ系統は670万年前に分岐しています。
チーターは、そのピューマ系統に分類されるのです。
そのため、チーターはいわゆる大型ネコでなく、ピューマと同じく大型化した小型ネコであるとの認識が現在は一般的です。
実際、チーターは大型ネコのように咆哮することができません。
ちなみに、1927年に、亜種として記載されたいわゆるキングチーターは、変異種にすぎず、普通の斑点のチーターからも生まれることが分かっています。
生息地
チーターは、アフリカの標高4,000mまでのサバンナや半砂漠、砂漠などに生息しており、深い森や雨林などには生息していません。
アジアでは、イランにのみ生息しています。
イランのチーターは年間降水量100㎜以下の地域に住んでおり、日常的に雪を経験しています。
最近、アフリカで2例目と思われる、雪とチーターの写真が話題になりましたが、イランでは雪の中のチーターは珍しくないようです。
形態
体長はオスが108~152㎝、メスが105~140㎝、体重はオスが29~64㎏、メスが21~51㎏、肩高は67~94㎝、尾長は60~89㎝で、性的二型が見られます。
涙が伝ったような顔の黒い模様は、チーター唯一のもので、日差しを和らげるなどの効果があると考えられています。
また、一部しか鞘に収まらない爪も、他のネコにはない特徴です。
爪は先が尖っていませんが、唯一親指の爪は鋭く、獲物に引っ掛けて転ばせるときなどに使われます。
食性
チーターは、ガゼルやスプリングボック、インパラなど体重20~60㎏の、小型~中型の草食動物を捕食します。
この他、大型齧歯類や大型ウサギ、鳥類、マングースなどを食べることもあります。
また、オスが連合した場合、協力してヌーやイボイノシシ、オリックスなど自分より大きな危険な草食動物を捕食することもあります。
チーターは死肉を食べず、また、人間を襲った例もありません。
狩りは視覚を使って行われます。
協力して狩りが行われた場合、獲物をしとめた個体以外の個体が先に食べ始めます。
チーターは一度に14㎏もの肉を食べることができます。
チーターの捕食者には、ライオンやブチハイエナ、ヒョウがいます。
特に子供は、これらの動物の他、ラーテルやジャッカルにも襲われます。
行動
チーターは、主に日中活動します。
これは、競合関係にあるライオンやブチハイエナとの時間的重複を避けるためだと考えられています。
実際、競合の影響が弱いサハラなどでは、チーターは夜にも活動することが知られています。
ちなみに、ライオンやブチハイエナの存在は、彼らの活動時間だけでなく、彼らの広い行動圏の理由にもなっていると考えられています。
チーターの生息密度は非常に小さく、100㎢に0.3~3頭です。
これがサハラなどの砂漠地帯になると、さらに100分の1ほどの小ささになります。
このような小さな生息密度には、ライオンなどの捕食者の他、獲物の量が関係していると思われます。
繁殖
チーターの繁殖は年中行われます。
メスの出産間隔は約20カ月で、発情期間は1~6日。
オスとメスは乱交的に交尾し、交尾は多くが夜に行われます。
妊娠期間は90~98日で、250~430gの赤ちゃんが、一度に3~6頭産まれます。
赤ちゃんには特徴的なたてがみが生えています。
これには環境に溶けこむカモフラージュ効果や、体温を調節する効果、凶暴なラーテルに似せることで襲われにくくする効果などがあると言われています。
たてがみは4~6カ月もすれば目立たなくなります。
育児はもっぱら母親が行います。
母親は、捕食者に狙われないよう、数日ごとに巣を変えます。
しかし、大人になるまで生存する子どもの数は非常に限られており、生存率はセレンゲティで約5%しかありません。
ちなみに、チーターの子殺しは確認されていません。
赤ちゃんは生後4~11日で目を開き、生後4~5カ月には完全に離乳します。
生後12~20カ月にはグループで親元を離れます。
メスは性成熟前にそのグループを離れますが、オスは留まり、連合を保ちます。
また、オスの方がより分散する一方、メスは独立後も母親の行動圏の近くで生活します。
メスは生後21~24カ月で性成熟に達し、その数か月後には初出産を経験します。
オスの性成熟は約1歳の時ですが、繁殖を始めるのは3歳からのことが多いです。
寿命は野生で5~6年、飼育下では長くて14年です。
人間とチーター
絶滅リスク・保全
チーターは、かつてアフリカ全土、および中東や中央アジア、南アジアまで広く生息しており、1900年代には10万頭以上が生存していたと推測されていますが、様々な脅威のために数を減らし続け、現在ではかつての10%ほどの土地に、成熟個体7,000頭弱が生き残るのみとなっています。
その内訳は、アフリカ南部に4,200頭、アフリカ東部に1,950頭、アフリカ西部、中部、北部に450頭、イランに80頭で、亜種5種のうち、アフリカ西部の亜種(A.j.hecki)とアジアの亜種(A.j.venaticus)がレッドリストにおいて絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
種全体としては、チーターは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
脅威としては、農地への転換、インフラの発達による生息地の減少、家畜を襲うことによる人間からの迫害、特に北アフリカとイランで顕著な狩猟による獲物の減少、限定的ではあるが毛皮目的の狩猟、ペット目的の生きた子供の密売、事故、スポーツハンティング、管理が行き届いていない観光、低い遺伝的多様性などが挙げられます。
観光は、管理されれば保全において重要な役割を果たすことができますが、そうでなければ、例えばチーターの周りに車が近づくことで、子どもが親から離されたり、食べている途中のえさから離れなければならなかったりと、相当なストレスをチーターに与えてしまいます。
子どものチーターの密猟、密売は、子どもの多くが輸送中に死んでしまうそうです。
チーターは約5000年前からペットとしてアラブやヨーロッパの貴族に飼われてきました。
貴族はチーターを狩りに利用して楽しんだようで、ムガル帝国の皇帝アクバルは9,000頭ものチーターを保有していたと言います。
しかし、チーターの生態を見れば分かるように、チーターはペットには向きません。
ペットにしたいという昔からある人間の欲望は、チーターを痛めつけるばかりで、早く捨て去られるべきです。
チーターは、2万年前までヨーロッパや北アメリカに生息していましたが、環境の急激な変化により、1万年前までに1種以外絶滅してしまいました。
そのため、その子孫である現在のチーターの遺伝的多様性は非常に低く、血縁個体の遺伝子は99%も同じと言います。
通常は80%くらいが同じであることを考えると、これは非常に高い数字です。
遺伝的多様性が低いということは、環境の変化や病気に対する脆弱性が高いことを意味します。
幸い、チーターの生息密度は低いため、病気の蔓延は避けられるかもしれません。
ただ、広範囲に及ぶ環境の変化などに耐えられるかは分かりません。
遺伝的多様性の低さは、チーターにとって大きな懸念事項となっています。
このようなチーターに襲いかかる脅威を少しでも小さくするべく、活動する団体もあります。
例えば、RWCP(Range Wide Conservation Program for Cheetah & African Wild Dog)やCCF(Cheetah Conservation Fund)は、チーターに関する研究や教育など、チーターの保全に関して幅広く活動しています。
動物園
そんなチーターですが、日本の動物園でも見ることができます。
岩手県の岩手サファリパーク、埼玉県の東武動物公園、和歌山県のアドベンチャーワールド、広島県の安佐動物公園、大分県の九州自然動物公園アフリカンサファリなどが、チーターを飼育・展示しています。
彼らがもっとも輝く瞬間を見ることはできませんが、そのしなやかで美しい肉体美を拝みに、是非これらの動物園に足を運んでみてください。