カニクイアザラシの基本情報
英名:Crabeater Seal
学名:Lobodon carcinophaga
分類:食肉目 アザラシ科 カニクイアザラシ属
生息地:南極
保全状況:LC〈軽度懸念〉

参考文献
オキアミへの依存
南極海に広く生息するカニクイアザラシ。
彼らの英名は“Crabeater Seal”。
和名はこれを直訳したものとなります。
しかし、彼らの主食は同じ甲殻類ではありますが、カニではなくオキアミ。
彼らの食べるもののうち、8~9割をナンキョクオキアミが占めます。
カニクイアザラシの生活は、体長5㎝程度のこの小さい甲殻類に依存しています。
カニクイアザラシが採餌を行うのは、夜。
ナンキョクオキアミが海面付近にまとまって浮上してくる時間です。
彼らは水深600mまで潜ることができ、最長24分間息を止めて泳ぐことができますが、採餌中の潜水は30m未満、潜水時間も5分以内です。
しかし、ナンキョクオキアミが沈む明け方や日暮れ時は、彼らの潜水もやや深くなります。
ただ、100mより深くまでエサを追いかけることはほとんどありません。
ナンキョクオキアミは多様性の小さい南極海に大量に生息しています。
その生物量はなんと4億t。
世界中の漁獲と養殖を合わせた年間漁業生産量が約1.8億tであることを考えるとものすごい量です。
オキアミを食べる動物はカニクイアザラシに限りません。
例えばセミクジラなどのヒゲクジラが主食としています。
しかし、ヒゲクジラ類はその捕まえやすさから乱獲の被害にあい個体数を減らします。
一方、その分余ったオキアミにありつけたカニクイアザラシは激増します。
今ではその個体数は1,000万~1,500万頭とも推測され、体の大きさにしてはかなりの数が生存しています。
彼らが消費するオキアミは年間6,000~7,000万tとも言われていますが、これは世界の年間の海面漁業生産量約8,000万tに迫ります。

ここで、彼らの歯に注目してみましょう。
彼らの歯は複雑に入り組んでおり、上下の顎を閉じたときに網の目を作り出します。
カニクイアザラシはこの歯を使って彼らはオキアミを漉しとって食べているのです。
彼らの学名のうち、属名の“Lobodon”は「入り組んだ歯」を意味しています。
ちなみにヒゲクジラ類は、特殊なひげ板を使って同様にオキアミを漉しとって食べます。
このようにオキアミに依存したカニクイアザラシですが、彼らの食性にどれだけ柔軟性があるのか気になります。
というのも、地球温暖化のナンキョクオキアミへの影響が懸念されているからです。
オキアミは冬を氷に留まる生物死骸などに頼って乗り切ります。
また、オキアミの幼生はこの氷の隙間で育ちます。
温暖化により南極の氷が溶ければ、氷に依存するナンキョクオキアミに影響し、それを主食とするカニクイアザラシにも影響することでしょう。
カニクイアザラシが主食を他の生物に切り替えることができればいいですが、その可否は不明です。

カニクイアザラシの生態
生息地
南極海に広く生息し、特に南極半島沿岸やロス海で密度が高くなります。
放浪個体が南米やアフリカ南部、オーストラリア、ニュージーランドなどで見られることがあります。
形態
体長は2.6m、体重は200~330㎏でメスの方が若干大きくなります。
アザラシ類では珍しく、泳ぐ際、前肢も水をかいたり方向転換したりすることに使われます。
呼吸するための穴は、ウェッデルアザラシのものを使ったり、自分の歯で開けたりします。
換毛は1月から2月にかけて見られ、その期間はほとんどを氷上で過ごします。

食性
ナンキョクオキアミを主食とし、他にも魚類やイカ類を食べます。
捕食者にはシャチやヒョウアザラシがいます。
特にカニクイアザラシの1歳未満の個体の死亡原因の80%が、ヒョウアザラシによる捕食といわれ、生きのびた個体の多くにもヒョウアザラシによる攻撃の痕が見られます。

行動・社会
通常単独か数頭の小さいグループで見られますが、1,000頭以上の集団が氷上で見られることもあります。
また、海中でも500頭近くの群れで見られることがあります。
特定の繁殖場(ルッカリーという)はありません。
オスは子育てをするメスのそばで、そのメスの発情を待ちます。
メスは子の離乳の1~2週間後に発情しますが、オスはそのメスと交尾した後はまた別のメスを求めて移動するとされています。
繁殖
出産は9月から12月にかけて見られます。
メスはおそらく着床遅延を含む11ヵ月の妊娠期間の後、1.1m、20~40㎏の赤ちゃんを1頭産みます。
赤ちゃんは高脂肪の母乳で1日に4㎏ずつ体重を増やし、生後3週ごろ離乳します。
このころ初めての換毛を迎え、大人の色に近づきます。
性成熟には2~4歳で達します。

人間とカニクイアザラシ
絶滅リスク・保全
観光の増加や地球温暖化は今後脅威となる可能性はあるものの、現在のところ、カニクイアザラシには大きな脅威はなく、絶滅に関してもIUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。

動物園
日本ではカニクイアザラシに会うことはできません。
