キットギツネの基本情報
英名:Kit Fox
学名:Vulpes macrotis
分類:イヌ科 キツネ属
生息地:メキシコ、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉
アメリカのフェネック
フェネックギツネ(フェネック)は、日本では動物園でも見られる人気者です。
キットギツネは、このフェネックに姿形が似ていることから、アメリカのフェネックギツネと言われることがあります。
実際、両者には共通点がいくつもあります。
まず、両者は砂漠などの乾燥地帯に生息しています。
昼間は厳しい暑さのために巣穴にこもり、夜になり気温が下がると活動を始めます。
水はあったら飲みますが、水分は基本的に食物からとることができるので、水そのものはなくても生活できます。
次にその容姿。
彼らの似通った容姿は上記のような生息環境からくるもので、彼らだけではなく、ケープギツネやオオミミギツネなど同じく乾燥した環境に適応しているキツネの特徴です。
最も目立つのはなんと言ってもその大きな耳。
キットギツネの耳は7~9.5㎝にもなります。
この耳は、獲物のかすかな音を逃さないパラボラアンテナの役割を果たすだけでなく、熱を効率よく放出し、体温の上昇を防いでもいます。
イヌ科動物は汗腺が発達しておらず、汗をあまりかくことができないため、あえぎ呼吸といって、浅くて速い呼吸を繰り返すことで気道からの水分蒸発を促し、体温を下げます。
キットギツネたちはこれに加え、耳からの熱の放散により、体温を調節しているのです。
容姿についてより詳しく見てみると、キットギツネやフェネックギツネの足の裏には毛が生えています。
これのおかげで、砂漠での歩行がより楽になるとともに、砂漠の暑い表面から足の裏が守られます。
このようなキットギツネなどの容姿の特徴は、実は乾燥地帯に生息する他の動物にも言えます。
例えば、フェネックと共に日本で人気のスナネコも、上記のような特徴を持ちます。
キットギツネの生態
分類
キットギツネは、その形態や雑種が産まれていることなどからスウィフトギツネと同種にされることもありますが、分子研究の成果などにより、今のところは別種とされています。
生息地
キットギツネは、アメリカからメキシコにかけて、標高400~1,900mの砂漠や半砂漠、草原などの乾燥地帯に生息します。
果樹園などの農地や都市周辺でも見られることがあります。
また、巣穴を掘るために土壌が比較的緩い環境を好むようです。
食性
キットギツネは主に肉食です。
プレーリードッグやカンガルーネズミなどの齧歯類や、オグロジャックウサギなどのウサギ類を主食としており、これらを昆虫やトカゲ、ヘビ、鳥類、死肉などが補います。
また、エサが少ない時は果実を食べることもあります。
捕食者には、コヨーテやボブキャット、アカギツネ、アメリカアナグマなどがおり、捕食の4分の3をコヨーテが占めます。
形態
体長は45~53㎝、肩高は約30㎝、体重は1.6~2.7㎏、尾長は25~34㎝で、オスの方がメスよりやや大きくなります。
キットギツネは小型のイヌ科動物で、北アメリカでは最小のイヌ科動物になります。
チーターのような鼻の横を走る筋が特徴的です。
行動
キットギツネは、夜行性ですが、夕暮れ時や朝方に活動することもあります。
昼間は、自分で掘るか、アメリカアナグマやプレーリードッグが掘った穴を乗っ取るかして得た巣穴で過ごします。
巣穴は行動圏内に多くて10ほどあります。
行動圏は2.4~11.6㎢で、オスとメスで大きさに違いはありません。
生息密度は1㎢に0.1~1.7頭になります。
キットギツネはペアないし、家族群を作りますが、採食は単独で行います。
また、巣穴も必ずつがいで共有するわけではないようです。
ペアは繁殖が終わった後も関係が続くこともあれば、変わることもあり、また同時期に複数の異性と繁殖することもあります。
繁殖
キットギツネの繁殖には季節性が見られ、12~2月に交尾、2~5月に出産が見られます。
妊娠期間は49~55日で、一度に1~7頭、通常4頭の赤ちゃんが産まれます。
赤ちゃんは父母や姉により育てられます。
赤ちゃんは生後8週で離乳し、3~4カ月で親と共に狩りをするようになります。
そして、生後5~6カ月で独立し、分散します。
オスの方がより遠くに分散する傾向にあります。
また、新たに生まれた弟や妹を育てるために、メスの分散時期は1年ほど遅れることがあります。
性成熟には生後10カ月で達しますが、実際の繁殖はもっと先に行われます。
カリフォルニアでは、1歳を迎えるまでに死亡する割合が74%で、多くが子どものうちに死んでしまいます。
寿命は野生で長くて7年、飼育下では12年の記録があります。
人間とキットギツネ
絶滅リスク・保全
キットギツネはレッドリストにおいて軽度懸念の種とされていますが、いくつかの脅威により個体数を減少させています。
特に生息地の転換は大きな脅威です。
彼らの生息地の一部は農地や太陽光発電の地に転換されており、キットギツネやそのえさとなるプレーリードッグなどに大きな影響を与えています。
主に生息地の破壊が原因で、キットギツネの亜種であるサンホアキンキットギツネはアメリカ合衆国では絶滅危惧種に指定されています。
彼らが絶滅危惧種に指定されたのは1967年のことで、1990年にはその個体数は約7,000頭であったと言われています。
動物園
そんなキットギツネですが、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
ただ、ここにも登場したフェネックギツネには10以上の動物園で見ることができます。
もし動物園でフェネックギツネに会った時は、ぜひアメリカのフェネックギツネであるキットギツネのことも思い出してください。