フタユビナマケモノの基本情報
英名:Linné’s Two-toed Sloth
学名:Choloepus didactylus
分類:有毛目 フタユビナマケモノ科 フタユビナマケモノ属
生息地:ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、フランス領ギアナ、ガイアナ、ペルー、スリナム、ベネズエラ
保全状況:LC〈経度懸念〉
スローライフ
そのゆっくりとした動きがまるで怠けているかのように見えることからその名がつけられたナマケモノ。
このような名付け方は日本だけでなく、他の国でも見られます。
例えば英語の“sloth”は、怠惰を意味する古い英語に由来しています。
しかし、彼らは決して怠けているわけではありません。
もしも彼らが怠けていたら、今頃のこの世にはいないはず。
その祖先は6,400万年前までさかのぼることができますが、彼らはゆっくりした生活を営むことで厳しい自然界を生きのびてきたのです。
それでは彼らのスローライフを少し覗いてみましょう。
ナマケモノは1日の約8割を動かずに過ごします。
動いたとしてもその動きは非常にゆっくりです。
彼らの樹上でのトップスピードは、秒速70㎝ほど。
通常時であれば秒速30㎝程度です。
彼らがこのようなゆっくりとした生活をする理由は、消化に時間をかけるため、そしてエネルギーを節約するためです。
ナマケモノは、葉っぱという低質なものを主食とします。
哺乳類は植物を自分だけでは消化できないため、微生物の助けが必要です。
ナマケモノの胃は4つに分かれており、ここに微生物を共生させて彼らに植物を発酵してもらっています。
食べたものが胃を含んだナマケモノの体を通る時間は、最長1ヵ月。
そのため、彼らの体には排泄されていない食物が多く詰まっており、胃とその内容物は、彼らの体重の3割以上を占めることもあります。
同じく南米に住む同じ大きさのホエザルと比べると、ナマケモノは3分の1の量しか食べません。
彼らが小食なのは、長い時間をかけてできるだけ葉っぱからエネルギーを得るという消化様式をとっているためなのです。
そして、消化を効率的に行うには安静が一番。
ナマケモノのスローライフの理由の一つです。
ナマケモノは入ってくるエネルギーを最大限利用する一方、出ていくエネルギーを最小限に抑えます。
動かないこともその戦略の一つです。
また、筋肉はエネルギーの消費が大きいですが、ナマケモノの筋肉はその大きさから想定される筋肉量の3割程度しかありません。
また、彼らの筋肉は収縮速度の遅い遅筋を多く含みます。
これらに加え、ナマケモノは代謝率が低いことで知られています。
彼らの代謝率はその体重から想定される40~74%しかありません。
さらに彼らは恒温動物というには体温の変動が激しく、中心の体温は10℃も変化します。
周囲の環境の温度に合わせることで体温を保つ余計なエネルギーを節約しているのです。
そのため、寒い日には太陽にあたり、暑い日には木陰でじっと過ごします。
この他にも、色覚がなく視力が悪いことや、動かないことが捕食者に見つからないカモフラージュになっていることも、彼らのスローライフを形作っています。
人間にどれだけ怠けていると言われようが、笑みすら浮かべ自分の人生を生きるナマケモノ。
何もかもが急速に過ぎる現代社会に生きる我々がナマケモノに学ぶことは多いはずです。
フタユビナマケモノの生態
生息地
標高2,400mまでの、低地、山地の熱帯雨林に生息します。
スリナムやフランス領ギアナではマングローブ林でも見られます。
形態
体長は53~80㎝、体重は4~10㎏でしっぽはありません。
カーブしたかぎ爪は前肢に2本、後肢に3本ずつあり、一生伸び続けます。
歯も一生伸び続け、前方には犬歯状の歯が上下2本ずつ生えています。
体毛にはガや藻類が共生しており、一種の生態系を作り上げています。
食性
葉や花、果実などの植物質を食べます。
捕食者にはジャガーやピューマ、猛禽類や爬虫類などが知られています。
行動・社会
夜行性と考えられていましたが、日中も活動するようです。
1日の多くは動かずに過ごしますがいつも寝ているわけではなく、実際の睡眠時間1日に8時間前後です。
一生のほとんどを樹上で過ごし、木々の移動や排泄の際にのみ地上に降ります。
彼らは筋肉量が少ないため、震えることができません。
防寒は被毛と太陽に頼っています。
繁殖
交尾も出産も樹上で木にぶら下がりながら行われます。
メスは約10ヵ月の妊娠期間ののち、体重300~400g、体長25㎝の赤ちゃんを1匹産みます。
赤ちゃんは生後1週間ごろから母親が食べているものを食べるようになり、1歳ごろまで母親とともに行動します。
性成熟にはオスが4~5歳、メスが3歳ごろに達します。
寿命は飼育下で20年以上です。
人間とフタユビナマケモノ
絶滅リスク・保全
フタユビナマケモノはその分布域の広さから絶滅はあまり懸念されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、個体数は減少傾向にあるとされています。
主な脅威は農地や牧草地の拡大とそれに伴う野焼き、探鉱などによる生息地の破壊です。
ペットを目的とした密猟もあるようですが、その影響はよくわかっていません。
動物園
フタユビナマケモノは、日本で見られる唯一のナマケモノです。
全国各地の動物園の他、神奈川県のカワスイ 川崎水族館や、大分県の大分マリーンパレス水族館 うみたまご、といった水族館でも飼育されています。