アメリカバクの基本情報
英名:Lowland Tapir
学名:Tapirus terrestris
分類:奇蹄目 バク科 バク属
生息地:アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、フランス領ギアナ、ガイアナ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ベネズエラ
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
獏とバク
中国では獏という伝説上の生物が知られています。
ゾウの鼻、サイの目、ウシのしっぽ、トラの足をしているとされ、日本では悪夢を食べる生き物とされています。
さて、そんな伝説上の獏に見た目が似ていることからその名がつけられたのがバクです。
バクはサイやウマが属する奇蹄目に分類される動物で、アメリカバクをはじめアジアとアメリカ大陸に4種が知られています。
奇蹄目という点でバクはサイと似ており、ベリーズでは「山の牛」と呼ばれているように牛にも似ているかもしれませんが、足は大目に見てもトラには似ていません。
バクの足の指は、前足に4本、後足に3本生えており、その先は蹄で覆われています。
手足は広げることができ、ぬかるんだ地面でも沈まずに歩くことができます。
そんなバクの最大の特徴は獏のような長い鼻です。
ゾウほどではないにしろ、他の哺乳類と比べるとその鼻は非常に立派です。
この鼻は高いところのエサをとるのに役立つほか、水中ではシュノーケルの役割を果たします。
バクは泳ぎが上手です。
カバのように水底を歩くことができ、水生植物を食べることもあります。
特にアメリカバクは泳ぎが非常に得意で、捕食者であるジャガーに襲われた時などは水中に飛び込んで振り切ります。
いくらネコ科でも特に泳ぎが得意なジャガーとはいえ、長い時間潜ることはできませんし、水中でバクほどの大物を狩ることはできません。
また、バクはにおいを消すためにも水に入ると考えられています。
このように捕食者から逃げるという点で、水はバクの生活には必須の要素です。
様々な動物に似たバクですが、よく「原始的な動物」と紹介されることがあります。
これは化石の研究から彼らが3,500万年もの間、ほとんど姿を変えていないとされているからです。
中国の歴史の長さをはるかに超える時間を生きてきたバク。
名前は獏からきているものの、バクの方が存在としては実は大先輩だったのでした。
アメリカバクの生態
生息地
アメリカバクは南米の低地熱帯雨林や湿潤沼沢林など、湿潤で時に冠水するような、水にすぐアクセスできる環境で暮らします。
季節的に乾燥する地域にも住むことができ、ある程度の環境の変化には耐えられるようです。
形態
体長は1.8~2.5m、肩高は77~108㎝、体重は150~320㎏、尾長は5~10㎝で、南米では最大級の哺乳類です。
頭から肩にかけてのタテガミが特徴的です。
食性
ブラウザーでもありグレイザーでもある彼らは、葉や果実の植物を主食とします。
夢は食べません。
捕食者にはジャガーがいます。
行動・社会
主に単独性です。
夜に活発に活動し、昼間は木陰などで休息します。
生息地には水の他、ミネラルを豊富に含むソルトリックがある場所が重要となります。
繁殖
メスは400日近い妊娠期間ののち、通常1頭の子供を産みます。
子供の体には大人とは異なり水平方向に白い模様が伸び、カモフラージュの役割を果たすとされています。
子供は生後6~8ヵ月で離乳し、1.5歳で独立していきます。
性成熟はメスでは2~3年とされています。
寿命について、飼育下では35年生きた個体が知られています。
人間とアメリカバク
絶滅リスク・保全
アメリカバクの個体数は現在も減少中であると推測されており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定され、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅱに記載されています。
生息地の減少や肉を目的とした密猟、ロードキル、家畜との競合などが脅威とされています。
動物園
アメリカバクには全国10以上の動物園で会うことができます。
兵庫県の神戸どうぶつ王国、愛媛県のとべ動物園と長崎県の長崎バイオパークでは、アメリカバクだけでなくマレーバクにも会うことができます。
彼らを見てぜひ想像上の獏の姿を思い浮かべてみてください。