キタコアリクイの基本情報
英名:Northern Tamandua
学名:Tamandua mexicana
分類:有毛目アリクイ科コアリクイ属
生息地:ベリーズ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、ペルー、ベネズエラ
保全状況:LC〈経度懸念〉
樹上の蟻食い
中米から南米北部にかけて生息するキタコアリクイは、背中にかけてのVの字の模様から「ベストを着たアリクイ(Vested Anteaters)」と呼ばれることもあります。
樹上性が強く、しっぽは把握力があり枝に巻き付けるなどして移動を安定させます。
そんな彼らは、名前の通りアリやシロアリを専門に食べる動物です。
1日に50~80の巣を訪れ、1日に9,000匹近くのアリやシロアリを食べます。
そのため、キタコアリクイの体には蟻食に関する様々な特徴を見ることができます。
例えば、彼らの口はペン先ほどしか空きませんが、そこから伸びる40㎝近くにも伸びる舌は、粘り気のある唾液にコーティングされており、獲物であるアリやシロアリを逃がしません。
こうした獲物と採食方法をとるため、彼らには歯が必要ありません。
アリやシロアリを食べる動物はナマケグマやアードウルフなどのように歯が少なくなる傾向にありますが、キタコアリクイには歯が一本もありません。
蟻食いの特徴は手足にも現れます。
特に前肢の爪は4~10㎝ほどにもなり、アリやシロアリの巣を壊す際だけでなく、捕食者などとの戦いの際にも使われます。
この爪は移動の際に邪魔になるようで、彼らは爪を手の内側にしまって歩くナックルウォークという独特の歩き方をします。
嗅覚が鋭い彼らは、においでエサを探知しますが、同じコロニーのアリやシロアリを区別なく食べているわけではありません。
彼らは攻撃力のある兵隊アリを避けて脆弱な個体を選んで食べていると言われています。
また、防御のために特殊な物質を出すハキリアリやグンタイアリなどの一部のアリは嫌って食べないようです。
こうした特徴を持つキタコアリクイを含むアリクイの仲間は、アリやシロアリを専門に食べる動物が到達する一種の極地にいるといえます。
キタコアリクイの生態
生息地
キタコアリクイは熱帯から亜熱帯にかけて、乾燥林や湿潤林、落葉林と常緑林の混交林、二次林、マングローブなどに生息します。
標高2,000mまで見られますが、標高1,000m以下で見られることがほとんどです。
形態
体長は47~77㎝、体重は3~6㎏で、近縁のミナミコアリクイよりやや小さくなります。
しっぽは40~67㎝になり、その先には毛が生えていません。
前肢には4本の爪が生えており、第三指の爪が最長となります。
一方、後肢には5本の爪が生えています。
食性
アリとシロアリを主食としますが、果実やハチ、ハチミツなどを食べることもあるようです。
捕食者にはジャガーやヘビ、猛禽類が知られています。
行動・社会
単独性のキタコアリクイは主に夜行性ですが、日中活動することもあります。
活動時間は8時間ほどで、それ以外は木の洞などで休息します。
行動圏は他個体と重複するようです。
同種他個体や捕食者と地上で対峙したとき、彼らは両足としっぽで直立し、威嚇のポーズをとります。
また、しっぽの基部にある腺からスカンクの4倍くさいとお言われるにおいを分泌します。
繁殖
繁殖は年中行われます。メスの妊娠期間は130~190日で、一度の出産で1頭の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんは移動の際、母親の背中におんぶされます(ナマケグマもクマでは唯一母親が子をおんぶします)。
また、母親の食事の際は樹上に置いて行かれます。
子供は1歳ごろまで母親とすごし、その後独立していきます。
寿命は飼育下で約10年です。
人間とキタコアリクイ
絶滅リスク・保全
キタコアリクイの個体数のトレンドは不明ですが、絶滅はそこまで懸念されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
地元民に肉目的で狩猟されたり、エクアドルではイエイヌを襲うという迷信から迫害されたり、メキシコ南部ではペットとして飼われたりしています。
動物園
キタコアリクイを日本で見ることはできません。
近縁のミナミコアリクイには神戸どうぶつ王国など各地方の動物園で見ることができます。