書籍情報
書名:霊長類 消えゆく森の番人
著者:井田徹治
発行年:2017年
価格:1,020円(+税)
ページ数:237ページ
危機にある霊長類
各国で見てきた霊長類保護の現場からの報告を元に、どうしたらこの地球上で人間と、われわれに最も近い親類が末永く暮らし続けてゆくことができるのか、ひいては人間が地球の生態系を守りながら、末永く暮らしてゆくにはどうしたらいいのかを考えようというのが本書の狙いである。
本書は、環境と開発の問題をライフワークとし、『生物多様性とは何か』『鳥学の100年』などの著書を持つ、共同通信社編集委員の井田徹治氏によるものです。
引用にあるように、井田氏は霊長類が住むアフリカ、マダガスカル、アジア、南米を回り、そこに住む数々の霊長類の現状を伝えることで、人間とサルとの共生について、私たちに考えさせてくれます。
本書に出てくる具体的な数字は、読者を圧倒します。
〇種が絶滅の危機にある、森林はかつての〇%にまで減っている、〇匹しか残っていない、〇匹が今年死亡したなどなど、数字を通して私たちは霊長類の世界の現状を見せつけられます。
そして、数字と共に、霊長類の危機的状況の背景について淡々と知らされます。
狩猟、密輸、森林の破壊、政府の腐敗、貧困……。
このように目をつむりたくなる現状があぶり出される一方で、霊長類との共生を目指す人たちや保全活動などについても本書では取り上げられています。
霊長類の研究者やリハビリ施設でボランティアをする人、植樹活動、エコツーリズムなど、自然を守る人間もたくさんいることは、世界にとって救いです。
しかし、このような活動がありながらも、霊長類たちは依然として絶滅の危機にあります。
まずは私たち一人一人が現状を知る、これが霊長類、ひいては自然と末永く暮らすための第一歩なのではないでしょうか。
本書はそのための一冊と言えます。
私たちも加害者
本書を通じて筆者が訴えたかったことのひとつは、遠いアフリカ・コンゴ川流域やマダガスカル、ボルネオやアマゾンの熱帯林で起こっていることが日本人の生活と密接につながっているという事実である。(頁232)
読者は、本書を通じてこのことを感じずにはいられません。
それほど、霊長類が危機的状況にある原因の一つ、自然の破壊に、遠く離れた日本に住む私たちも知らず知らず加担してしまっているのです。
私たちが日々消費する化粧品や食品、今やだれもが持っているスマホやパソコン、そして電池や宝石などなど。
これらに使われる油や鉱物は、実際に霊長類が住む場所からやってきます。
私たちの消費によって、霊長類の住む場所が奪われ、自然が破壊されているのです。
このことを一体どれだけの日本人が知っているでしょうか。
霊長類の危機的状況を知る、これは私たちが犯してしまっていることを知ることに他なりません。
そして、現状の打開は知った後にしか起きません。
私たちは自然と共に生きています。自然がなければ生きていくことができません。
これからも自然と長く付き合っていくために、現状を知り、共生の道を探っていかなければならないと思います。
本書では、当サイトでもご紹介しているムリキやスローロリス、アカウアカリ、ゴールデンライオンタマリン、インドリなど様々なサルたちが登場します。
これらのサルへの理解をより深めるためにも、本書はオススメの一冊です。
新書なので、お求め安くなっていると思います。
是非一度読んでみてください。