アメリカアカオオカミの基本情報
英名:Red Wolf
学名:Canis rufus
分類:食肉目 イヌ科 イヌ属
生息地:アメリカ合衆国
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
参考文献
最も絶滅に近い肉食動物
オオカミよりも小さく、スレンダーで毛が短いアメリカオオカミ。
かつてアメリカの中南部から東部にかけて広く生息していた彼らは、今やたった20頭以下しか生存していません。
一度は再生しかけた彼らが今まで歩んできた道のりを振り返ってみましょう。
アメリカアカオオカミは世界中のオオカミと同じく、家畜を襲う害獣として特に19世紀以降、過度な駆除の対象となってきました。
これに加え、森林伐採や道路の建設などによる生息地の破壊のために、1960年代までにその数は激減しました。
そこで1967年、彼らは1973年に制定される「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(Endangered Species Act:ESA)」に先立つ法(the Endangered Species Preservation Act)により、絶滅危惧種に指定されます。
そして1973年には、合衆国魚類野生生物局(U.S. Fish & Wildlife Service:USFWS)により飼育下繁殖プログラムが開始されます。
その後1980年に彼らの野生絶滅が宣言されるまで、ルイジアナ州とテキサス州に残っていた約400頭のオオカミが捕獲されましたが、そのうち真のアメリカアカオオカミはたった17頭だけでした。
彼らはワシントン州のポイント・ディファイアンス動物園・水族館で飼育され、うち14頭が繁殖に成功します。
1987年、アメリカアカオオカミが再び野生に帰える日がやってきます。
飼育下で育てられた4つのペア、計8頭がノースカロライナのアリゲーターリバー国立野生生物保護区に放たれたのです。
翌年、野生で初めての繁殖が観察されてから、困難はありつつも個体数は順調に増え続けました。
一方、テネシー州におけるもう一つの再導入の試みは失敗に終わります。
1992年から1998年にかけて、グレート・スモーキー山脈国立公園に37頭のアメリカアカオオカミが放たれましたが、うち26頭が伝染病や餌生物の少なさなどにより死亡したり捕獲されたりしています。
また、野生で生まれた32頭のうち生き残ったのは5頭だけ。
最終的に生き残った個体はすべて捕獲され、同地区における再導入計画は頓挫しました。
とはいえ、ノースカロライナではその数は確かに増え続けていました。
2006年には130頭を超えるまでになり、アメリカアカオオカミの再導入は哺乳類で最も成功した事例とされるまでになりました。
しかし、栄光は長く続きませんでした。
個体数が減少に転じ始めたのです。
その理由は人間、特に土地の所有者との軋轢にありました。
野生に帰ったアメリカアカオオカミが利用する土地の7割は私有地でした。
自分の土地を管理されることに耐えられなくなった人々はアメリカアカオオカミをひそかに殺し始めたのです。
このような事態を受け、USFWSは方針を変更します。
それは野生のアメリカアカオオカミを800㎢という彼らを20~30頭しか養いえない政府所有地に押し込め、それ以外を歩く個体は飼育下に戻すか、保護を与えない、そして再導入は停止、現時点で飼育下での繁殖を優先させるという内容でした。
このようなUSFWSの方針転換は、人間を満足させても、アメリカアカオオカミの状態をより悪化させることとなりました。
最終的にこの状況には司法も介入し、結局USFWSは再導入を再開させます。
それでも現在、アメリカアカオオカミは野生に15頭程度、飼育下では250頭しかいません。
人間に翻弄され続けるアメリカアカオオカミ。彼らがかつてのように、優雅に自然を歩くことができるのはまだまだ先かもしれません。
アメリカアカオオカミの生態
生息地
現在、アメリカアカオオカミはアメリカ・ノースカロライナ州の一部にしか生息していません。
密な植生を必要とし、山地や低地、沼地に生息します。
形態
体長は1~1.3m、肩高は60~80㎝、体重は20~40㎏、尾長は30~42㎝でオスの方が大きくなります。
オオカミよりも小型ですが、脚や耳が長く、毛は短いです。
食性
小型~中型の哺乳類を主食とし、アライグマやオジロジカ、ヌマチウサギ、マスクラット、ヌートリアなどを食べます。
特に子供の潜在的な捕食者としては、オオカミやコヨーテ、ボブキャットなどがいます。
行動・社会
アメリカアカオオカミは夜行性ないし薄明薄暮性です。
通常5~8頭の繁殖ペアとその子供からなるパックと呼ばれる群れを作ります。
なわばり性が強く、遠吠えやにおいなどで他の群れに存在をアピールします。
繁殖
繁殖は1~3月にかけて行われます。
メスは約2カ月の妊娠期間ののち、通常3~6頭、最大12頭の赤ちゃんを巣穴に産みます。
赤ちゃんは母親だけでなく、他の群れのメンバーからも育てられます。
子供は2歳ごろ群れを離れていきます。
寿命は野生では5~6年、飼育下では最長14年です。
人間とアメリカアカオオカミ
絶滅リスク・保全
一度野生で絶滅したアメリカアカオオカミは、現在IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
密猟の他、脅威となっているのが、コヨーテとの交雑です。
また、コヨーテの雑種との交雑も知られており、遺伝的な問題が指摘されています。
アメリカアカオオカミはコヨーテよりも大きいですが、コヨーテと間違えられて殺されることもあるようです。
動物園
アメリカアカオオカミを日本で見ることはできませんが、アメリカでは40以上の施設で飼育されています。
ポイント・ディファイアンス動物園・水族館