クラカケアザラシの基本情報
英名:Ribbon Seal
学名:Histriophoca fasciata
分類:食肉目 アザラシ科 クラカケアザラシ属
生息地:日本、ロシア、アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉

参考文献
氷と外洋の鰭脚類
鰭脚類はなかなか種の識別が難しいですが、クラカケアザラシの場合は一目瞭然。
黒い体に映える白い模様が特徴的です。
日本では、これが馬具である鞍にみえることからクラカケアザラシと呼ばれていますが、リボンを付けたようにみえることから英語では“Ribbon Seal”と呼ばれています。
白い世界では目立ってしまいそうな体色ですが、捕食者に襲われる危険性が比較的少ないのか、警戒心がそれほどなく、ヒトが近寄っても逃げない場合もあるそうです。
そんなクラカケアザラシは流氷に依存した鰭脚類です。
冬から夏の初めにかけて流氷がある季節は、繁殖や育児、休息など多くの時間を流氷の上で過ごします。
特に海面の8~9割を氷が占める場所を好み、海岸や定着氷に上がることはありません。
ちなみに、出産の場としては、きれいで白くて定着せず割れて漂う氷が好まれるようです。
そして夏になり氷が溶けると、今度は外洋で暮らすようになり、この時は陸に上がることはないとされています。
潜水深度は季節によって変わり、流氷がある時には浅く100m未満、外洋にいるときは600mまで潜ることがあります。
ところで、主に単独性であり、個体同士の関係性は弱いクラカケアザラシですが、音声によるコミュニケーションが存在することが知られています。
鰭脚類の場合、発声した際に空気が出ないことから、水中では陸上のように声帯を震わせて発声していないと推測されています。
特にセイウチとクラカケアザラシでは、気管に接続する気嚢の存在が知られており、これを震わせることにより水中で音を出しているのではと考えられています。
しかも、彼らの音声の特徴は例えばベーリング海とチュクチ海に生息する個体では異なることがわかっています。
音声はおそらく繁殖に使われる可能性が高いですが、繁殖期以外でも個体同士のコミュニケーションに使われているのかもしれません。
彼らの生態には未だよくわかっていない部分が多く、彼らの模様のようにははっきりしていません。

クラカケアザラシの生態
生息地
北太平洋に位置する、ベーリング海、チュクチ海、ボフォート海、オホーツク海に生息します。
日本でも3月から4月にかけて、流氷の南下とともに北海道東部にやってきます。
形態
体長は150~175㎝、体重は70~90㎏で、大きさに性差はあまり見られません。
一方、体色はオスよりメスの方が明るい傾向にあります。
模様は生後12週ごろから見られ始め、3年ほどかけてはっきりした模様になっていきます。
換毛期は繁殖期と重なります。

食性
タラ科などの魚類やイカ、タコといった頭足類、甲殻類などを食べます。
幼獣や若い個体は甲殻類を好み、大人になるにつれて魚類を主食とする食性になるようです。
捕食者にはシャチやホッキョクグマ、セイウチ、オンデンザメが知られています。


行動・社会
昼行性のクラカケアザラシは、主に単独性であるとされています。
繁殖期は複数が集まることがありますが、相互の関係は希薄です。
交尾は流氷上で行われます。
繁殖
出産は3月から5月にかけて見られます。
メスは2~4ヵ月の着床遅延を含む11ヵ月の妊娠期間ののち、70~100㎝、6~10㎏のホワイトコートの赤ちゃんを1頭産みます。
赤ちゃんは3~4週で離乳し、その頃母親は発情を再開します。
性成熟にはオスが3~5年、メスが2~4年で達します。
寿命は20~30年です。

人間とクラカケアザラシ
絶滅リスク・保全
ベーリング海およびオホーツク海ではロシアにより商業的な狩猟が行われていました。
1950年代にはオホーツク海で毎年2万頭が捕獲されていましたが、1990年代に狩猟が禁止となって以降、それまで減少していた個体数は増加し始めます。
現在全個体数は40万頭近くと見積もられており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
現在の脅威としては、混獲や餌生物の減少の他、地球温暖化が挙げられます。
特に海氷に依存したクラカケアザラシにとっては、温暖化の影響が懸念されています。

動物園
かつて国内ではアクアマリンふくしまが唯一クラカケアザラシを飼育していましたが、その個体が亡くなった現在、日本の動物園・水族館で彼らを見ることはできません。
北海道では野生個体を見ることができますが、その生態上、沿岸から見ることは難しいでしょう。
