ローンアンテロープの基本情報
英名:Roan Antelope
学名:Hippotragus equinus
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ブルーバック属
生息地:アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、コートジボワール、エチオピア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、マラウィ、マリ、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、南アフリカ、南スーダン、スーダン、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ、エスワティニ
保全状況:LC〈軽度懸念〉
子供は置き去り
草食動物にとって出産は非常に危険です。
特に出産したばかりの状態は、捕食者に見つかれば一貫の終わり。
だからこそ、母親は捕食者ににおいで気付かれないよう、赤ちゃんの体に付いた膜を食べる行動を見せたりします。
出産の後に続く子育てもまた、とてもリスキーです。
いくらすぐに立ち上がるとはいえ、生後間もない子供は移動力に乏しく、捕食者の格好の餌食です。
子供が生まれてからの初期の子育てにおいて、草食動物では2つのパターンが見られます。
一つは追従型(フォロワータイプ)。
ウマやヒツジに見られるタイプで、子供は生まれてすぐに立ち上がった後、常に母親について移動します。
もう一方は置き去り型(ハイダータイプ)で、キリンやウシ、サイなどに見られます。
このタイプでは、子供は茂みなどに隠され、母親は日に何度か授乳のためだけにそこを訪れます。
双方メリットデメリットがあるでしょう。
追従型は子が常に母親の近くにいるので、母親からすると子供を守りやすくなります。
一方、母親の生活は子供に依存するため、採食などの他の活動に影響が出かねません。
反対に置き去り型では、子供が捕食者に襲われるリスクが上がる一方で、母親は採食に時間を充てることができます。
また、エサや異性をめぐる大人の争いに子供を巻き込む心配もありません。
それでは、アフリカに生息する大きなウシ科動物、ローンアンテロープの場合はどうでしょうか。
タテガミが生える彼らは角を除けばウマに似ていますが、彼らは置き去り型です。
メスは出産の1~2週間前に群れを離れ、出産に備えます。
これは生まれてきた子が確実に母親を認識するために重要です。
そして出産して1週間もすれば、母親は子供を隠して群れに戻り、授乳のためだけに子供に会いに行きます。
ローンアンテロープでは、子供は生後4~5週まで隠され、その後子供も母親の群れに合流します。
ちなみにこの時、群れに他のメスの子供もいれば、フランス語で保育園を意味するクレッシェと呼ばれる子供だけの群れが大人の群れに交じって作られることもあります。
動物の世界でも、育児にはいろんなやり方があるのです。
特集:子育てする動物と動物心理学研究者たち 第1部 ウマの子育て | 瀧本(猪瀬)彩加・上野将敬・堀裕亮・中道正之
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Roan antelope | Brent Huffman, www.ultimateungulate.com
ローンアンテロープの生態
生息地
ローンアンテロープは、サバンナウッドランドや草原など、背丈の高い草が生える場所に生息します。
水がないと生きていけないので、水資源から4㎞と離れて生活しません。
エスワティニでは一度姿を消しましたが、再導入の結果今では定着しています。
形態
体長は220~265㎝、肩高は140~160㎝、体重はオスが260~300㎏、メスが225~275㎏、尾長は60~70㎝で、アフリカに生息するウシ科動物ではアフリカスイギュウ、イランドに次ぐ大きさです。
タテガミとひげが特徴的です。
角は雌雄に生え60~100㎝になりますが、オスの方が大きくて丈夫な角を持ちます。
食性
背丈が15~150㎝の草を主食とします。
木の葉を食べることはあまりません。
捕食者にはライオン、ヒョウ、ブチハイエナ、リカオンが知られています。
行動・社会
朝方や夕方に活発になります。
35頭までの群れで暮らしますが、6~15頭が一般的です。
群れは一頭の大人のオスに率いられます。
一方、生まれた群れを離れた若いオスは2~5頭の若オス同士の群れで暮らします。
5~6歳で大人のオスに挑み、ハーレムを奪おうとします。
闘争の際、オスは前肢の膝をつき、角で戦います。
闘争で死ぬことは稀です。
ハーレムは固定したなわばりを持ちませんが、オスはハーレムの周囲300~500mを守ります。
彼らは最高時速57㎞で走ることができます。
繁殖
繁殖に季節性は見られません。
メスは産後3週間以内に発情を再開させます。
妊娠期間は260~280日で、通常1頭の赤ちゃんが生まれます。
離乳は生後4~6ヵ月で見られます。
性成熟は2.5~3歳で見られ、メスが群れに留まる一方オスはその頃独立していきます。
寿命は野生で最長17年です。
人間とローンアンテロープ
絶滅リスク・保全
ローンアンテロープは、肉を目的とした狩猟や、人間の定住地、綿などの農地の拡大が原因で、かつての生息地の少なくない部分から姿を消しました。
ブルンジやエリトリアでは絶滅し、ガンビアでもおそらく絶滅したとされています。
生息する範囲のわりに個体数は少なく、現在の全個体数は7万6千頭と推測されており、その半数程度が保護区で生活しています。
現在IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価ですが、全体としては減少傾向にあるとされています。
動物園
ローンアンテロープには、日本では和歌山県のアドベンチャーワールドと兵庫県の姫路セントラルパークで見ることができます。